ビッグモーター事件とビジネスの原理原則(小宮一慶先生 経営コラムVol.69)

株式会社小宮コンサルタンツ 代表取締役CEO
小宮 一慶 先生

2023/8/25
本コラムでは『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座』等の著書を持ち、日経セミナーにも登壇する小宮一慶先生が経営コンサルタントとしての心得やノウハウを惜しみなくお伝えします。

ビッグモーターの事件が世間を騒がせています。故意に車を傷つけて保険金をだまし取ることや街路樹を枯らしてしまうことは犯罪行為ですが、ビジネスの原理原則に基づかない経営を行っており、それが今回の事件を生んだのです。この際はビジネスの原理原則を十分に再認識することが大切だと思います。

ピーター・ドラッカーは経営の役割りとして、①「自らの組織に特有の使命を果たす」、②「仕事を通じて働く人を活かす」、③「自らが社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題について貢献する」と述べています。

「特有の使命を果たす」とは、自社にしかできない商品やサービス、あるいは価格で社会に貢献することです。また、「企業の一義的な存在意義は企業外部にある」と言っています。つまり、企業とはまず、お客さまや社会に貢献するものでなければならないということです。
その関連で、法律を守らない企業はその「存在」を許されないとまで言っています。ちなみに「存続」を許されるのは特有の使命を果たすことによってです。

「仕事を通じて働く人を活かす」とは、働く人の自己実現を仕事により可能とするということで、ビッグモーターのように働く人に犯罪までさせるということは決して許されることではないのは明らかです。

「自らが社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題について貢献する」は、いまでいうSDGsです。いずれにしても、社会に貢献することが企業の使命なのです。

「お金を追うな、仕事を追え」という言葉は、私の人生の師匠である長野篠ノ井にある曹洞宗円福寺の故藤本幸邦老師から教えていただいた言葉です。私の経営コンサルタントとしての考え方の根幹のひとつになっています。

私は、売上高や利益を否定しているのではありません。それらはあくまでも結果なのです。ですから、私は老師の言葉を、「利益が出るくらいの良い仕事をする」というふうに解釈しています。

老師は「お金はないと不自由だが、お金は魔物」ともおっしゃっていました。確かに、お金はないと不自由ですね。行きたいところにも行けませんし、子供を望む学校に行かせられないかもしれません。

しかし、そのお金は魔物なのです。「金さえあれば何でもできる」と思い込み、中には、今回のビッグモーターのように、法律を犯してでも金儲けを優先する人たちも出てきます。

経営コンサルタントの大先輩の一倉定先生は、「お客さま第一」をとても厳しく教えられましたが、それが原点であることはいうまでもありません。

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