家族会議が株主総会?<税理士のヒヤリ・ハット体験談 第18回>

税理士法人 古田土会計 社員税理士
土田大輝

2021/9/30

第18回 家族会議が株主総会?


今回は会社法にまつわるお話です。税務判断のよりどころになる法律の一つで、とても身近なものでありながら、1000条近くあること等もあり、どうも取っ付きにくい印象が(私には)あります。会社法でおこるヒヤリハットは、対税務当局ということよりも、株主間でのトラブルなのかもしれません。見てみましょう。
 
Ⅰ【家族会議が株主総会?】
我々のお客様の多くは株式会社です。株式会社は会社法の決まりによって年一回(毎事業年度後一定期間内に)株主総会を開くことが義務付けられています。定時株主総会です。また、必要があれば臨時に株主総会を開くこともでき、会社の重要事項は主に株主総会によって決定されていきます。
株主総会はその開催について所定の招集手続きが必要になりますが、会社法は柔軟性もあり、全株主の同意があればその招集手続きを省略することができます。
ということは、中小企業の多くが同族会社という前提からすると、社長とその奥様、そして同居の息子が株主の会社があったとします。すると、家族会議が株主総会となりえることになります。このような状況下で
社長「これから株主総会を開くが、異論はないな?」という掛け声と、それに同意した場合は、株主総会として取り扱うことも適法になります。
これは極端な例かもしれませんが、この家族会議が株主総会に置き換わるということを受けて、税務調査において適法に株主総会が開かれて決定されたということで、是認となった事例があるようです。家族会議の際のメモが議事録代わりとなり、決議事項を伝えられたということです。株主総会議事録には、①開催時期や場所②議事の経過③出席取締役・監査役の氏名④議長・議事録作成者の氏名を記載しますが、押印が無くても良いとされています。※もちろん、登記申請に使う場合や改ざん防止のため、押印をすることが望ましいです。
 
Ⅱ【やったことにした株主総会…】
では、反対にトラブルになりがちな例は、株主総会をやったことにしている議事録の存在です。身に覚えのある方は多いでしょう!?
毎決算期の申告を終えた後、税理士事務所・税理士法人が顧問先の申告書控えを冊子に綴じ込み、そこに”付加価値”として定時株主総会議事録を作成・添付してお返しする。株主総会の開催日は、決算申告書をお客様に説明して、署名押印をいただいた日にすることもありますか。
当たり前のように行われてそうですが、おかしいですよね。
本当にその日その場所で株主総会が開催されていて、その議事録のひな型としてご提供するのであれば、良いかと思います。
多くの場合は、まず株主総会がその時に行われていなく、後日の税務調査対策のために”やったことにする”株主総会の議事録を作っているでしょう。
税務調査でこれを深く指摘されたことは今までありませんが、例えば・・・

①役員退職慰労金の決議をした株主総会議事録が、実際に開催されていないものだった。
②自社株式の譲渡承認請求があったことにつき、株主総会においてその承認をしたが、これもダミーの株主総会だった。
③組織再編(合併や分割)があった場合の株主総会が、実際に開いていなかったら…。
 
突っ込まれたら怖いことばかりです。
税務当局としては、例えば①の場合は、支給の確定と金額の確定がなかったことにより、損金算入時期が違ってくることを指摘するでしょう。
しかし、実は一番怖いことなのが、他の株主(例えばその議案に反対しそうな株主)から、株主総会の開催そのものが無効だと訴えられることです。
適法な招集手続きを経たのであれば、少数株主の意見は聞き入れる必要はないでしょう。しかし、この招集手続きがされなかった場合は、無効となる恐れがあります。

上記の①②③すべて、無効になると非常に大きな影響になります。
社員が株を持つ会社など、重要な事項の詳細をその社員に知らせることが差し支えるようであれば、無議決権株式などの種類株式を活用することが有効です。
 
「辞めた社員が労働基準監督署に駆けこんだ」ということはよく耳にすることでしょうが、あわせて「辞めた(株主だった)社員が、株主総会の瑕疵を訴えてきた」ということも、ありえることです。
 
Ⅲ【裁判例:株券発行会社の株式贈与が無効になった!】
最後に、Ⅱ②の株式譲渡承認関係の裁判例をご紹介します。株式会社は株券を発行することができ、また発行をしないこともできます。会社法では、
「128条 株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じない。ただし、(…略…)。」
とあります。これが根拠となり、株券の交付がされなかった贈与が無効となった事例があります。株券発行会社かどうかは定款や謄本で確認できますが、その記載がない場合は会社法の原則に従うこととなります。これだけでも、会社法の知識が我々の税務において必須になることがわかります。
税理士の提案でこの贈与が実行されたようで、その後この税理士が訴えられています(税理士賠償)。
 
 
今回、会社法の怖さが伝わったのではないでしょうか。税法は課税の問題、つまり「税金をいくら払うか」ということになります。しかし会社法は、その取引自体が無効ということにもなりかねません。それによって多大な影響があるのはお客様です。会社法の知識で税理士が知っておくべき点について、しっかり研鑽しておきたいところです。

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