『みなし課税』はよく考えられています<税理士のヒヤリ・ハット体験談 第8回>

税理士法人 古田土会計 社員税理士
土田大輝

2021/7/16

第8回 『みなし課税』はよく考えられています

先月は、形式は贈与ではないが、贈与とみなす『みなし贈与』について、例を交えてお伝えしました。みなし課税は他にもあり、パッと出るだけでも『みなし譲渡』
『みなし配当』『みなし役員』等々挙がります。

この『みなし』の考え方は税務で非常に重要なことで、税務の考え(ここでは『税務脳』といいましょう)を常に持ちながら日々の業務にあたることで、思わぬヒヤ リハットを回避できるものと考えています。

例えば、先月のみなし贈与についても、その規定がなければ、

「(無償の)贈与であれば贈与税が課されるのであれば、少しでも代金を授受して売買契約にすることで、贈与ではなくなる?」ということを回避させるための『み なし』規定と考えられます。いわゆる、租税回避行為の防止策となります。

今回は法人が介入した場合の取扱いについて、お話しします。気を付けていないと恐ろしい、『みなし譲渡・低額譲渡』について、一緒に考えていきましょう。

エピソード:社長個人の資産を会社に譲渡する場合の『ヒヤリハット』
ケース1 事例【社長が所有する会社社屋を、その会社に譲渡】

会社社長がその社屋を個人で所有しており、その建物を法人が取得するケースを考えましょう。今回は固定資産税評価と時価との乖離が大きい建物を例にして取り上 げます。

設定:時価1億円

対価:3,000万円(固定資産税評価が3,000万円のため、その金額で売買した)

法人側は、対価がいくらであっても、時価で取得したものとして会計処理・税務処理がなされることは言うまでもありません。

法人の仕訳は、

建物 1億円 / 預金3,000万円
        受贈益7,000万円

となり、この7,000万円の受贈益に法人税が課税されます。

では譲渡した個人側は、どのような取扱いになるでしょうか。個人は3,000万円が対価として入ってきましたのでその金額から取得費・譲渡費用(2,000万円とします )との差額について所得税が課されるかというと、そうではありません。相手が法人の場合は低額譲渡の規定により、時価より著しく低い対価(概ね2分の1未満)での対価の場合、1億円の時価で譲渡したものとして所得税が計算されます。それだけお金が入っていないのにもかかわらず、思わぬ多額の税金の支払いが発生するという現象になります。

このような個人の取扱いは、私はずっと個人に対する嫌がらせだと思ってきていました。

しかしよく考えると、このみなし譲渡・低額譲渡の規定がなければ、逆に課税のタイミングが不公平に少なくなっていくことに気が付きました。

ケース2 事例を個人 間取引だった場合として、考えてみましょう。

買手が法人でなく個人だった場合は、買手個人が時価1億円と対価3,000万円との差額について、贈与税が課されます。そして、ここからがポイントなのですが、買手 個人がその後第三者に譲渡した場合、その買手の所得税計算上の取得費は3,000万円になります。したがって、仮に第三者に1億円で譲渡したのであれば、その差の7,000万円について所得税が課されます。

整理すると、売手(A)から買手(B)へ、そして第三者(C)へ売り抜いた場合、

Bが個人の場合:

  • 贈与(又は受贈益)の課税:Bが7,000万円に対して贈与税
  • 譲渡の課税:Aに、1,000万円に対して所得税

        Bに、7,000万円に対して所得税がかかります。

ケース1の場合は、Bが法人です。

  • 贈与(又は受贈益)の課税:Bが7,000万円に対して贈与税
  • 譲渡の課税:Aに、低額譲渡の規定により、8,000万円に対して所得税

        Bは、帳簿価額が時価1億円になっているため、譲渡益は無し

となります。

下線を引いたAに対する課税の規定があることによって、Bが個人の場合と法人の場合とで、課税される総額が同じになります。

つまり、このみなし譲渡・低額譲渡の規定は、故意かに限らず租税回避行為がなされた場合に、不公平を解消させるために決まって いることがわかりました。

私は、このことに気が付いたときに、税法の奥深さに取りつかれてしまいました。周知のように、税理士試験は法人税法や所得税法など、税法ごとに選択して勉強し ます。しかし、実務はそれら色々な税法が一つの事例に介在してきて、すべてに精通していなければなりません。これを私は『税務脳』と言っています。

常にいろいろな事例について考えていくことで、税務脳がトレーニングされていきます。

これからも、このコラムで一緒に脳トレしていきましょう。

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