こわいけど優しいリーダーに(小宮一慶先生 経営コラムVol.82)

コラムでは、『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座』等の著書を持ち、日経セミナーにも登壇する小宮一慶先生が、経営コンサルタントとしての心得やノウハウを惜しみなくお伝えします。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.132(2024.10)に掲載されたものです。
株式会社小宮コンサルタンツ 代表取締役CEO 小宮 一慶 先生
私は松下幸之助さんのファンですが、ずいぶん前に松下さんと一緒に働いていたことのある方とお会いしたことがあり、松下幸之助さんのエピソードをお聞きしました。
「松下さんという人は、こわいけど優しい人だった」というのがその方がおっしゃった松下さんの印象です。
具体的なお話もしてくれました。ある部長さんが大きな失敗をして、松下さんの執務室に呼ばれたそうです。「神様」相手ですから、すごく緊張していたと思います。その部長に対して松下さんは烈火のごとく怒りをぶちまけたそうです。松下さんは感情の激しい人だったらしく、相手を叱責するときに烈火のごとく怒ることはたびたびあったと聞きます。
あまりにも激しく叱責されたのでしょう。部長はその場で気絶してしまいました。相手が気絶するほど叱るというのも並大抵でありません。
いずれにしても気絶してしまったので、部長は松下さんの執務室から運び出されました。すると、松下さんはすぐに秘書を呼び、部長の家の電話番号を調べさせ、そして自ら電話をかけたそうです。奥さんが電話に出ると、「今日はお宅の旦那さんはしょげて帰ってくるから、夜ご飯にお銚子の2本でも、3本でもつけておいてやるように」と伝えたのです。
リーダーは、部下に対して言わないといけないことは言わなければなりません。もちろん、相手が気絶するほど叱るというのは、今の時代では許されることではないでしょうが、仕事に対しての厳しさは必ず必要です。
その一方で、人間的な優しさや気配りということも忘れてはなりません。人間的な優しさをもったフォローが必要なのです。
リーダーが持つ「甘さ」と「優しさ」は違うものです。「こんなことを言うと、この人はかわいそう」とか「自分は恨まれるのではないか」と思い、叱らなければならないことでもあいまいにしていると、その相手も仕事を甘く見るようになりますし、組織も弱体化します。
一方、「優しさ」というのは「厳しさ」と裏腹です。組織を中長期的にうまく、つまり十分なパフォーマンスを出しながら働く人に働き甲斐などの幸せを与えるためには、厳しさも必要です。
厳しいことを言うには、勇気やエネルギーが必要です。そのエネルギーはどこから来るのでしょうか。私は「信念」から来ると思っています。組織全体を良くし、働く仲間を幸せにする、この組織の活動を通じて社会に貢献するという強い信念があれば、厳しいことも言えるはずです。

小宮 一慶
こみや・かずよし/京都大学法学部卒業。 米国ダートマス大学タック経営大学院留学(MBA)、東京銀行、岡本アソシエイツ、 日本福祉サービス(現: セントケア)を経て独立。名古屋大学客員教授。 企業規模、業種を超えた「経営の原理原則」をもとに幅広く経営コンサルティング活動を 展開する一方で、年100回以上講演を行っている。 『稲盛和夫の遺した教訓』(致知出版社)など著書は150冊以上で、経済紙等にも連載を抱える。