米国経済は景気後退に入ったか(小宮一慶先生 経営コラムVol.90)

本コラムでは、『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座』等の著書を持ち、日経セミナーにも登壇する小宮一慶先生が、経営コンサルタントとしての心得やノウハウを惜しみなくお伝えします。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.140(2025.6)に掲載されたものです。
株式会社小宮コンサルタンツ 代表取締役CEO
小宮 一慶 先生
トランプ関税で世界景気に不確実性が増していますが、震源の米国経済の雲行きも怪しくなってきました。まず、今年1-3月の米国の実質GDPの速報値がマイナス0.3%と発表されました。これは実に3年ぶりのマイナス成長です。
トランプ大統領は、このマイナス成長は「(前大統領の)バイデン氏のせい」と自身の責任を回避していますが、関税政策の影響もないとは言えません。不安心理が増大していることもありますが、関税が上昇する前の駆け込みで米国の輸入が増えたことも影響しています。GDP計算上は輸入の増加はマイナスに働きます。
そして、このところの2つの指標の悪化が心配されます。ひとつは「消費者信頼感指数」です。これは、景気や雇用情勢などについて消費者に調査した指数です。1985年を100として、毎月の数字を発表しています。米国では、個人消費がGDPの約7割を支えており、個人消費の動向を知る上でとても参考になる指数です。
その指数が、今年1月には105.3、2月は100.1だったのが、3月には93.9、4月は86.0と急落しています。今後、個人消費が弱含む可能性を示唆しています。
もうひとつの指標は「米ISM景気指数」です。これは、企業(製造業)の景況感を表す指数で、50を超なら景況感は良化、50を切れば景況感の悪化を表します。1月、2月は50を超えていましたが、3月、4月は49.0、48.7とわずかずつですが悪化しています。つまり、消費者の側からの指数も、企業側からの指数も、3月、4月は悪化しているということです。
一方、消費者物価は3月で前年比2.4%の上昇と2月の2.8%から伸び率は鈍化しています。中央銀行であるFRBの目標値の2%に近づきつつあります。また、雇用の情勢も、失業率は4月で4.2%と3月と変わらず、絶好調とまでは言えないものの安定しており、世界中のエコノミストたちが注目する「非農業部門雇用増加数」も4月が17.7万人とまずまずの数字が出ています。
この状況で、米国の政策金利は、現状4.25~4.50%と高く、下げる余地はかなりあります。トランプ大統領は、FRBのパウエル議長に対し金利を下げることを強く要望しており、一時は議長の「クビ」発言が出るほどでした。
FRBとしては、現状は利下げには慎重ですが、景気後退のシグナルが今よりはっきりすれば、躊躇なく政策金利を下げるものと考えられます。
いずれにしてもトランプ大統領としては、雇用増加と給与アップを図ることと、今後はバイデン氏を言い訳にできないGDPを順調に伸ばすことが必要で、来年秋に実施される中間選挙までにその結果を出す必要があります。

小宮 一慶
こみや・かずよし/京都大学法学部卒業。 米国ダートマス大学タック経営大学院留学(MBA)、東京銀行、岡本アソシエイツ、 日本福祉サービス(現: セントケア)を経て独立。名古屋大学客員教授。 企業規模、業種を超えた「経営の原理原則」をもとに幅広く経営コンサルティング活動を 展開する一方で、年100回以上講演を行っている。 『稲盛和夫の遺した教訓』(致知出版社)など著書は150冊以上で、経済紙等にも連載を抱える。