高年齢者雇用安定法について(知って得する法律相談所 第10回)
弁護士法人アドバンス 代表弁護士・税理士
五十部 紀英
2021/7/16
第10回 再構築が進む高齢者の雇用制度
新型コロナウイルスの感染拡大および拡大防止のための緊急事態宣言など、今までに経験したことのない2020年が終わり、2021年が始まりました。
2021年も継続して新型コロナウイルスの感染拡大には細心の注意を払う必要がありますが、それと並行して、今年中に改正・施行される法律に関しても、押さえてお くべきポイントや検討しなければならないポイントがあります。
そこで今回は、2021年に改正される主な法律の紹介と、その中でも注目されている高年齢者雇用安定法の改正箇所について、弁護士が解説します。
1.今年に改正・施行される主な法律
今年に改正・施行され、かつ私たちにとって身近な内容の主な法律は下記の通りです。
改正郵便法(施行時期:2021年夏頃)
減少傾向にある郵便物の対応と、郵便局で働いている局員の労働環境改善を目的として、
普通郵便物の土曜日配達と翌日配達が廃止されます。
改正予防接種法(施行時期:2021年中)
既に海外で接種が開始されている新型コロナウイルスのワクチンについて、日本人への安全性や有効性を確認次第、費用は全額、国が負担し、実施主体を市区町村と する内容の改正予防接種法が昨年の秋の臨時国会で成立しました。
改正育児・介護休業法(施行時期:1月1日)
子どもや親などの育児・介護のための休暇が、今までは半日単位での取得かつ、1日の所定労働時間が4時間以下の労働者は取得できませんでした。しかし、1月1日よ り、すべての労働者が時間単位で取得できるようになりました。
改正著作権法(施行時期:1月1日)
今までは音楽や映像が違法ダウンロードの規制対象となっていましたが、1月1日以降、漫画や書物なども規制の対象となりました。
改正会社法(施行時期:3月1日)
これまでは株主総会において、一部の株主が株主提案を濫発するなど、円滑な株主総会の運営の妨げになることが度々問題視されてきました。そこで、株主が提案で きる議案数の上限が10個に制限されるようになります。
その他、会社法の分野では、上場企業などに社外取締役の設置を義務づけるなど、改正は多岐に渡ります。
そして上記以外の法律に注目すべき法律が、高齢化社会に対応して改正された高年齢者雇用安定法です。詳しく見ていきましょう。
2.高年齢者雇用安定法の改正
高年齢者雇用安定法は1971年に、高年齢者の安定した雇用の確保の促進、高年齢者等の再就職の促進を通じて、高年齢者が活躍できる環境整備を図る目的で成立しま した。
各市区町村に存在するシルバー人材センターもこの法律に基づき設立されました。
(1)今までの高年齢者雇用安定法
〇60歳未満の定年禁止
定年を定める場合、その年齢は60歳以上としなければなりませんでした。
〇65歳までの雇用確保措置
定年を65歳未満に定めている場合、事業主は、下記のいずれかの措置を講じなければなりませんでした。
・65歳までの定年齢引上げ
・定年制の廃止
・原則、65歳までの希望者全員に対し再雇用制度などの継続雇用制度の導入
これらの措置を何ら行わず、公共職業安定所(ハローワーク)からの度重なる指導に対しても是正されない場合は、企業名を公表される可能性がありました。
(2)改正高年齢者雇用安定法(令和3年4月1日施行)
一言でいえば、希望者に対し、70歳まで、何らかの就業の機会を設けるように定める改正が行われました。
つまり、上記の65歳までの雇用確保措置に加えて、65歳から70歳までの希望する労働者に対し、就業機会を確保するための措置として、下記のいずれかの措置を講じ るように努めなければいけなくなりました。
・70歳までの定年齢引き上げ
・70歳までの再雇用制度などの継続雇用制度の導入
・定年後、70歳までの間に業務委託契約などを締結して継続的に業務をする制度の導入
・定年後、70歳までの間に継続的に業務が行える社会貢献事業(特定の団体の為だけではなく、福祉事業などの不特定多数の団体や人間の利益になる活動)制度の導
入
なお、これらに関しては、絶対的に講じなければならないというものではなく、努力義務という限定的な措置としています。また、厚生労働省としては、例えば、「 対象者を一定の成績を修めた者に限る」といった具合に、対象者に一定の基準を設ける場合には、労働組合等の同意を得るように求めています。
3.法律が改正された背景
この法律が改正された背景には、少子高齢化が進み、それに追随する形で労働力の減少が予測されているという点があります。そして、その労働力不足を補うために 、就業意欲のある高齢者を雇用し、高齢者が今までに得た経験などを生かす目的があります。
また、高齢化が進むということは、年金支給対象者が増え、年金の財源確保といった問題もあります。現在は、支給開始年齢を引き上げたり、支給額を減少する対策 を行っていますが、高齢者はその分、何らかの形で収入を維持しなければならない仕組みを構築しなければなりません。
つまり、今回の改正は、定年後も働き続けたい高齢者の要望と、年金の支給額減少に伴う収入の減少で働かざるをえない高齢者の現状の、双方に対応した結果といえ ます。
4.まとめ
高齢者に対する雇用制度の再構築は、就業者にとっても就業意欲の向上につながり、企業側にとっても、企業のイメージアップにつながるという、双方にメリットが あります。
政府としては、法律で高齢者に対する雇用延長などを義務付けるだけではなく、実際にそれらの制度を構築した企業に対し、助成金を支給するなどの対策も同時に行 っています。助成金の活用は、企業の貴重な財源ともなる可能性があります。
助成金は、所定の要件を満たした場合に支給される複数のコースが存在します。興味を持たれた方は、専門家に相談してみるのもよいでしょう。