トランプ氏に見る リーダーシップと本当のリーダーのあり方(小宮一慶先生 経営コラムVol.88)

本コラムでは、『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座』等の著書を持ち、日経セミナーにも登壇する小宮一慶先生が、経営コンサルタントとしての心得やノウハウを惜しみなくお伝えします。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.138(2025.4)に掲載されたものです。


株式会社小宮コンサルタンツ 代表取締役CEO 小宮 一慶 先生

 米国のトランプ大統領の性格やリーダーシップについて、興味深い内容の記事が日経新聞の「大機小機」にありました。

 それはトランプ氏の自伝的映画にあったということなのですが、「気弱な青年」だったトランプ氏に辣腕弁護士が「勝利のための3つのルール」を教えたということです。①攻撃あるのみ、②非を認めるな、③劣勢でも勝利を主張して負けを認めるな、ということです(1月18日付日本経済新聞朝刊)。

 これまでのトランプ氏のやり方を見ているととても納得できることです。よくよく考えてみると、ロシアのプーチン大統領なども同類の人間です。とにかく「自分が正しい」ということを主張し続けます。そして、トランプ氏にしろ、プーチン氏にしろ、そのやり方で権力の頂点に上り詰めたわけです。

 しかし、私は、強いリーダーシップや勝利を得るために、上で述べた3つのことを皆さんに推奨しているわけではありません。これはあくまでも「気弱な青年」、言い換えれば弱者を鼓舞するための方法にすぎないと私は考えています。つまり、弱い人や社会的弱者は強者や権力者とそれなりに渡り合う必要があり、そのためには、ここで述べた3つのことが必要な場合もあると思います。ですが、それにより、弱者から強者になった場合には、同じやり方を続けるのは良くないことだと私は考えています。

 強者が強者の理論を振りかざし、弱者を力づくで従わせるのは人間として正しいとは考えられません。

 権力を握ったり、強い立場になった場合には、やはり「寛容」の心が必要です。論語に「恕」という言葉が出てきますが、許すということです。

 ずいぶん昔、高校生のときに私は般若心経の写経をしたことがありました。その中で、「空」の心というのは、「とらわれない、こだわらない、かたよらない」とありましたが、それと同時に「ひろい心」でもあるとありました。ここで言う「ひろい」とは「寛容」ということだと私は解釈しています。

 私も含めて企業の経営者や幹部、組織におけるリーダーも、ある意味、強い立場にいる人間です。もちろん、多くのリーダーは、実績を残すためにも強いリーダーシップを求めていると思いますが、それを得たら、やはり、素直や謙虚な気持ちになって、「これでいいのだろうか」という反省を行うことが大切です。もちろん、自身のリーダーシップの根幹までを変える必要がない場合も多いと思いますが、やはり、間違いは間違いでそれを訂正するという心構えも必要です。

小宮 一慶

こみや・かずよし/京都大学法学部卒業。 米国ダートマス大学タック経営大学院留学(MBA)、東京銀行、岡本アソシエイツ、 日本福祉サービス(現: セントケア)を経て独立。名古屋大学客員教授。 企業規模、業種を超えた「経営の原理原則」をもとに幅広く経営コンサルティング活動を 展開する一方で、年100回以上講演を行っている。 『稲盛和夫の遺した教訓』(致知出版社)など著書は150冊以上で、経済紙等にも連載を抱える。

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