インフレと景気後退(小宮一慶先生 経営コラム Vol.31)

株式会社小宮コンサルタンツ 代表取締役CEO 
小宮 一慶

2022/7/18

本コラムでは、『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座』等の著書を持ち、日経セミナーにも登壇する小宮一慶先生が、経営コンサルタントとしての心得やノウハウを惜しみなくお伝えします。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.105(2022.7)に掲載されたものです。

インフレと景気後退


4月の消費者物価上昇率が前年比で2.1%となりました。1年前の菅内閣時の携帯料金値下げの影響が前年比で見た場合に消えたことが、3月の0.8%から大きく上がった要因ですが、皆さんもお気づきのように、ガソリンのみならず、食料品など多くのものが値上がりをしています。

しかし、問題はそこにあるのではありません。企業の仕入れを示す企業物価は前年比で10%もの上昇です。つまり、企業は仕入れ増加分のかなりの部分を最終消費財に転嫁できていない状況です。この理由は、景気の足腰が弱く、消費者の購買力が伸びていないからです。このことは企業収益に悪影響を与え、賃上げにも影響します。

そして、輸入物価も40%程度上昇していますから、値上げして家計や企業から吸い上げたお金も、ほとんどすべてが海外に流出するという状況が続いているのです。

これにプラスして、今後は、米国や中国の景気減速の影響が現れます。

米国は、ウイズ・コロナの経済政策が功を奏し、最近まで景気は比較的堅調でした。そのせいで、消費者物価は40年ぶりとなる8%台の上昇です。米国では卸売物価は11%程度の上昇ですが、日本と違い企業は仕入れの値上がり分のかなりの部分を最終消費財に転嫁できています。しかし、これだけの物価上昇を放置することももちろんできず、中央銀行であるFRBは引き締め策に転換しました。3月と5月に利上げを行い、6月からは市中からの資金の吸い上げを行うと発表しています。これにより株価は一気に下落し、景気後退懸念も出るほどです。FRBのスタンスが変わるかもしれないとの見方も出るほど、急速な引き締めを行っています。

また、中国では「ゼロコロナ政策」を堅持しています。最大の商業都市上海では経済が実質ストップした状態が長く続きました。それにより、中国国内だけでなく、世界との物流にも大きな影響が出ています。経済よりも政治的安定を優先しているのです。

中国と米国は、日本にとって1位、2位の貿易相手国であるだけでなく、私のお客さまでもそうですが、現地に進出している企業も多くあります。両国の経済停滞が日本に与える影響はとても大きいことは容易に想像ができます。

それでなくとも経済の足腰が弱い日本経済に、今後、米国や中国の影響が大きくのしかかるのです。インバウンド観光客の受け入れも始まりましたが、2019年に3,200万人の訪日客があったことを考えると、1日2万人が上限ではそのインパクトは当面は小さいです。

今後の景気後退、下手をすればインフレ下の景気後退であるスタグフレーションに陥ることも心配です。

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