古典を学び成功する…克己心(小宮一慶先生 経営コラム Vol.20)
株式会社小宮コンサルタンツ 代表取締役CEO
小宮 一慶
2021/7/18
本コラムでは、『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座』等の著書を持ち、日経セミナーにも登壇する小宮一慶先生が、経営コンサルタントとしての心得やノウハウを惜しみなくお伝えします。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.94(2021.8)に掲載されたものです。
古典を学び成功する…克己心
最近、渋沢栄一の『はじめて世に出る青年へ』という本を読みました。渋沢栄一は今はNHKの「青天を衝け」で有名なのでご存じの方も多いでしょう。今度1万円札の肖像にもなる方ですね。
その本の中に「克己心」という言葉の説明がありました。克己心というと、「自分を奮い立たせる」というようなニュアンスを感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、渋沢は「自分に克つ」という意味でこの言葉を説明をしています。
何に克つのかというと、「悪い考え」を持ったときに、その自分の心に打ち克つというのが克己心だというのです。社会のために役立とうとか、誰かに貢献しようというような良い考えを持っている時には、もちろんそれはそのままでよく、お金や地位、名誉などに固執するといった悪い気持ちが出たときには、それに打ち克つことが必要だというのです。
そのためには、強い意志を持つことが大切なのですが、何かを行おうとする場合には、自分の基準となる考えをしっかりと持たなければならないことも言うまでもありません。渋沢の場合には、その基準は「論語」でした。論語の考え方にもとづいて、多くのことを判断し、悪い考え方のほうになびかないようにしていたというのです。
私は、会員さん向けにセミナーを長年開催していますが、セミナー参加者には「何千年もの間、多くの人が正しいと言ってきたことを勉強してください」とお願いしています。渋沢も、基準とする書物には「論語」などの儒教の他に、仏教、キリスト教でもかまわないと述べています。長い間多くの人が正しいと言ってきたことを判断基準に行動すれば、間違いが少なくて済むのです。
さらに言えば、多くの方が気づいていないかもしれませんが、儒教や仏教などの考え方をきちんと守ることが、成功につながるのです。渋沢は儒教にもとづいて行動し、500もの会社を設立したと言われており、今でも残っている会社が多くあります。京セラの稲盛和夫さんは、仏教にもとづいた考え方で経営をされてきました。松下幸之助さんの本を読んでいても、仏教や儒教の考え方が随所に出てきます。大成功した人はしっかりとした考え方を持っているのです。
私は、講演などで「物をもてあそべば志を失い、人をもてあそべば徳を失う」という中国の古典を紹介することがありますが、人は、何千年もの間、同じところでつまずいているのです。早くそのことに気づき、何千年もの風雪に耐えた「真理」を体得することが、真の成功をつかむ本質ではないかと考えています。