ビジネスの原理原則を考える(小宮一慶先生 経営コラムVol.91)

本コラムでは、『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座』等の著書を持ち、日経セミナーにも登壇する小宮一慶先生が、経営コンサルタントとしての心得やノウハウを惜しみなくお伝えします。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.141(2025.7)に掲載されたものです。


株式会社小宮コンサルタンツ 代表取締役CEO
小宮 一慶 先生

トランプ関税で世界経済の先行きに不安が広がっています。国際情勢も不穏です。そんな状況ですが、いやそんな状況だからこそ、ビジネスや仕事の原点や原理原則をしっかり持たなければいけないと考えています。

当社のコンサルタントによく言うことは、「もし、お客さまの所へ行って会社の見方が分からなかったら、少なくとも『お客さま第一』かどうかだけを見てくるように」と話します。ピーター・ドラッカー先生も、「企業の一義的価値は企業外部にある」とおっしゃっています。「お客さま第一」つまり、「外部志向」かどうかが、まずもってビジネスがうまくいくかどうかの一丁目一番地です。

それと同時に、「働く人が幸せ」かどうかが大切です。

私の人生の師匠の曹洞宗円福寺の故藤本幸邦老師は「政治も経済も人を幸せにする道具」だとおっしゃっていました。人の幸せというものがとても重要なのです。

私は、会社が与えられる幸せは二つあり、一番目が「働く幸せ、働きがい」、二番目が「経済的幸せ」です。この順番が大切で、経済的幸せももちろん大事ですが、働きがいを感じて働けるかはもっと大切なことなのです。

当社のお客さまの中には、現場で働く若い社員たちが、会社に来るのが楽しいので「朝が来るのが待ち遠しい」、「ディズニーランドに行くより会社に行くほうが楽しい」という会社があります。結構厳しい現場仕事をしていますが、それでもそう言うのです。従業員180人ほどの会社ですが、離職率も格段に低く、辞めた人もここ数年で5人ほど戻ってきました。その中の一人は、息子を自社に入社させました。働くことが楽しいからです。

その会社では、働く喜びを感じてもらうために、「お客さまが喜ぶ小さな行動」の目標を毎月立て、それを実行し、本人や上司が評価するということを繰り返しています。たとえば、「現場作業が終わったら、その周りを5分間掃除する」や「3コールでとっていた電話をこれからは2コールにする」などです。最初は抵抗勢力もいましたが、数年を経てお客さまの喜びや働く人の働きがいが増えたことで、定着しました。

今では、お客さまが喜ぶ小さな行動の他に、働く仲間が喜ぶ小さな行動の目標も立てています。こちらも定着してからは、社内のチームワークが格段に良くなったことは言うまでもありません。もちろん業績は抜群で、中小企業ながら待遇も群を抜いています。

ビジネスの原点は、「お客さま第一」と「働く人の幸せ」です。これを同時に実現することです。こんな時代だからこそ、それぞれの職場でこれを実現したいものです。

小宮 一慶

こみや・かずよし/京都大学法学部卒業。 米国ダートマス大学タック経営大学院留学(MBA)、東京銀行、岡本アソシエイツ、 日本福祉サービス(現: セントケア)を経て独立。名古屋大学客員教授。 企業規模、業種を超えた「経営の原理原則」をもとに幅広く経営コンサルティング活動を 展開する一方で、年100回以上講演を行っている。 『稲盛和夫の遺した教訓』(致知出版社)など著書は150冊以上で、経済紙等にも連載を抱える。

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