固定資産の収用 <税理士事務所 四方山話 vol.12>

本コラムでは、日常の業務を通じて遭遇するお客様の反応や現場での出来事など身近なトピックに焦点を当てます。セミナーや研修で講師を務める経験豊富な江﨑光行先生が、これらの話題をわかりやすく、そして実用的なアドバイスを交えて解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.140(2025.6)に掲載されたものです。


江﨑光行税理士事務所 所長・税理士
江﨑 光行 先生

「市に工場が収用されることになり、まとまった補償金が出ると言われたのですが、税金がかかるんでしょうか?」

法人のお客様からこのようなご相談を受けました。

法人の有する資産について、冒頭のように土地収用法等の規定に基づいて強制的に収用されることがあります。収用に伴い法人が受け取る補償金の課税処理についてですが、事業用資産が収用された場合、取得した補償金等と収用された資産の直前簿価との差額は譲渡損益として課税所得となります。

主に以下の種類の補償金が支払われることが考えられ、税務上の取り扱いはそれぞれに記載したとおりとなります。

● 土地・建物の対価補償金
収用された資産の譲渡対価であり、益金の額に算入されます。

● 移転補償金
建物の移転費用、機械設備の移設費用、従業員の仮住居費用などを補填するものであり、原則として、実際に支出した費用に充当される部分は益金に算入されません。

● 経費補償金
休廃業等により生ずる事業上の費用の補填又は収用等による譲渡の目的となった資産以外の資産(棚卸資産を除く。)について実現した損失の補填に充てるものとして交付を受ける補償金です。原則として、実際に支出した費用に充当される部分については益金に算入されません。

● 収益補償金
事業について減少することとなる収益又は生ずることとなる損失の補填に充てるものとして交付を受ける補償金営業補償・休業補償は、事業活動の停止や阻害によって生じる損失を補填するものです。事業所得を構成するものとして益金の額に算入されます。

この場合に検討すべきは、今回の収用が法人税における税負担軽減措置の対象となるかどうかです。具体的には「収用等の場合の課税の特例」と「代替資産の圧縮記帳制度」の適用の対象となるか検討します。

まずは、「収用等の場合の課税の特例」の適用についてですが、法人が収用等の補償金等について、一定の要件を満たす場合には、譲渡益の額と5,000万円とのいずれか低い金額を損金算入することができる規定です。

主な適用要件は下記となります。

● 土地収用法等の規定により収用され、補償金等を取得していること
● 当期のうち同一の年に属する期間中に収用等の圧縮記帳等の適用を受けていないこと
● 最初に買取等の申し出を受けた者に譲渡したものであること
● 収用等による譲渡が、その申し出のあった日から6月を経過した日までに行われること

次に、「代替資産の圧縮記帳制度」についてですが、法人が収用等により取得した補償金で、収用された資産と同一種類の代替資産(例えば、収用された工場に代わる新たな工場)を取得した場合、土地または建物の対価補償金については、一定の要件の下で圧縮記帳を適用し、譲渡益の課税を将来に繰り延べることができます。

圧縮記帳は、譲渡益の課税を将来に繰り延べることで、一時的な税負担を軽減し、事業継続を支援する有効な手段となります。

なお、先述の「収用等の場合の課税の特例」の適用要件にもあるとおり、「代替資産の圧縮記帳制度」と「収用等の場合の課税の特例」は、選択適用となります。いずれが有利になるかは、譲渡益が特別控除額を下回る場合には特別控除が有利であり、譲渡益が特別控除額を上回る場合には圧縮記帳が有利になると考えられます。

収用による補償金は、多額の金額を受けることになりますが、事業継続に充てるための資金であり、納税負担の状況によっては、事業継続に支障をきたします。早めの内容確認と書類取得を行い、慎重な検討の上で処理が必要であると考えます。

江﨑 光行

えざき・みつゆき/江﨑光行税理士事務所 所長・税理士
大原簿記学校税理士講座講師、税理士法人古田土会計、川鍋直則税理士事務所を経て独立。 現在は、月次決算書、経営計画書の作成指導経験を踏まえ、 ビズアップ総研アシスタント養成講座などでセミナー講師を務める。

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