コンプライアンスとガバナンス(小宮一慶先生 経営コラムVol.87)

本コラムでは、『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座』等の著書を持ち、日経セミナーにも登壇する小宮一慶先生が、経営コンサルタントとしての心得やノウハウを惜しみなくお伝えします。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.137(2025.3)に掲載されたものです。


株式会社小宮コンサルタンツ 代表取締役CEO 小宮 一慶 先生

 フジテレビの問題が取りざたされていますが、企業は上場、非上場にかかわらず、常に「コンプライアンス」と「ガバナンス」の双方について意識をしておく必要があります。

 コンプライアンスは「法令順守」です。ピーター・ドラッカー先生は、企業が社会で「存在」を許される条件は法令を守ることだと述べています。それは、法律とは、社会の人たちが平穏に暮らすための最低限のルールだからです。最高の規範ではないのです。例えば、法律で日本では車は道路の左側を通行すると定められています。私は免許を取って45年以上になり、ずっと車を左側通行させていますが、それで褒められたことは一度もありません。それは最低限のルールだからです。したがって法律を守らない企業は、存在さえ許されないとドラッカー先生は言うのです。それがコンプライアンスです。(ちなみに、企業が社会で「存続」を許される条件は、社会に有益な商品やサービスを提供し続けることです。)

 一方、ガバナンスとは、「企業統治」と訳されることが多いのですが、取締役会などで、必要な意見が出て、十分に議論がなされて、適正な結論が出るかどうかということです。カリスマ社長の意見には逆らえないというのはガバナンスが十分でないということです。小林製薬で紅麹の事件が発生した時にカリスマ会長がしばらく事件を公表しないようにと取締役会で発言し、すぐに公表すべきという社外取締役の意見が封殺されたと聞きましたが、ガバナンスが全く機能していないと言えます。人命にかかわることでもそうなのです。

 以前、ある会社の取締役会に社外取締役として出席していた時に、次のようなことがありました。業績が思わしくないということで、オーナー社長がその期の給与を返上すると発言しました。責任感のある立派な社長なのです。しかし、私は、そのことは十分に議論してからにして欲しいと発言しました。社長の行動は立派ですが、社長といえども勝手に決めてはいけないと思ったからです。それが前例になると、後の社長や他の役員も従わなければならないかもしれません。結局、結論は社長の言うとおりになりましたが、十分に議論がなされたかどうかが大切なのです。

 資質の高い取締役がいて、それが常に自由にかつ十分に取締役会で議論ができるということがガバナンスの根本なのですが、逆にそれが可能であれば、多くの場合で確率高く、正しい結論が出せるということです。これは企業の存続に大きく影響します。そういう観点でもガバナンスはとても重要なことなのです。

小宮 一慶

こみや・かずよし/京都大学法学部卒業。 米国ダートマス大学タック経営大学院留学(MBA)、東京銀行、岡本アソシエイツ、 日本福祉サービス(現: セントケア)を経て独立。名古屋大学客員教授。 企業規模、業種を超えた「経営の原理原則」をもとに幅広く経営コンサルティング活動を 展開する一方で、年100回以上講演を行っている。 『稲盛和夫の遺した教訓』(致知出版社)など著書は150冊以上で、経済紙等にも連載を抱える。

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