トランプ政権の経済見通しと懸念(小宮一慶先生 経営コラムVol.84)
コラムでは、『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座』等の著書を持ち、日経セミナーにも登壇する小宮一慶先生が、経営コンサルタントとしての心得やノウハウを惜しみなくお伝えします。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.134(2024.12)に掲載されたものです。
株式会社小宮コンサルタンツ 代表取締役CEO 小宮 一慶 先生
トランプ氏が米国の次期大統領に選出され、来年1月20日に就任することとなりました。
トランプ氏の選出直後には、株高など市場は好感して反応しましたが、懸念ももちろんあります。一番は、中国との関係です。選挙期間中に中国製品に60%の関税をかけるとトランプ氏は発言していました。大統領就任直後にすぐに関税引き上げを行うかどうかは不明で、トランプ氏特有のブラフ(はったり)の可能性もありますが、中国に対する風当たりがバイデン政権時よりも強くなることは明らかです。
トランプ氏が前回大統領だった2017年から2020年を振り返ると、日本経済は米中摩擦の影響を大きく受けました。日銀が3か月に一度、企業の景況感を調査している「日銀短観」を見ると、そのことが顕著です。
前回トランプ氏が就任した2017年の翌年2018年の最初の3月調査では、大企業製造業は「24」とかなり良い数字でしたが、米中摩擦が激化した2019年の12月調査では「0」まで数値が下がりました。さらにコロナの影響が出る直前の2020年3月調査では「マイナス8」まで悪化しました。2018年度にはわずかにプラスだった実質GDPも2019年度にはマイナス0.8%となりました。
当時に比べて中国経済は、過剰生産と不動産不況のため大幅に減速感を強めています。そうした中で来年1月にトランプ政権が発足します。
米国経済は9四半期連続で拡大するなど比較的堅調ですが、中国経済はある意味「重症」です。それがさらにトランプ政権で下押し圧力がかかります。米国のみならず、中国経済に大きな影響を受ける日本経済、とくに製造業の失速が心配です。
また、トランプ氏は日本を含めた中国以外の製品への10%の関税も示唆しています。もちろん、日本経済には悪影響が出ます。関税は米国の消費者にも悪影響を及ぼすのですぐには導入しないと思いますが、トランプ氏の動きは読めない部分もあります。景気刺激策など、日本経済や米国進出の日本企業にもプラスの面もありますが、日本経済に不利なことが起こる可能性も小さくありません。
安全保障の問題も大きな懸念です。
日本に大きな影響を及ぼすのは台湾情勢です。中国は台湾へのプレッシャーを強めていますが、トランプ政権になり台湾への関心や関与がバイデン政権より落ちれば、中国がさらに台湾への関りを強め、場合によっては統一を早急に進める可能性もあります。もし紛争が起これば日本にも少なからぬ影響があることは容易に想像できます。
いずれにしても、トランプ氏の今後の発言や新政権の具体的政策に注目です。
小宮 一慶
こみや・かずよし/京都大学法学部卒業。 米国ダートマス大学タック経営大学院留学(MBA)、東京銀行、岡本アソシエイツ、 日本福祉サービス(現: セントケア)を経て独立。名古屋大学客員教授。 企業規模、業種を超えた「経営の原理原則」をもとに幅広く経営コンサルティング活動を 展開する一方で、年100回以上講演を行っている。 『稲盛和夫の遺した教訓』(致知出版社)など著書は150冊以上で、経済紙等にも連載を抱える。