利益計画と資金運用表<税理士事務所 四方山話vol.04>
本コラムでは、日常の業務を通じて遭遇するお客様の反応や現場での出来事など身近なトピックに焦点を当てます。セミナーや研修で講師を務める経験豊富な江﨑光行先生がこれらの話題をわかりやすくそして実用的なアドバイスを交えて解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.132(2024.10)に掲載されたものです。
江﨑光行税理士事務所 所長・税理士
江﨑 光行 先生
「どう書いたらいいんでしょう。手伝ってくれませんか?」
先日、別々の顧問先より、3件立て続けにこのような相談から始まる依頼がありました。
1件目の依頼は、銀行から融資を受けるにあたり必要な「経営行動計画書」の収支計画書と返済計画表の作成でした。2件目の依頼は、産業廃棄物収集運搬業の許可申請にあたり、債務超過の場合に提出が必要な「経理的基礎を有する説明書」という債務超過から脱するための対策を示す書類の作成です。3件目は、融資を受けている銀行に対して提出する「返済方法変更申込書」、いわゆるリスケを行うにあたり記載が必要な書類の作成です。
どのお客様も決して財務諸表が読めないお客様ではありません。では、なぜ自社でこれらの作成が難しいのでしょうか。共通して考えられるのが、将来のビジョンを数字で描くことに慣れていないのではないかと考えられます。
これらの書類の作成にあたり、必ず求められる項目は、「利益予測」と「現金残高」の推移です。
「利益予測」については、利益計画(目標損益計算書)を作成することで対応します。利益計画では、先ず将来の目標とすべき像を定め、そこから逆算して必要利益を積み上げていく必要があります。短期(1年から2年)、中期(3年から5年)、⾧期(10年単位)とどこまでを見据えて計画を立てるべきか、ケースによって異なりますが、上記のような書類で、作成を求められるものの多くは3年から5年の中期計画です。3年から5年後のあるべき姿、この間にどれだけ売上、利益を上げて、返済の原資となる利益を生み出すか、債務超過状態を解消するかを具体的な数字で表現していきます。
具体的には、最初に稼ぐべき利益を明確にすることから始めます。例えば、銀行に対する返済計画であれば、返済原資となる利益はどれだけ稼ぐ必要があるのか、債務超過を解消するための対策であれば、純資産を増加させる要因である利益はどれだけ稼ぐ必要があるのかを数字で表現していくこととなります。
稼ぐべき利益が決まったら、それに固定費を加算して稼ぐべき粗利益額を算出し、自社の粗利益率で割り戻すなどして必要な売上を算出します。粗利益率とは売上高に占める粗利益額の割合をいいますが、直近年度の決算書の結果を参考に算出します。
「現金残高の推移」の記載については、資金運用表を作成して対応していきます。前期末決算の現預金残高に、資金調達項目(利益計画で算出した利益、予測減価償却費、新規借入)を加算し、資金使途項目(前期利益に対する納税、配当、借入返済、設備投資)を減算して期末予測残高を作成し、これを3年から5年分を繰り返し作成します。
利益計画と資金運用表に使用する数字は、過去の決算書を参考にしつつ、今後の事業展開などを考慮して、売上予測や経費および投資の見積もりをお客様へヒアリングしながら作成していきます。なお、経営計画や事業計画を基にすることで、より精度の高いものを作成することが可能です。
税理士の役割は、税理士法第2条によれば、税務代理、税務書類の作成、税務相談を主押して、税理士業務に付随して、財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務を業として行うことができるとされています。税理士は税務が主と考えられがちですが、特にコロナ後は赤字企業や資金繰りに窮する中小企業が増加し、そのサポートを数字を通じて行っていく、さらには社⾧との対話を通じて事業計画や経営計画を作成し、未来を具体化するということが非常に重要になっていると感じます。
江﨑 光行
えざき・みつゆき/江﨑光行税理士事務所 所長・税理士
大原簿記学校税理士講座講師、税理士法人古田土会計、川鍋直則税理士事務所を経て独立。
現在は、月次決算書、経営計画書の作成指導経験を踏まえ、
ビズアップ総研アシスタント養成講座などでセミナー講師を務める。