プーチンと経営者、企業のガバナンス(小宮一慶先生 経営コラム Vol.29)

株式会社小宮コンサルタンツ 代表取締役CEO 
小宮 一慶

2022/5/16

本コラムでは、『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座』等の著書を持ち、日経セミナーにも登壇する小宮一慶先生が、経営コンサルタントとしての心得やノウハウを惜しみなくお伝えします。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.103(2022.5)に掲載されたものです。

プーチンと経営者、企業のガバナンス


先日、新聞の各紙のトップ記事に、ウクライナ情勢に関して、プーチンが怖くて、軍首脳や側近も正確な情報を話せないという内容のものがありました。私はその記事を読んだとき、世界中の多くの人がこの記事を知っているのに、プーチンだけがこれを知らないのだと思うと、ある意味、裸の王様のこっけいさを感じざるを得ませんでしたが、少なからぬ経営者もそうではないかという危惧を持ちました。

私も20人ほどの中小企業の経営を長くやっていますが、オーナー経営者で創業者の私に正確な情報が伝わっているかは、私も常に気を遣っているところです。

会社にいるときは、できるだけ多くの社員に声をかけるようにしていますし、昼時などはよく近くのファミレスで社員と食事をします。それでも、本音をどれだけ私に話してくれているかは疑問です。ましてや、大きな会社や権威主義的な社長ともなると、どれだけ正確な情報がもたらされているかは分かりません。

本田宗一郎さんなどの名経営者の多くは、現場を歩けとおっしゃっていますが、工場やお客さま、事務処理の現場などをこまめに回らないと生の情報はなかなか得られないものです。

ガバナンスは、「企業統治」とも言われますが、正しい経営を行うために独断で判断が行われないようにすることです。私はよく「議論されないといけないことがきちんと議論されているか」という話をします。もちろん、そのためには、自由に意見が出せる雰囲気がないといけないことは言うまでもありません。

ずいぶん前の近鉄の経営者で、名経営者として名高い佐伯勇さんの有名な言葉に「独裁すれども独断せず」があります。これは、決めるまでは多くの意見を聞く、つまり、衆知を集めて、それから決めるということです。最後はひとりで決めなければならないことも多いでしょうが、衆知を集めたうえでの最終決断は独断ではありません。しかし、決めたことは徹底的にやらせる。それが「独裁」という意味です。

私のお客さまの多くは中堅中小企業のオーナー経営者ですが、どうしても自分一人で決めてしまって、あとになって間違いだったと気づくことも少なくありません。独断の弊害です。また、決めたことをやらせ切れないということもあります。

最後に、自分が人の話を十分に聞けているかどうかの判断基準をお話します。それは「部下の話にメモを取れるか」ということです。目上の人やお客さまの話にはメモを取るリーダーも、部下の話にはメモを取らない人もいます。部下はもちろん文句は言いません。

やはり、すべての根幹は素直さや謙虚さではないかとプーチンの暴挙を見て思った次第です。

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