相続財産が未分割の場合の相続税申告 <税理士事務所 四方山話 vol.13>

本コラムでは、日常の業務を通じて遭遇するお客様の反応や現場での出来事など身近なトピックに焦点を当てます。セミナーや研修で講師を務める経験豊富な江﨑光行先生が、これらの話題をわかりやすく、そして実用的なアドバイスを交えて解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.141(2025.7)に掲載されたものです。
江﨑光行税理士事務所 所長・税理士
江﨑 光行 先生
「父が亡くなり、相続税の申告期限が迫っているのですが、遺産分割協議が全くまとまりません。相続税申告はどのように進めれば良いでしょうか?」
相続税申告のご相談に来たお客様からこのような質問がありました。相続が発生すると、とかく遺産分割は感情的な側面も絡み、時間と労力がかかるものです。
一方で、相続税の申告と納税は、被相続人が死亡したことを知った日(通常の場合は、被相続人の死亡の日)の翌日から10か月以内に行うことになっています。では、相続財産が未分割の場合、どのように相続税申告を進めれば良いのでしょうか。
まず、相続税の申告は、相続財産が分割されていない場合であっても期限までに行わなければなりません。そのため、相続財産の分割協議が成立していないときは、各相続人が法定相続分に従って財産を取得したものとして相続税の計算をし、申告と納税を行うことになります。
各相続人が法定相続分の割合で申告した後に、相続財産の分割が行われ、その分割に基づき計算した税額と申告した税額とが異なるときは、実際に分割した財産の額に基づいて修正申告または更正の請求を行うことができます。
なお、未分割申告における最も重要な留意点は、未分割申告時点では小規模宅地等の特例や配偶者の税額控除などが適用できなくなることです。
しかし、相続税の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付し、法定申告期限から3年以内に遺産分割が確定すれば、その分割内容に基づいて、改めて特例を適用した相続税額を計算し、過納となった税額について更正の請求を行うことで還付を受けることができます。修正申告と異なり、更正の請求ができるのは、分割の日の翌日から4か月以内となっていますので注意が必要です。
それでも遺産分割協議が長期化する場合、申告期限後3年以内という期間は、容易に超過する可能性があります。申告期限から3年が経過しても遺産分割がまとまらず、「やむを得ない事由」がある場合、特例適用のための期限をさらに延長できる制度が設けられています。
この延長を受けるためには、申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月を経過する日までに、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を所轄税務署長宛てに提出し、その承認を得る必要があります。
承認を受けた場合、やむを得ない事由が解消されるまで特例や控除の適用を延長することができます。この場合においても更正の請求ができるのは、分割が確定した日の翌日から4か月以内となっています。
未分割状態の相続人の方々については、遺産分割協議がまとまらず、心理的なご負担がある状態と考えられます。せめて相続手続きについて正しくお伝えすることで、一助になればと考えます。

江﨑 光行
えざき・みつゆき/江﨑光行税理士事務所 所長・税理士
大原簿記学校税理士講座講師、税理士法人古田土会計、川鍋直則税理士事務所を経て独立。
現在は、月次決算書、経営計画書の作成指導経験を踏まえ、
ビズアップ総研アシスタント養成講座などでセミナー講師を務める。