日銀のマイナス金利解除と企業の今後の対応(小宮一慶先生 経営コラムVol.77)
本コラムでは、『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座』等の著書を持ち、日経セミナーにも登壇する小宮一慶先生が、経営コンサルタントとしての心得やノウハウを惜しみなくお伝えします。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.127(2024.5)に掲載されたものです。
株式会社小宮コンサルタンツ 代表取締役CEO
小宮 一慶 先生
日本銀行が3月の政策決定会合で「マイナス金利」を解除しました。今回はその内容とインパクト、さらには今後の見通しを説明するとともに、その対応について説明します。
マイナス金利の解除とは具体的には政策金利である、それまではマイナスだった「コールレート翌日物」の金利の誘導ゾーンを0~0.1%にするというものです。コールレート翌日物というのは、銀行間でお金を1日だけ貸し借りする金利なのですが、そこに日銀が毎日介入することにより、金利を決められた範囲に収まるようにするものです。だから「政策金利」なのです。
もうひとつ、先月の政策決定会合で決まったことは「イールドカーブコントロール」を止めたことです。日銀は景気が弱いということで「10年国債利回り」にも誘導の目標を定めました。
これを「イールドカーブコントロール」と呼んだわけです。
長年続いたマイナス金利やイールドカーブコントロールを脱却するということで、異常な状態から一歩踏み出したのですが、これではまだまだ不十分であることを認識しておく必要があります。
金利には、インフレを抑えるという役目があるとともに、インフレによるお金の目減りを補填するという意味もあります。2%のインフレには2%の金利が必要なわけです。
現状、米国は3%程度のインフレに対して、短期金利は5%程度です。ユーロ圏(通貨ユーロを使っている国20か国)では、2%台後半のインフレ率に対して4%程度の金利があります。米国、ユーロ圏ともにインフレによる通貨の価値を金利が補填しているのです。
一方、日本では、まったくそれが十分ではありません。約2,100兆円の個人金融資産のうち1,100兆円が現預金ですが、昨年1年間で34兆円(3.1%)ほど実質的には目減りしているわけです。コツコツとまじめに働いて預金している人は実は大損しているわけです。
このままでは、金融はまったく正常化しておらず、今後の金利上昇も必要という認識が必要です。
企業としては、この先、金利がある程度上がる前提での経営が必要になります。長い間低金利に慣れた経営者も多いと思いますが、金利分も吸収して、それでも十分な利益を出す必要があります。そのためには、これまで以上の差別化が必要で、Quality、Price 、Service(QPS)で差別化するのです。Qualityは商品そのものですが、Serviceは「応対が良い」などお金をいただかないものです。素直に謙虚にライバルのQPSを見て、自社として何を改善するべきかを考えることにより、収益力を高めることが大切です。
小宮 一慶
こみや・かずよし/京都大学法学部卒業。 米国ダートマス大学タック経営大学院留学(MBA)、東京銀行、岡本アソシエイツ、 日本福祉サービス(現: セントケア)を経て独立。名古屋大学客員教授。 企業規模、業種を超えた「経営の原理原則」をもとに幅広く経営コンサルティング活動を 展開する一方で、年100回以上講演を行っている。 『稲盛和夫の遺した教訓』(致知出版社)など著書は150冊以上で、経済紙等にも連載を抱える。