登記は、税理士が司法書士との橋渡しを!<税理士のヒヤリ・ハット体験談 第13回>
税理士法人 古田土会計 社員税理士
土田大輝
2021/7/17
第13回 登記は、税理士が司法書士との橋渡しを!
4月になり、このコラムも2年目を迎えることができました。これも皆さんの支えによるものです。この場をお借りして、お礼申し上げます。
さて、今回のヒヤリハットは、税理士事務所であれば、ほぼ必ずお付き合いをすることのお話です。
『登記』です!
言うまでもなく、登記は司法書士の独占業務であり、その手続きを税理士が行うことは違法です。
しかし我々税理士は、登記、特に役員の任期満了に伴う重任登記について、お客様に対してアナウンスすることを、よくします。
「社長、今回の決算の株主総会で、取締役の任期が満了になります。登記が必要になります!」のように。
これは、税理士が会社にとって身近な法律家であるからに、他なりません。
またこの他にも、会社の本店を移転する場合にも、まず登記が必要になります。
増資・減資・組織再編・関連会社の設立etc.
これら手続きをするのは司法書士ですが、登記が必要かのジャッジは、税理士がしているケースが圧倒的に多いのではないでしょうか。
それだけに、「登記は税理士業務ではないから、わからなくてもいい」というわけにはいきません。最低限の知識は、備えておきましょう。
Ⅰ、長期の登記遅滞には、過料がついてくる!
登記におけるヒヤリハットは、登記遅滞による過料(ペナルティ)です。
会社法では、2週間以内に登記しなければならないとしています。しかし(大きな声では言えませんが)、過料が発生するのは、およそ半年ほど遅れた場合からが多いと言われています。
過料の金額についても、法律では100万円以下とされていますが、満額になることは聞いたことがなく、基準も明確にされていません。肌感覚では、5万円程度が多い のではないかと思います。(あくまで参考程度で受け止めてください!)
その他、この過料について特徴をまとめます。たしかに『ヒヤリハット』だと、ご理解いただけると思います…。
①過料発生の基準:明確にはされていないが、半年ほど遅れた場合からか。
②金額:5万円程度が多い。
③郵送:裁判所から代表者個人宅へ届く。過料も個人宛。
④タイミング:(遅れた)登記をしてから、かなり間が開くケースが多い。つまり、突然届く印象がある。
突然裁判所からの郵便が自宅に届くと、驚かない人はいないと思います。その原因が登記遅滞で、税理士はその登記が必要な旨のアナウンスができる立場でもあるこ とから、
「なぜ事前に言ってくれなかったのか!」
とクレームになることも考えられます。
Ⅱ、過料に関する税務処理は…
過料についての税務処理も、実は難儀です。
というのも、過料は代表個人宛であり、代表が負担すべきものとなっているからです。
これを会社が支払った場合は、会社の経費にはなりません。仮に経費と処理したとしても、税務処理は『役員賞与』扱いです。
Ⅲ、役員の任期を伸ばす対策は…
現会社法下では、『公開会社でない株式会社』の役員の任期は、最長で10年まで伸長することができます。
公開会社は会社法の用語なのですが、簡単にいえば自社株式の譲渡制限が付されていない会社のこと。
中小企業の多くは、その自社株式のすべてに譲渡制限を付していますので、『公開会社でない会社』になります。
そのうち株式会社は、役員の任期を10年まで伸ばすことができるということです。
平成18年の会社法施行の前は、取締役2年・監査役4年でしたので、そのままの任期の会社も多いと思います。
2年おきに登記をしなければいけないのが10年に伸ばせたら、手間はだいぶ省けます。
役員が家族のみで、まず変更が無いような場合には、任期伸長も一考と思います。
参考:有限会社の役員任期は、無期限です。
Ⅳ、さらなるヒヤリハット ~法務大臣による『みなし解散』~
この役員任期の伸長により、しばらく登記をする必要がなくなったとしても、やはり登記を忘れるというリスクは付き物です。
おっかないことに、法務省では、12年間登記がされていない株式会社などを、ここ数年、年に一度、一斉に職権解散しています。
任期が10年に伸びたことでうっかり登記をずっと失念していたら、突然法務局から通知書が届き、官報に公告されます。そして2ヶ月以内に所定の登記をしないと、法務大臣の職権で解散されます。
当然解散となると、その解散日をもって事業年度が区切られますから、税務申告義務も生じます。
最悪なケースは、みなし解散の事実までも認識しないで、通常の時期に税務申告をし、税務署から「事業年度に誤りがある」と指摘されることです。無申告と扱われ ることとなり、税務上のペナルティも生じます。
このように、登記の遅れ・漏れは、会社の経営に重大な悪影響を及ぼしかねません。
是非司法書士と連携しながら、正しい登記をしていただきたいと思います。
最後に、我々古田土会計グループでは、令和3年2月22日付でエムケー行政書士法人を立ち上げました。当法人では、定款の作成・変更、各種議事録等の書類作成を代行する業務から、遺言・遺産分割協議書作成のお手伝い等の相続の分野において、行政書士としてサポートしたいと考えています。
今回のヒヤリハットは、その行政書士としての立場からも、皆さんに知っておいていただきたいことを書かせていただきました。来月もお楽しみに。