経済的DVを受けていませんか?(知って得する法律相談所 第20回)
弁護士法人アドバンス 代表弁護士・税理士
五十部 紀英
2021/11/29
01. 行き過ぎたケチは暴力?もしかして経済的DVを受けていませんか
あなたは今、次のような悩みを抱えていないでしょうか。
「旦那が給与明細を見せてくれずわずかな生活費でやりくりしている」
「収入のすべてを管理されていて自分が自由にできるお金がほとんどない」
配偶者の行き過ぎた倹約やケチが原因で、苦しい思いをしている。もしかしたらそれは「経済的DV」といわれる、DV被害の一種を受けている状況かもしれません。
今回のコラムでは、離婚理由にもなりうる「経済的DV」について説明します。
01-1.経済的DVとは?
経済的DVに法律上の定義はなく、最近、認知が進んできた言葉です。配偶者や事実婚のパートナーなどから金銭的な自由を奪い、経済的・精神的に追い詰めて支配する行為を「金銭的な暴力」として「経済的DV」と呼ぶようになりました。
DV(ドメスティックバイオレンス)に関する法律には「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」(通称「DV防止法」)があり、肉体的な暴力だけではなく暴言や罵倒といった精神的な暴力も保護の対象とされています(DV防止法1条1項)。
しかし、肉体的・精神的なDVではない経済的DVは、同法の直接的な保護対象ではありません。また、社会的に広く知られていないことから、被害者自身もDVを受けている認識がない場合も少なくはありません。
01-2.経済的DVの定義について
各家庭によって必要な生活費(婚姻費用)は異なるため、「いくらしか渡されていなければ経済的DVになる」というような定義はありません。
しかし、夫婦には婚姻費用の分担義務という、生活費(婚姻費用)を分担する法律上の義務があります(民法第760条)。
したがって、十分な収入があるにも関わらず、どちらかが少なすぎる生活費でのやりくりを強制され、経済的精神的に苦しい思いをさせられているときは、婚姻費用の分担義務に反している場合があります。そのような場合は、経済的DVにあたる可能性が高いでしょう。
02.こんな行為は経済的DV!不安になったら確認すべき6つのポイント
次に、具体的にどのような行為が経済的DVとして認められやすいのか、確認すべき6つのポイントを解説します。
02-1.収入があるのに家庭に生活費を入れてくれない
夫婦のどちらかに収入があるのに、家庭を維持するのに必要な生活費を渡さない場合、または、家計を維持するために一方だけが経済的に困窮している場合は、経済的DVにあたる可能性があります。
たとえば、生活費の支払いを求める際に暴力を受けるほか、暴言を吐かれたり罵倒されるため、仕方なく両親の援助を受けたり貯金を切り崩したりするなどで生活費を捻出している場合などです。
02-2.過度の節約の強要や必要以上に家計を厳しく管理してくる
過度な節約強要や、極端な少額で生活費をやりくりするように強要される場合は、経済的DVの可能性があります。たとえば、十分な収入があるのも関わらず必要な食費が渡されなかったり、領収書(レシート)や家計簿の内容を1円単位で管理し、納得がいかないと怒ったり暴言をはいたりする場合が該当します。
02-3「誰が稼いだ金で生活できると思っているんだ」などの暴言がある
DV防止法では「配偶者からの身体に対する暴力又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動」として、精神的暴力(暴言)もDVに含まれます。
そのため、「誰が稼いだ金で生活できていると思っているんだ」など、生活費に関する金銭的な暴言は経済的DVにあたる可能性があります。
02-4.自分が働くことを認めてもらえない
専業主婦(主夫)であることを強要するなどして、配偶者やパートナーが働きたい意思があるにも関わらずこれを認めない、または働きにくい環境を作るなどの場合です。
配偶者やパートナーが働きに行くことをそもそも許さないなども、経済的DVにあたる可能性があります。
02-5.家計を握られ自分の自由になるお金がない
最低限の生活費しかもらえず、自分で自由にできるお金がまったくないという場合です。
夫婦が婚姻期間中に築いた財産は、たとえどちらか一方が稼いだお金であっても「共有財産」となります(民法第762条)。
そのため、正当な理由なく、夫婦どちらか一方が共有財産を管理し、相手方が自由に使えるお金を認めず経済的に困窮させることは、経済的DVにあたる可能性があります。
02-6.その他
そのほか、「相談なく勝手に自分の預貯金を使われる」「ギャンブルや遊興費など浪費のため借金をする、させられる」などの場合も、夫婦どちらかの一方的な都合で相手方へ経済的困窮を強いる行為として、経済体DVにあたる可能性があります。
03.経済的DVで離婚が認められるケースも、被害時の対策について
前述のような行為がある場合は、民法第752条に定められている夫婦の扶助義務や協力義務に違反していると認められる可能性があります。
夫婦関係において、収入がある、または高い方の配偶者は、そうではない配偶者に対し自分と同水準の生活を保障する義務があるのです(民法第752条)。扶助義務・協力義務に違反していると判断されれば、離婚が認められる場合もあります。
それでは、経済的DVの被害を受けている場合、離婚は可能なのでしょうか。そして、被害時にはどんな対策が有効なのでしょうか。
03-1.経済的DVの被害に遭った際に取るべき行動
まずは客観的な証拠を集めることが重要です。経済的DVは法律上の定義がないため、該当するか否かの線引きが難しいという特徴があります。
そのため、被害状況を客観的に第三者に示すための証拠が重要なのです。具体的には、預金通帳や家計簿などの記録をはじめ、ボイスレコーダーやメール履歴などがあげられます。このような配偶者との実際のやりとりを記録し、経済的DVの事実を明らかにできれば、以後の離婚に向けた交渉や慰謝料請求などにおいても有効な証拠になることでしょう。
しかし、何が有効な証拠になるのかを判断するのは難しい場合が多く、せっかく集めた証拠があまり有効的ではなかった、ということもあるかもしれません。
ご自身が経済的DV被害に遭っているかもしれないとお悩みの場合は、まずは弁護士に相談し、適切な証拠集めのアドバイスなどをもらうことをおすすめします。
03-2.離婚に同意してもらえないケースについて
離婚において配偶者の同意がない場合はどうすればよいのでしょうか。
離婚には、当事者である夫婦同士の話し合いで離婚を進める「協議離婚」と、家庭裁判所の調停や裁判により離婚を認めてもらう「調停離婚」「裁判離婚」などがあります。
裁判離婚の場合、後述するように、法定離婚事由がなければならないと法律で定められています。
そのため、経済的DV被害に遭っていても、相手の同意がない場合は離婚するためには裁判に訴える必要があるのです。
そして、裁判を有利に進めるためには、被害状況を客観的に第三者に示すための証拠集めが重要となります。
03-3.経済的DVで離婚が認められる条件
民法では、裁判により離婚が認められる原因、つまり法定の離婚事由(民法第770条1項各号)として、
①不貞行為、②悪意の遺棄、③3年以上の生死不明、④配偶者が強度の精神病にかかり回復の見込みがないこと、⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由、という5つを挙げています(民法第770条)。
このうち、経済体DVが該当する可能性があるものは、「②悪意の遺棄」と「⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由」となります。
「悪意の遺棄」とは、夫婦の同居義務などを果たさないことをいいます。婚姻費用の分担義務に違反する場合のほか、夫婦のどちらかが一方的に別居をして生活費を送らない、または別居せざるを得ないような状況に仕向ける場合が該当します。
たとえば、働くことのできない配偶者を放置して別居し、長期間にわたり生活費を送らない場合などが典型的です。また、形式的には同居という形態であるものの、家族や配偶者として共同生活を送る意思がない場合や、生活費の負担を拒否する場合にも悪意の遺棄としてあてはまるという考え方もあります。そのため、経済的DVが悪意の遺棄にあたるとされる可能性があります。
「その他婚姻を継続し難い重大な事由」とは、悪意の遺棄とまでいえない場合においても、裁判所が当事者である夫婦の現状を総合的に考慮し、修復不可能なまでに夫婦関係が破綻していると判断される場合のことをいいます。
肉体的・精神的DVやモラハラ、不貞行為などが存在する場合は、経済的DVに加えそれら複数の法定の離婚事由を主張し、最終的に離婚を成立させることを目指すことが多くあります。
04.金銭的な支配は経済的DVの可能性あり!過度のケチには要注意を
配偶者の行き過ぎた倹約やケチが原因で苦しい思いをしているのであれば、それは経済的DVの被害かもしれません。
そして、経済的DVは法定離婚事由の中の、「悪意の遺棄」または「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する可能性があります。
しかし、離婚事由の判断は個別具体的な事情により異なるほか、経済的DVを理由に離婚を認めてもらうためには、婚姻生活の継続が不可能なほど深刻であることを示す客観的な証拠を集めなければいけません。
もし、経済的DVが原因で離婚を考えている方は、効果的な証拠の集め方など含め、離婚に強い弁護士に相談することをおすすめします。