空き家特例 <江崎光行先生の税理士事務所 四方山話 vol.19>
本コラムでは、日常の業務を通じて遭遇するお客様の反応や現場での出来事など身近なトピックに焦点を当てます。セミナーや研修で講師を務める経験豊富な江﨑光行先生が、これらの話題をわかりやすく、そして実用的なアドバイスを交えて解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.147(2026.1)に掲載されたものです。
「空き家を譲渡した場合に特例があると聞いたのですが教えてください」
先日、無事に相続税の申告業務が完了し、ほっと一息つかれたお客様から、このようなご相談をいただきました。お話を伺うと、被相続人がお住まいだったご実家は、相続発生後から現在に至るまで誰の利用もなく「空き家」の状態になっているとのこと。今後、維持管理の負担も考慮して売却を予定しているそうですが、その際に「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」が、ご自身のケースでも適用できるのか気になっているというご質問でした。
相続した不動産を売却した際に、一定の要件を満たせば譲渡所得から最高3,000万円を控除できるのが、この「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」です。
適用可能とされれば税額への影響は大きいですが、要件は非常に細かく、かつ厳格です。適用可否の判断の際に、まずチェックすべき主な論点について整理しておきましょう。
まず最初に確認すべきは、建物の建築年月日です。この特例は、日本国内にある家屋のうち「昭和56年(1981年)5月31日以前に建築されたもの」に限られます。これは、いわゆる旧耐震基準の建物を取り壊したり、耐震改修をして流通させることを政策目的としているためです。 お客様が古い実家と言っていても、昭和57年築であれば、その時点でこの特例の対象外となります。登記簿の「新築した日」を最初に確認することが必要です。
次に、被相続人の生活状況です。原則として、相続開始の直前において被相続人が一人で居住していたことが必要です。もし、二世帯住宅などで相続人が同居していた場合は対象になりません。よくある質問として、「父は老人ホームに入所して空き家になっていたが、その状態で亡くなった場合は?」というものがあります。これについては、要件(要介護認定を受けていた等)を満たせば対象となる可能性があります。「施設に入っていたからダメです」と即答せず、当時の状況をヒアリングする必要があります。
特例を受けるには、相続開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却しなければなりません。そして、売却時の状態が以下のいずれかである必要があります。
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1.耐震基準を満たすようにリフォームして売る
2.建物を取り壊して更地にして売る
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2の更地渡しについて、非常に重要なのが「取り壊しのタイミング」です。従来は「売買契約の前に、売主(相続人)が取り壊しを完了していること」が条件でした。しかし、令和6年(2024年)1月1日以降の譲渡については、要件が緩和されています。譲渡の翌年2月15日までに建物が取り壊されれば、買主側が工事を行っても適用が可能となっています。
上記の主要要件に加え、以下の点もチェックが必要です。
•譲渡価額の上限: 売却代金が1億円以下であること。分割して売った場合などは合計額で見ます。
•事業・貸付の禁止: 相続してから売るまでの間に、その家を賃貸に出したり、親族が住んだりしていないこと。
•必要書類: 確定申告書に添付する「被相続人居住用家屋等確認書」が必要です。これは税務署ではなく、物件所在地の市区町村で発行してもらうものです。発行には時間がかかるため、申告期限ギリギリにならないよう、お客様への早めのアナウンスが必要です。
この特例は「要件さえ満たせば」大きな節税効果をもたらしますが、一つでもボタンを掛け違えれば適用外となります。お客様からの相談を受けた際、まずは「建築時期」「居住状況」「売却時期」の概要を聞き取り、適用の可能性を検討することが必要です。
江﨑 光行
えざき・みつゆき/江﨑光行税理士事務所 所長・税理士
大原簿記学校税理士講座講師、税理士法人古田土会計、川鍋直則税理士事務所を経て独立。
現在は、月次決算書、経営計画書の作成指導経験を踏まえ、
ビズアップ総研アシスタント養成講座などでセミナー講師を務める。
