農地所有適格法人 <江崎光行先生の税理士事務所 四方山話 vol.17>

本コラムでは、日常の業務を通じて遭遇するお客様の反応や現場での出来事など身近なトピックに焦点を当てます。セミナーや研修で講師を務める経験豊富な江﨑光行先生が、これらの話題をわかりやすく、そして実用的なアドバイスを交えて解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.145(2025.11)に掲載されたものです。


江﨑光行税理士事務所 所長・税理士
江﨑 光行 先生

「農地を購入して農業経営を拡大したい」

リサイクル業を主として経営されながら、農業も行っている法人のお客様から、このような相談がありました。農業経営はすでに開始しているものの、現行の法人のままでは農地法上の制限により、農地を「購入し所有する」ことができず、現在は農地を賃借する形での経営に留まっていますが、このたび、長期的な視点での大規模な設備投資や農地改良を目的として「購入」に踏み切ることにしたそうです。

そこで、農業経営を主とする新法人の設立を提案しました。個人ではなく法人経営とすることで、金融機関の融資限度額が高くなることや信用力向上による人材確保が期待できます。

法人で農地を所有するためには、原則として「農地所有適格法人」となる必要があります。この法人格は、農業を担い手として適切に事業を遂行できる者に農地の所有を認めるための制度です。

農地所有適格法人として認められるためには、主に以下の4つの要件をすべて満たす必要があります。

  • 1法人形態要件
    株式会社(公開会社でないもの)、持分会社、または農事組合法人であること。
  • 2事業要件
    売上高の過半が農業(関連事業を含む)であること。
  • 3議決権要件
    農業関係者(農地の出し手、農業の常時従事者など)による議決権の保有が過半であること。
  • 4役員要件
    役員の過半が法人の行う農業の常時従事者(年間150日以上)であり、かつ、役員または重要な使用人の1人以上が、法人の行う農業に必要な農作業に年間60日以上従事すること。

農地所有適格法人となることのメリットとして、農地の購入と所有が可能となり、安定した長期的な農業経営基盤を確立できることや、農業関連の補助金・助成金の申請対象となることがあげられます。

税制上の優遇措置としては、青色申告を行う認定農業者である農地所有適格法人は、将来の農業投資のために積み立てた準備金を損金に算入でき、課税の繰延べが可能となります。これは、大規模な設備投資を計画されているお客様にとって、特に有効な措置と考えられます。

注意点としては、農地所有適格法人になるために、売上高の過半が農業であることという要件がありますので、法人設立時から農地所有適格法人となれるわけではないことです。

お客様の現在の法人はリサイクル業が主であり、事業要件を満たすことが困難でした。そこで、新たに別の法人を設立し、1年目に農業の売上実績を満たし、2年目にその新法人を農地所有適格法人として認定されることを目指すということを提案しました。

このお客様は、単なる事業多角化のためではなく、日本の農業が抱える高齢化や耕作放棄地の増加といった課題を深く憂慮され、自身の法人で農業を開始されました。別のお客様でも農業経営に関心のある方が数社いらっしゃいます。資金力や組織力を生かした法人による農業関連のご相談は、今後増える可能性があると考えられます。

今回のケースは、会計・税務に直接かかわるものではありませんが、他士業と連携を取りながら、課題を理解し解決することも税理士としての重要な役割であると考えます。

江﨑 光行

えざき・みつゆき/江﨑光行税理士事務所 所長・税理士
大原簿記学校税理士講座講師、税理士法人古田土会計、川鍋直則税理士事務所を経て独立。 現在は、月次決算書、経営計画書の作成指導経験を踏まえ、 ビズアップ総研アシスタント養成講座などでセミナー講師を務める。

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