社内ストーカーとは(知って得する法律相談所 第5回)
弁護士法人アドバンス 代表弁護士・税理士
五十部 紀英
2021/7/16
第5回 GPSで居場所を追跡してもストーカーに該当しない?! 最高裁が初判断
交際者や妻などに対して、GPSを用いて相手の居場所を特定、監視する行為がストーカー規制法で禁じられている「見張り」行為に該当するかという点については、明確な規定がなく、刑事罰を科すことができるのか争われてきました。
しかし、7月30日、最高裁判所は、GPSによる監視行為は「見張り」にあたらないとの結論を下しました。
最高裁によれば、ストーカー規制法が禁じる「見張り」に該当するためには、「機器等を用いる場合でも、相手の動向やしぐさを観察する行為が必要であり、GPSだけでは、ただ居場所を特定しているだけにすぎない」とのことです(最高裁平成30年(あ)第1528号事件)。
この最高裁の判決には、様々な方面から厳しい批判がされているのと同時に、ストーカー規制法それ自体の不備も指摘されています。
「ストーカー」という用語は、日常的に使用されるようになりました。しかし、ストーカー規制法が規制する「ストーカー」について、具体的に説明できる人はあま りいません。
そこで今回は、ストーカーという犯罪について考えてみるとともに、社内ストーカー対策などについて、弁護士が解説します。ストーカーでお悩みの方はもちろん、 企業の人事や総務の方も、ぜひご一読ください。
(1)ストーカー規制法が定めるストーカーとは
ストーカー行為は、ストーカー規制法(正式名称「ストーカー行為等の規制等に関する法律」)という法律により、どのような行為がストーカーに該当するのか、そ して、ストーカーの加害者に対してどのような処罰を科しているかが定められています。
まず、ストーカー行為とは、相手(被害者)に対し、自分の恋愛感情や好意を伝えるため、あるいは、自分の恋愛感情や好意が満たされなかったこと、フラれたこと の腹いせとして、つきまといなどの行為を行うことをいいます。
つまり、相手に対する恋愛感情や好意がある、もしくは、あったが相手に伝わらなかったことが大前提です。
また、どういった行為が具体的なストーカー行為の規制対象となるかについても、ストーカー規制法はいくつか具体例を挙げています。
一 つきまとい、待ち伏せ、見張りなどの行為を行うこと
二 監視していると告げること
三 面会や交際の要求すること
四 著しく粗野(そや)又は乱暴な言動をすること
五 無言電話や、FAXやEメール、SNSなどを用いた書き込みなどをすること
六 汚物、動物の死体などを送りつけること
七 相手の名誉を傷つける内容のメッセージを送ること
八 卑猥な写真を送るなど、性的な嫌がらせをすること
(ストーカー規制法第2条より)
そして、これらの行為を1回だけではなく、繰り返し行うことによってはじめて、ストーカー規制法が適用され、処罰の対象となります。
警察が、被害者からストーカーの相談を受けた際、まず第1段階として、加害者に対し、ストーカー行為を止めるように警告を出します。次に第2段階として、1年間のストーカー行為を禁じる禁止命令が出されても、なおストーカー行為が止まなかった場合にはじめて逮捕に至ることがほとんどです。
ただし、あまりにもストーカー行為が悪質で、被害者が加害者の処罰を強く望んでいる場合には、いきなり逮捕できるケースもあります。
ストーカー規制法の罰則は、
ストーカー行為をした場合
→1年以下の懲役、または100万円以下の罰金
禁止命令等に反してストーカー行為をした場合
→2年以下の懲役または200万円以下の罰金
上記以外の禁止命令等に違反した場合
→6ヶ月以下の懲役または50万円以下
となっています。
(2)新たなストーカー、社内ストーカーとは
ストーカー規制法で規制されるストーカー行為は、あくまでも恋愛感情が前提です。しかし、最近、恋愛感情にない者に対するつきまといなどの嫌がらせ行為が増え ているようです。
その代表例が、同じ職場の同僚や上司などからストーカー行為の被害を受けるいわゆる「社内ストーカー」の存在です。事実、2018年の警視庁の調査によれば、被害 者と加害者が職場関係にある割合は全体の15%前後をしめ、珍しいケ―スではないことがわかります。むしろ、2014年には全体の8%しかありませんでしたので、増加 傾向にあります。
社内ストーカーの大きな特徴は、他のストーカー被害に比べ、
- 被害者と加害者が長時間接している
- 個人情報が簡単に入手しやすい
- 被害者が会社との関係悪化を恐れ、具体的な対策を行わない
- ストーカー行為の原因が、恋愛感情が原因とは限らない
といった特徴があります。
中でも原因が恋愛感情とは限らない、たとえば、出世や成功を恨んだ逆恨みがストーカー行為の原因である場合には注意が必要です。なぜなら、ストーカー規制法は 、あくまで恋愛感情の存在が大前提だからです。
では、どのようにしたらよいでしょうか。
社内ストーカーのように、恋愛感情を前提としないストーカー行為に対しては、各地方自治体が定める迷惑防止条例で対処していくことになります。
多くの地方自治体は、恋愛感情がなかったとしても、つきまといなどのストーカー行為をした場合には罰することができる旨を定めています。
なお、部下や社員から社内ストーカーの相談を受けた際、被害が公にするのを恐れ、企業が何ら具体的な対策を講じないのはよくありません。雇用者は、労働者が安 全に健全な業務が行える体制を整備する安全配慮義務があります(平成18年厚生労働省告示第615号など)。覚えておきましょう。
(3)一刻も早い規制法の改正を! 一人で悩まず、弁護士や警察への相談を
7月30日の最高裁判決では、GPS機器を使用した監視行為は、ストーカー規制法が規制する見張り行為には該当しないとの結論が下されました。
また、ストーカー規制法は、恋愛感情の存在を目的としているため、社内ストーカーのような妬みや逆恨みを原因とする行為については、規制の対象外であることも 分かりました。
しかし、被害者側からすれば、GPS機器を用いて居場所が特定されただけでも、大きな恐怖や不安も感じてしまいます。また、恋愛感情がない社内ストーカーの行為に関しても同様です。
ストーカーを巡る悪質な犯罪行為は後を絶ちません。殺害事件が発生することも決して珍しくありません。一刻も早く、時代の流れに沿った法改正を検討すべきです 。
ストーカー被害にお悩みの方は、決して泣き寝入りや一人で解決しようとせず、弁護士や警察署に相談してください。