実は危ないエスカレーター歩き(知って得する法律相談所 第21回)

弁護士法人アドバンス 代表弁護士・税理士
五十部 紀英

2021/12/24

01. 実は危ないエスカレーター歩き、条例施行で意識は変わる?

2021年10月1日に、埼玉県で「埼玉県エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例」(通称「エスカレーター条例」)が施行されました。全国初のこの条例は、駅や商業施設などのエスカレーターを利用する際に、駆け上がりや歩行をせず立ち止まって利用することを促しています。
 
エスカレーター利用時に歩くことは日常的な習慣ではありますが、その一方で危険性も指摘されています。一般社団法人日本エレベーター協会の『エスカレーターにおける利用者災害の調査報告』によると、エスカレーター事故全体のうち、62%が転倒によるものというデータがあります。
エスカレーターをすり抜ける際にほかの利用者や荷物と接触し転倒や思わぬ事故などにつながるケースが多いと言われています。
掲示物やアナウンスなどで歩行の禁止を注意喚起されていますが、エスカレーターを歩行する方が多数を占めているとの実態が報告されていました。
 
急いでいる人が早く昇降できるよう、エスカレーターの左右どちらかを開けることがマナーとされています。しかし、地域によって左右どちらを空けるのかという違いがあるほか、歩行や駆け上がりの危険性も低くはありません。このような背景事情もあり、今回の条例制定へと至りました。
 
そこで、今回のコラムでは、全国初の条例「エスカレーター条例」について説明します。

02.エスカレーター条例に罰則はないが危険利用で別の加害行為の可能性も

エスカレーター条例では、エスカレーターの安全な利用に向け、利用者及び管理者の義務としてそれぞれ次のように定められています。

第5条(利用者の義務)
立ち止まった状態でエスカレーターを利用しなければならない

第6条(管理者の義務)
利用者に対し、立ち止まった状態でエスカレーターを利用すべきことを周知しなければならない

※いずれも罰則規定はありません

同条例では、利用者には立ち止まっての利用を求め、エスカレーターを管理する事業者には利用者への周知が義務付けられています。
なお、条例そのものに罰則規定はありません。そのため、エスカレーターを歩いたり駆け上がったりしても、条例違反として何かしらの処罰を受けることはないでしょう。
 
しかし、条例違反により罰せられなくとも、駆け上がりなどの危険な利用により、別の加害行為につながる可能性があります。
たとえば、すれ違いざまに相手にぶつかり転倒などのケガをさせてしまった場合は、過失傷害罪が成立する可能性があります(刑法209条)。この場合に、かなりのスピードで駆け上がっていたなど特殊な事情があれば、重過失傷害罪が成立する可能性もあります(同211条)。
 
それ以外にも、駆け上がっていた人自身がバランスを崩し、女性利用者の身体に触れてしまった場合には、痴漢行為として、各自治体の定める迷惑防止条例違反となってしまう可能性があります。
 
このように、エスカレーター条例そのものには罰則規定はないものの、ほかの加害行為につながってしまう可能性があるため、エスカレーターの歩き利用や駆け上がりなどは避けた方が良いでしょう。

03.歩きスマホ条例などエスカレーター以外でも日常の危険行為の見直しが

エスカレーター条例だけでなく、日常生活の中での危険な行為が条例で規制される事例は増加傾向にあります。
神奈川県大和市で全国初、歩きスマホを禁止する「大和市歩きスマホの防止に関する条例」が施行されたことは記憶に新しいでしょう(2020年7月1日施行)。
これは、信号無視や前方不注意などにより交通事故につながる危険性が高いため、社会問題になっていた「歩きスマホ」を規制する条例です。

・市内の道路、駅前広場、公園などの公共の場所(室内などを除く)で歩きスマホ(画面を注視しながら歩行すること)を禁止
・スマホ等の画面を見るときは、通行の妨げにならない場所で、立ち止まった状態で行わなければならない
・スマートフォン、携帯電話、タブレット端末、これらに類する物(ゲーム機やカメラなど画面を注視して使用する機器類)が対象
・罰則はないが、市民等及び事業者は歩きスマホ防止の意識啓発など、市の施策に協力するよう努める責務がある

エスカレーター条例と同じく罰則規定はないものの、歩きスマホが様々な加害行為につながる危険性が高いことは言うまでもありません。
歩きスマホを原因とした痛ましい事故が発生していることからも、条例による規制がなくとも避けるべき行動であることは確かでしょう。

04.全国にはエスカレーター条例以外にもユニークな条例が多数あり

ところで、全国各地には、ユニークな条例がいくつもあります。
たとえば、香川県の「ネット・ゲーム依存症対策条例」は、賛否両論を集めて話題となったのでご存じの方も多いでしょう。
子どもの良いところを見つけ、とにかく褒めてあげる鹿児島県志布志市「子ほめ条例」、30才以上の町民の結婚を促進する三重県紀勢町「キューピット条例」など、各自治体によってさまざまな条例が存在します。
自分が住んでいる自治体に、珍しい条例がないか確認してみるのも面白いかもしれません。

05.日常の危険行為に関わるエスカレーター条例などには注意しましょう

全国初の「エスカレーター条例」をはじめ、「スマホ条例」など、私たちの日常の行動に関わる条例について解説しました。
普段の何気ない行為でも、危険な行為につながる可能性がないか、規制がされていないかなどを改めて考えてみると良いでしょう。
 
条例には、各地方自治体の理念や独自性が反映されているものも少なくなく、自治体からのアピール要素もあります。今後も、ユニークな珍しい条例が登場し、話題になるかもしれません。
今回のコラムで解説した「エスカレーター条例」や「歩きスマホ条例」などの日常生活に関わる条例は、罰則規定の有無を問わず、違反してしまうことがないよう注意しましょう。

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