賃上げ促進税制の上乗せ措置<税理士事務所 四方山話vol.05>
本コラムでは、日常の業務を通じて遭遇するお客様の反応や現場での出来事など身近なトピックに焦点を当てます。セミナーや研修で講師を務める経験豊富な江﨑光行先生がこれらの話題をわかりやすくそして実用的なアドバイスを交えて解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.133(2024.11)に掲載されたものです。
江﨑光行税理士事務所 所長・税理士
江﨑 光行 先生
「くるみんって何?」
お客様へ中小企業向けの賃上げ促進税制の説明を行っている中で、お客様からこのような質問がありました。中小企業向け賃上げ促進税制は、中小企業者等又は青色申告書を提出する常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主が、前年度より給与等支給額を増加させた場合に、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる制度です。
中小企業向けの賃上げ促進税制は、令和6年度税制改正大綱により、令和6年4月1日以降開始事業年度において、雇用者給与等支給増加額が前年に比較して1.5%又は2.5%以上増加している場合には、控除対象雇用者給与等支給増加額の15%又は30%を法人税額又は所得税額から控除が可能となる制度となりました。
これまでも、たびたび改正がなされてきましたが、今回の改正により人的投資に対する上乗せ措置の要件が見直され、子育て支援や女性活躍支援をした企業の上乗せ措置の創設が行われました。具体的には、子育て支援が手厚い企業に与えられる「くるみん」や、女性活躍企業に与えられる「えるぼし」の認定企業には5%の控除率が上乗せされます。
冒頭の質問をしたのは、賃上げに積極的なお客様で、賃上げ促進税制により、これまでも少なくない金額の税額控除の適用のある法人でした。そのため、上乗せ措置があるのであれば、ぜひ活用したいと考えられたのです。
お客様は、子育て支援にも積極的に取り組まれており、早速くるみん認定を取得したいとのご意向でした。
調べてみると、くるみん認定を受けるには男性労働者の育児休業等取得率が10%以上、女性労働者の育児休業等取得率が、75%以上などの10項目を含む一般事業主行動計画を定め、そのすべての基準を満たす必要があります。
なお、基準を満たしたかどうかの結果がわかるのは、行動計画の計画期間が2年から5年以下とされていますので、申請をしてから少なくとも2年間は、上乗せ措置の適用は受けられません。また、税制を適用する事業年度に認定を受けることが要件になっているため、過去に取得した認定をもって上乗せ要件を受けることはできません(プラチナくるみん認定、プラチナくるみんプラス認定は適用事業年度終了の時において認定を取得していれば適用可能です)。
ややハードルが高い部分もありますが、新規採用や社内人材定着に役立つことや、くるみん助成金を獲得できるなどのメリットもあることから、お客様は申請に向けて動き出すことになりました。
今回の中小企業向け賃上げ促進税制の改正では、賃上げを実施した年度に控除しきれなかった金額については5年間の繰り越しが可能となりました。さらに、教育訓練費の額が前年度比で5%以上増加している場合には、税額控除率は10%上乗せされます。
毎年の最低賃金の引き上げや人手不足による人材獲得競争の激しくなっている昨今では、人件費の増加は中小企業にとって深刻な負担になっています。賃上げ促進税制の適用はもちろんですが、上乗せ措置の情報を積極的にお客様へ伝えることで、負担軽減の一助になればと考えます。
江﨑 光行
えざき・みつゆき/江﨑光行税理士事務所 所長・税理士
大原簿記学校税理士講座講師、税理士法人古田土会計、川鍋直則税理士事務所を経て独立。
現在は、月次決算書、経営計画書の作成指導経験を踏まえ、
ビズアップ総研アシスタント養成講座などでセミナー講師を務める。