トランプ関税で大揺れの日本経済、世界経済(小宮一慶先生 経営コラムVol.89)

本コラムでは、『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座』等の著書を持ち、日経セミナーにも登壇する小宮一慶先生が、経営コンサルタントとしての心得やノウハウを惜しみなくお伝えします。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.139(2025.5)に掲載されたものです。
トランプ米大統領が、日本車を含む外国車に25%の追加関税を課すとともに、日本には24%が課される相互関税を発表し、その後、相互関税は90日の猶予期間を設けましたが、株式市場が大きな動揺を見せています。日経平均株価だけでなく、米国のNYダウも景気後退懸念から大幅な下落を経験しています。資金は国債などの安全資産に回避する動きが顕著となり、長期金利は一時大幅下落(国債価格は上昇)しました。
特に日本は自動車産業の日本経済に与える影響は非常に大きいです。米国への輸出が大きい上にすそ野の広い産業だからです。私の長年のお客さまにも自動車部品メーカーがあり、米国やメキシコだけでなく中国や東南アジアにも生産拠点を持っており、対応に追われています。それでなくても強くない日本経済の先行きが大変懸念されます。
微妙な動きをしているのはドル・円相場で、一時143円台まで円高方向に触れましたが、この原稿を書いている時点では、147円近くまで戻しています。米国の中央銀行であるFRBは、景気後退とインフレ対応という難しい立場に立たされており、利下げか利上げ、あるいは現状維持かが読みづらい状態です。インフレ下の景気後退という「スタグフレーション」にも陥りかねない懸念があります。
一方、今回の株価の大幅下落などで、日銀は利上げの時期をこれまで以上に慎重に見極める必要に立たされました。株価が落ち着けば利上げでしょうが、難しい判断を迫られそうです。
カナダやEU、中国などは、対抗措置として追加関税を米国製品に課すことを表明していますが、一方、日本政府は徹底抗戦の構えはなく、地道に説明するという弱腰なスタンスです。コメや為替レートで譲るということかもしれませんが、今後の展開に大きな不安を残します。
リスクマネーの逃避などで資金の動きが不安定になっている中で、先週末、当社の1階にあるマンション仲介会社のマンション価格を表示するウインドウを見て、驚きました。「7億円」という東京のマンションバブルを象徴するような異常に高いマンションの広告が長い間出ていたのですが、それが一気に「6億3千万円」に引き下げられていたのです。もちろん、この1件だけを見てすべてのことを判断するのはとても危険ですが、ひょっとしたら東京のマンションバブルは崩壊し始めたのかもしれません。
いずれにしても、今後のトランプ政権の動き、それに対応する日本政府の動きや株式や為替、土地などの市場の動きを注意深く見ておく必要があることは言うまでもありません。

小宮 一慶
こみや・かずよし/京都大学法学部卒業。 米国ダートマス大学タック経営大学院留学(MBA)、東京銀行、岡本アソシエイツ、 日本福祉サービス(現: セントケア)を経て独立。名古屋大学客員教授。 企業規模、業種を超えた「経営の原理原則」をもとに幅広く経営コンサルティング活動を 展開する一方で、年100回以上講演を行っている。 『稲盛和夫の遺した教訓』(致知出版社)など著書は150冊以上で、経済紙等にも連載を抱える。