クラウド会計 <税理士事務所 四方山話 vol.14>

本コラムでは、日常の業務を通じて遭遇するお客様の反応や現場での出来事など身近なトピックに焦点を当てます。セミナーや研修で講師を務める経験豊富な江﨑光行先生が、これらの話題をわかりやすく、そして実用的なアドバイスを交えて解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.142(2025.8)に掲載されたものです。


江﨑光行税理士事務所 所長・税理士
江﨑 光行 先生

「最近『クラウド会計』ってよく耳にするんですが、どうなのでしょう?」

先日、顧問先のお客様からこのようなご相談を受けました。当事務所ではクラウド会計を導入されるお客様が年々増えております。クラウド会計とは、インターネット上で利用する会計ソフトを指します。従来のインストール型ソフトとは異なり、パソコンへのインストールは不要です。インターネット環境さえあれば、どこからでも会計データの入力・管理が可能なのがその一番の特徴でしょう。データはクラウドに保存されるため、パソコンが故障したり買い替えたりしてもデータが失われたり、ソフトのインストールやデータ移行の必要がありません。

クラウド会計の導入は、私たち会計事務所だけでなく、顧問先の経理現場にとっても多くの利点があります。

まず、経理現場にとって特に便利なのは、通帳やクレジットカードの利用明細と自動で連携できる点です。これにより、これまで手作業で行っていた入力作業が大幅に減り、それに伴う入力ミスも少なくなるでしょう。記帳業務の負担が軽くなることで、経理担当者は、数字のチェックや分析といった、より本質的な業務に時間を割けるようになったと実感します。また、AIが勘定科目を学習する機能を持つソフトも多く、使えば使うほど自動仕訳の精度が向上し、日々の経理業務がより効率的になったという声も耳にします。

次に、会計事務所の現場目線では、お客様とのデータのやり取りが格段にスムーズになることが挙げられます。従来の会計ソフトでは、お客様が入力したデータをUSBメモリやメールで受け取り、事務所側で取り込む手間がありました。しかし、クラウド会計では、私たちとお客様が同じデータにリアルタイムでアクセスできます。常に最新の会計情報を共有できるため、月次決算の早期化が図れ、結果としてタイムリーな経営アドバイスが可能になるのは大きな変化です。給与計算や請求書発行といった関連サービスと連携させることで、給与データが自動で会計に反映されたり、発行した請求書から売上仕訳が自動で作成されたりするなど、バックオフィス業務全体の連携も期待できます。

加えて、領収書や請求書を画像で管理し、電子帳簿保存法の要件を満たせる点も双方にとっての利便性向上につながります。スマートフォンで領収書を撮影するだけで自動的にクラウド会計に取り込まれ、仕訳データと紐づけられるため、紙での保管が不要になり、ペーパーレス化が進みます。

一方で、いくつか考えるべき点もあります。例えば、会計事務所側から見ると、お客様がまだクラウド会計に慣れていない場合、初期の導入サポートや操作指導に時間と手間がかかることがあります。また、場合によっては連携した通帳のデータと、電子帳簿保存の要件を満たすためにスマートフォンで撮影をして取り込んだ領収書の仕訳が重複してしまうこともあり得ます。仕訳が重複しないよう、入力規則をきちんと整理しておく必要があります。その他、セキュリティ面について不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。もちろん、パスワード管理の徹底など、利用者側のセキュリティ意識は非常に重要になります。

クラウド会計は、単に会計ソフトが新しくなったというだけでなく、税理士とお客様の関係をもっと身近にし、お互いの業務をより良くしていくためのツールになりつつあります。これからAI技術やFinTechとの連携がさらに進めば、クラウド会計はますます便利になっていくと考えられます。

ただし、クラウド会計ソフトはメーカーによってその仕様や得意とする機能が異なります。また、会社の規模や業種、経理体制といった個々の事情によっては、ここに挙げたメリットがそのまま当てはまらないケースも当然あります。今回ご相談いただいたお客様も、様々な選択肢の中からご自身の会社に最適なものを選び、クラウド会計の導入を決められました。こうした一つひとつの状況を理解し、貢献していきたいと考えています。

江﨑 光行

えざき・みつゆき/江﨑光行税理士事務所 所長・税理士
大原簿記学校税理士講座講師、税理士法人古田土会計、川鍋直則税理士事務所を経て独立。 現在は、月次決算書、経営計画書の作成指導経験を踏まえ、 ビズアップ総研アシスタント養成講座などでセミナー講師を務める。

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