この領収書、経費で落とせるかな?<税理士のヒヤリ・ハット体験談 第2回>

税理士法人 古田土会計 社員税理士
土田大輝

2021/7/16

第2回 「この領収書、経費で落とせるかな?」 交際費か? それとも…??

今回も、「税理士業務をしている中でのヒヤリ・ハット」について、エピソードを交えてお伝えしたいと思います。

【エピソード】
飲食店の領収書が1枚
社⾧は経費にしたいそうですが……
「この飲食店の領収書、経費で落とせるかな?」

我々が社⾧と会話をしていると、よく受けるご質問です。税務の目線で見れば、その支出が法人の事業に関連するものであるか、税法用語でいえば、『損金』となる かが問われます。

居酒屋等であれば、「誰かを接待されたのですか?」
カフェ等であれば、「打合せですか?」「どのような内容でしたか?」

税務では、その支出の目的と内容などを総合的に判断され、損金計上の可否が判断されます。ひと昔前は、交際費となった場合、1事業年度あたりの支出額が少額で あっても、税務上の所得加算がありました。つまり交際費に対して追加の税額がありました。それが平成25年度改正で、資本金1億円以下等の中小法人の場合、現在 は1事業年度あたり800万円までは交際費となっても全額損金となり、加算されません。そんな背景があることから、「どうせ交際費になっても税金が発生することはない」等と、交際費に対する意識が薄くなっている傾向にあるなと感じます。

しかし、それが給与と認定されるなど、調査で修正をするケースがあります。いくつかその可能性を探ります。

給与とされる場合
その飲食の費用が、社⾧や特定の人の給与とされるケースがあります。給与とされた場合は、個人としては所得税が発生し、支出した法人は、相手が社員であれば損
金ですが、役員であれば損金となりません。個人・法人のダブル課税になります。

このポイントはいくつかありますが、その飲食が事業遂行上必要か? が調査でよく見られます。不要(個人的飲食)であれば、税務上は給与となります。もっての ほかです。また会社としては、個人的な飲食であれば会社に損害を与えたこととなるので、給与でなく貸付金として、会社に返金してもらうべきです。

会議費? 福利厚生費? 交際費?
会議費・福利厚生費・交際費、いずれでも、事業遂行上必要な費用であれば、当然会計上は落とせます。ただ、税務上交際費については、上記の通り800万円を超える場合に課税されます。

■ 会議費
会議、商談、打合せのため社内や通常会議を行う場所での飲食(軽食程度)会議のメンバー・打合せの内容等、その会議等の実体を記録として残すことが、後のトラ ブルにならないポイントです。議事録兼費用精算書を作成し、それに領収書を添付して保管するなど、工夫しましょう。

■ 福利厚生費
全従業員等、特定の人に偏らない慰安を目的とした、社会通念上相当な金額での飲食人数・繁閑等の観点で、部署ごとで開催することもかまいません。こちらも報告 書を作成して、参加者を明らかにしておくといいでしょう。よくあるケースで、社⾧が特定の社員と飲み会を開き、福利厚生費として会計処理することがあります。 これは社員に対する交際費となるため、気をつけなければなりません。また前にも書いたように、個人的な飲食の場合は、会社としては貸付金として返金してもらい
ましょう。

■ 交際費:得意先等の接待のための飲食
税法上の交際費の範囲は広く、相手の歓心を買う行為であれば、交際費を検討する必要があります。なお、接待による飲食代は、領収書があればよいというものでは ありません。この領収書や帳簿に接待する相手方の会社名・氏名を明確に記録しておかないと、費途不明金として税務上否認されます。

いま、足元の経済が落ち込んでいる中で、また不要不急の外出を避けるなど在宅中心となっていく環境下で、消費に大きな変化が起こっています。『経費』に関する 考え方が変わっていくのではないかと感じています。例えば、参加者が各々在宅でWebカメラを使い、オンラインで飲み会を開くことがあるようです。いわゆる『三密』を防ぐことができるだけでなく、参加者全員と話すことができるなど、通常の飲み会スタイルでは得られないメリットもあるようです。では、従業員の慰安を目的 として会社でオンライン飲み会を企画して、その飲食費用を会社が負担した場合の税務処理はどうでしょう。形式としては家でお酒を飲んでいるのですが、仕事の延 ⾧ですから、基本的には損金(福利厚生費)となるだろうと考えます。

今回は、飲食店の領収書1 枚から、交際費と周辺費用と呼ばれるものについて考えてきました。書いていて、とても奥が深い項目だと感じています。それもそのはず 。税法が実体経済の変化に対応していくため、「確実な正解を示している」とも言い難いからこそだと思います。税法の奥深さとともに、その面白さも伝わればなに よりです。

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