中小企業が直面する地球規模課題による危機<中小・中堅企業のためのSDGs入門 Vol.9>
金沢工業大学 地方創生研究所 SDGs推進センター長 情報フロンティア学部 経営情報学科 准教授
平本 督太郎
2021/7/17
Vol.9 日本の中小企業が直面する危機とSDGsとの関係⑤
(地球規模課題による危機)
今回は、日本の中小企業が直面する5つの危機のうち、「⑤地球規模課題による危機」について、概要と先行企業事例について簡潔にお伝えしましょう。
2020年現在、私たちは新型コロナウイルスの感染拡大という地球規模課題に直面し、企業活動・日々の生活ともに大きな変化を強いられています。また、夏には気候 変動の影響から豪雨が複数回生じる等により、災害と感染の両方への対策を同時に練らなくてはいけない状況に陥りました。それでは、私たちはいつになったらこう した未曾有の危機を脱し、元の生活に戻ることができるのでしょうか?
残念ながら、時間を戻すことはできません。私たちは前に進むことしかできないのです。世界中でニューノーマルと叫ばれているように、私たちには胸を張って新た な社会を築いていくことが求められています。そして、経営者には、こうした地球規模課題に対して、事業上のリスクを減らしながら、新たなビジネスチャンスを増 やしていくための工夫、そのための意思決定が求められています。実際に受け身にならず、自ら地球規模課題に対面することで、成長している企業は増加しつつあり ます。
例えば、SDGsビジネスアワード2017で大賞を受賞した大阪のベンチャー企業であるフロムファーイーストは、様々な事業のうちの一つとして、カンボジアでの植林事 業を行うことで、地球規模課題である気候変動による洪水被害の抑制に取り組んでいます。カンボジアでは森林の過剰な伐採により、人々に対する洪水被害の増大が 深刻化し、気候変動によって洪水の規模や頻度も拡大・増加しているからです。
しかし、植林をただ行うだけでは持続性が欠如し、現地住民の利益や企業の成長にもつながりません。地域の住民が森林伐採をしなくても収入向上ができ、住民を支 援する企業も利益が得られることで支援し続けられる新たなビジネスモデルが必要です。
そのため、フロムファーイーストは、植林した植物の葉や種などから「みんなでみらいを」ブランドの美容商材の原料をつくり、フロムファーイーストが買い取るこ とで現地住民の生活改善を行っています。そして、生産したオーガニック美容商材は、高付加価値商品として日本で肌疾患に悩む消費者向けに販売されます。米ぬか 等の日本で伝統的に使用されてきた素材と組み合わされた美容商材は、現在イオンや東急ハンズ等のオーガニック製品の目玉商品の一つとして全国展開されています
。最後に、国内市場で得た利益をカンボジアでの植林に再投資することで、森が育つことで関わる人すべてが豊かになり、地球規模課題を乗り越えていくことができ る状況を生み出しているのです。
新型コロナウイルスや気候変動等の変化に怯えて過ごすのではなく、あえて自分から変化に向き合っていくことで、これからの時代に必要とされる変化に強い企業づ くりができます。大きな変化が起きたらビジネスチャンスだとワクワクできるように、日本の中小企業の皆さんには、SDGsへの貢献を通じて経営者としての器に更に 磨きをかけていただければと思います。