国税の猶予制度<税理士事務所 四方山話vol.07>

本コラムでは、日常の業務を通じて遭遇するお客様の反応や現場での出来事など身近なトピックに焦点を当てます。セミナーや研修で講師を務める経験豊富な江﨑光行先生が、これらの話題をわかりやすく、そして実用的なアドバイスを交えて解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.135(2025.1)に掲載されたものです。


江﨑光行税理士事務所 所長・税理士
江﨑 光行 先生

「納付期限までに消費税が納付できません。」

飲食業を営む法人のお客様より告げられました。決算を2か月後に控え、今期の消費税納税額の予測を伝えた際のことです。このお客様は、コロナウィルスの影響を受け、厳しい業況が続いていましたが、今期は、売上が急回復している局面でした。しかし、原価、人件費、水道光熱費の高騰のあおりを受けたことにより、営業利益は赤字であり、手元資金は減少する一方となっていました。

お客様の希望もあり、納税の猶予制度を案内し、申請することとなりました。国税の猶予制度は、一時に納付をすることにより事業の継続や生活が困難となるときや、災害で財産を損失した場合などの特定の事情があるときは、税務署に申請することで、原則として1年以内の期間に限り、納税が猶予される制度です。

猶予制度には、換価の猶予(国税徴収法第151条及び第151条の2)と納税の猶予(国税通則法第46条)があります。換価の猶予とは、国税を一時に納付することにより事業の継続または生活の維持を困難にするおそれがあると認められる場合に、申請に基づいて差押え財産の換価(売却)が猶予される制度です。

一方で、納税の猶予とは、災害、病気、事業の休廃業などによって国税を一時に納付することができないと認められる場合に申請により納税が猶予される制度です。今回は、条件により換価の猶予の申請を行うこととなります。

換価の猶予を受けるための条件は下記となります。
①国税を一時に納付することにより、事業の継続又は生活の維持を困難にするおそれがあると認められる、②納税について誠実な意思を有すると認められる、③猶予を受けようとする国税以外の国税の滞納がない、④原則として、担保の提供がある場合は、納付すべき国税の納期限から6か月以内に申請することにより、換価の猶予を受けることができます。

ただし、猶予を受ける金額が100万円以下である場合や、猶予を受ける期間が3か月以内である場合などは担保の提供を求められません。換価の猶予が認められると、原則として1年以内の期間に限り、納付が猶予され、猶予期間中の延滞税が軽減されます。また、財産の差押えや換価(売却)が猶予されます。猶予を受けた国税は、この猶予期間中に毎月ごとに分割して納付していくこととなります。

1年以内の分納とは言え、一度に多額の資金が納税により支出されることで、運転資金が不足してしまう状況を回避できることから、短期的な資金ショートを避けるには有効な手段であると考えられます。

申請を行うにあたって、考慮すべきポイントがいくつかあります。この制度は、支払が猶予や免除されるのではなく、分割での支払いが前提となります。したがって、分納によるキャッシュアウトは続きますし、また、分納が認められたとしても、新しい期の中間納付の支払が到来してくるケースもあることから、目先の納付額の回避のみを考えることなく、短期的な資金計画を考慮することが重要です。

また、金融機関からの融資審査に影響が出ることが考えられます。換価の猶予の許可を受けたケースでは、融資が実行されることもあるようですが、ほとんどの場合は、融資を受けることは難しくなるでしょう。換価の猶予制度を利用する前に、融資に対する影響も考慮に入れて、申請の決断をする必要があります。

人件費は消費税の計算上、仕入れ税額控除を行うことが出来ないため、飲食店をはじめとする人件費が経費の多くを占める業種などは、相対的に納税の負担が重くなる傾向があります。据え置きされていたコロナ融資の返済開始なども相まって、非常に厳しい状況の中で、換価の猶予の申請を行う機会が増えてくるものと考えます。

江﨑 光行

えざき・みつゆき/江﨑光行税理士事務所 所長・税理士
大原簿記学校税理士講座講師、税理士法人古田土会計、川鍋直則税理士事務所を経て独立。 現在は、月次決算書、経営計画書の作成指導経験を踏まえ、 ビズアップ総研アシスタント養成講座などでセミナー講師を務める。

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