現物分配における分配可能額<深読み 最新税制レビューVol.8>

佐藤信祐事務所 所長 公認会計士・税理士 博士(法学)
佐藤 信祐 先生

2023/8/25
業界屈指の専門家である佐藤信祐先生が、さまざまな税制や組織再編等に関する新しい論点・最新情報、少しマニアックな税務トピック、判例裁決事例など、独自の視点で解説します。

会社法461条1項柱書では、「次に掲げる行為により株主に対して交付する金銭等(括弧省略)の帳簿価額の総額は、当該行為がその効力を生ずる日における分配可能額を超えてはならない。」と規定されている。

このように、「帳簿価額」と規定されていることから、現物分配の場合には、当該現物分配の対象となる資産の帳簿価額が分配可能額を超えているかどうかにより判定するように思われる。

しかしながら、会社法の立案担当者の解説によると、会計上、現物分配法人で譲渡損益を認識したうえで時価で配当をする場合には、帳簿価額とは時価を意味し、会計上、現物分配法人で譲渡損益を認識せずに帳簿価額で配当をする場合には、適正な帳簿価額を意味することが明らかにされている(郡谷大輔ほか『会社法の計算詳解』275頁(中央経済社、第2版、平成20年))。

実務上、帳簿価額で配当をする典型的な事案として、100%親会社に配当をする事案が挙げられる。このような事案で、分配可能額が10億円である場合において、配当の対象となる資産の帳簿価額が3億円、時価が25億円であるときは、分配可能額と時価とを比較すると分配可能額を超えてしまうように思えるが、正しくは分配可能額と帳簿価額とを比較することから、分配可能額の範囲内で配当をしていることになる。これに対し、現物分配法人で譲渡損益を認識し、時価で配当をする事案の場合には、分配可能額と時価を比較することから、分配可能額を超えて配当をしたものと解されることになる。

これは、前述のような含み益のある資産を100%親会社に対して配当をする事案であったにもかかわらず、Web上の記事において、「上記の帳簿価額とは時価を意味することから、分配可能額の計算上、資産の含み益に十分に配慮する必要がある」と漠然と書かれていたため、分配可能額の規制に抵触するかどうかという疑問が生じたという事案である。

本事案における教訓として、①実務上の論点になりやすい点については、『会社法コンメンタール(商事法務)』『逐条解説会社法(中央経済社)』『論点体系会社法(第一法規)』『新基本法コンメンタール会社法(日本評論社)』などで解説されているため、これらの書籍で調べておく必要があり、②これらのコンメンタールは商法学者によって書かれたものなので、根拠となる解説や判例が明示されていることから、必ず一次文献に遡って分析する必要があるということが挙げられる。前述の事案では、コンメンタールから立案担当者の書籍に書かれていることを発見し、当該立案担当者の書籍により回答を導き出すことができたのである。

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