台湾での定点観察(小宮一慶先生 経営コラムVol.85)
本コラムでは、『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座』等の著書を持ち、日経セミナーにも登壇する小宮一慶先生が、経営コンサルタントとしての心得やノウハウを惜しみなくお伝えします。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.135(2025.1)に掲載されたものです。
株式会社小宮コンサルタンツ 代表取締役CEO 小宮 一慶 先生
台湾が好きで昨年も訪問しました。コロナの時期を除き、もう20年間ほど、年に一度くらいは台湾を訪れます。定点観察も兼ねています。
台北市内を歩いていると、以前とそれほど大きな変化はありません。いつものように少し雑然としているものの街には活気があり、八角などの、日本にはない香りがする飲食店が軒を並べています。現地の方は外食が主流なので、近所の人たちが、外からよく見える食堂で楽しそうに食事をする風景はいつも通りです。夜市ではカエルや蛇などの料理が売られています。高層ビルも建設が進み、新しいホテルもできています。
今回の訪問でいつもと違ったのは、台湾で最も高いビルの101で、89階の展望台にはドジャーズの大谷翔平選手の「50-50」の記念ボールが、ガードマンたちに守られて展示されており、写真を撮りたい人の長い列ができていたことです。101ビルも日本のゼネコンが建て、89階までを30秒程度で上る高速エレベータも日本製と、それだけでも日本人として誇りを感じるのですが、大谷選手のボールの展示は日本人としてとても誇らしい気がしました。
そんな台湾の状況ですが、政治的には緊張感が高まっています。中国との関係です。昨年1月の台湾総統選で反中国派の民進党の頼清徳氏が勝利したこともあり、中国は神経をとがらせています。前総統の蔡英文氏も民進党でしたから、統一を悲願としている中国は少なからずいら立っています。先日も中国海軍の艦船が台湾をぐるっと囲むような形で大規模な軍事演習を行うなど、挑発的な動きを活発化させています。
そうした中、台湾も国防を強化しています。最近も米バイデン政権から対空ミサイルの供与を受けました。4か月だった国民の兵役義務も1年に延長されます。ただし、中国との兵力差は格段に大きく、米国の関与なしには台湾の防衛は成り立たないことは明らかです。
そういった状況で、1月20日にはトランプ政権が登場します。「アメリカファースト」を標榜するトランプ政権ですから、台湾を見捨てないまでも、中台問題への関与を下げる可能性があります。
1949年に中国本土での共産党との争いに敗れて蔣介石が台湾に来てから、息子の蔣経国により1987年に解除されるまで長い間戒厳令下での生活を余儀なくされた台湾ですが、それ以降は自由主義を謳歌してきました。台湾ののびのびとした雰囲気が長く続くことを心から願っています。
小宮 一慶
こみや・かずよし/京都大学法学部卒業。 米国ダートマス大学タック経営大学院留学(MBA)、東京銀行、岡本アソシエイツ、 日本福祉サービス(現: セントケア)を経て独立。名古屋大学客員教授。 企業規模、業種を超えた「経営の原理原則」をもとに幅広く経営コンサルティング活動を 展開する一方で、年100回以上講演を行っている。 『稲盛和夫の遺した教訓』(致知出版社)など著書は150冊以上で、経済紙等にも連載を抱える。