取引先の経営悪化などに備えた債権回収の準備【後半】<企業経営者へのアプローチに役立つ法律講座 第10回>
鳥飼総合法律事務所 弁護士
佐藤香織
2021/12/28
第10回 取引先の経営悪化などに備えた債権回収の準備【後半】
1 保証以外の債権回収の準備
前回、会社が、取引先と売買契約を締結して売買代金が支払われる側となるとき、または、金銭消費貸借契約を締結して貸金の返済を受ける側になるときに、取引先の経営悪化などにより約定の金銭が支払われなくなる場合の対策として、事前に、(連帯)保証人との間で(連帯)保証契約を締結する方法について、説明しました。
今回は、それ以外の方法について、簡単にご説明します。
2 抵当権の設定と実行
取引先が土地や建物といった不動産を所有している場合、その不動産に抵当権を設定する方法があります。
抵当権とは、債権者が、貸し出した資金などの金銭債権を確実に回収するために、債務者所有の不動産を担保として利用できる権利です(債務者の所有不動産ではなく、第三者の合意を得て当該第三者の所有不動産に抵当権を設定する方法もあります。)。
例えば、銀行(債権者)が会社(債務者)に貸し付けを行う場合、代表取締役個人と保証契約を締結する方法(保証は、「人的担保」とも言います。)もありますが、会社が、工場や本社ビルなどの不動産を所有していれば、それらの不動産に抵当権を設定する方法(抵当権は、「物的担保」とも言います。)もあります。人的担保と物的担保を両方備えておくこともできます。
前回あげた例で、「A社がB社に対し500万円を貸し付けて、1年後にB社がA社に全額返済する、という約束をしたとします。このA社とB社の間の契約は、金銭消費貸借契約(民法587条)と言います。」の場合、金銭消費貸借契約をA社(債権者)とB社(債務者)との間で締結し、この契約に基づき、A社とB社との間で、B社所有の不動産について「抵当権設定契約」を締結します。
不動産に抵当権を設定するには、登記が必要です。登記手続きは、司法書士に依頼する場合が多いです。
そして、B社の返済が滞った場合、A社は、抵当権を実行することができます。抵当権の実行の手続は、裁判所に「競売」の申立てをします。その後は、裁判所の手続により、競売で不動産が売却できれば、A社は、競売により得た代金をB社の債務の返済に充てることができます。
3 その他の方法
その他にも債権回収の方法は様々あります。その一部をあげると、債権譲渡(民法466条以降)、相殺(民法505条以降)も、債権回収の手段として有効です。
債権譲渡は、会社(債権者)の取引先(債務者)が第三者(第三債務者)に対して持っている債権を会社に譲渡してもらい、取引先の代わりに、会社が、その第三者からお金を回収する権利を得る方法です。
相殺は、会社が取引先に対して有する債権があって、逆に、取引先が会社に対して債権を有している場合、つまり、双方ともがそれぞれ相手方に対して債権を有する状態になっている場合に、一定の要件のもとで、同じ金額で消しあうことを言います。
ただし、こうした方法は、法律に則って適切に行わなければ、効力を生じません。また、債権を回収したい場合というのは、あなたの会社の他にも債権者が複数あり、その債権者がみな同じことを考えている可能性があります。そこで、素早く検討して行動に移すことがとても重要です。
そのため、契約を締結する前に専門家である弁護士に相談するなどして、できるだけ早い段階から対策を立てておくことが、後に自社を救うことになるのです。
4 最後に
今回をもちまして、「企業経営者へのアプローチに役立つ法律講座」は最終回となります。
この10回の連載で紹介した法律は、企業を取り巻く法律のほんの一部ではありますが、企業経営は法律に密接に関係しているということに少しでも気づいていただけたのであれば幸いです。