中小企業が直面する市場縮小による危機<中小・中堅企業のためのSDGs入門 Vol.7>
金沢工業大学 地方創生研究所 SDGs推進センター長 情報フロンティア学部 経営情報学科 准教授
平本 督太郎
2021/7/17
vol.7 日本の中小企業が直面する危機とSDGsとの関係③
(市場縮小による危機)
今回は、日本の中小企業が直面する5つの危機のうち、「③市場縮小による危機」について、概要と先行企業事例について簡潔にお伝えしましょう。
日本の国内市場は、今後大きく縮小し続けます。日本の総人口は2010年の1億2,805万7千人から減少し続けていますが、世帯人口は2023年の5,419万世帯をピークに減 少に転じていくと予測されています。日本は、自動車や家電等をはじめとする世帯向けの製品を中核とした産業を強みとし、関連した中小企業の数も非常に多いのが 特徴です。そのため、今後日本の中小企業はますます市場縮小の脅威にさらされていくことが予想されます。
今後の右肩下がりの市場環境においては、SDGsをうまく活用し、業界の進化、具体的には一社単独で改善を目指すのではなく、業界全体として改革を進めていくこと が求められます。複数社が連携することができれば、一社では実施できない事業に取り組むことや、効率性向上手法を共有していくことを通じた利益向上が実現可能 です。業界内の縦横連携による利益創出手法はこれまで商社のような客観的視点を持つ企業にとって確実に稼げる得意領域とされてきました。しかしながら、SDGsを うまく活用することができれば、こうした改革を中小企業自身が自発的に実施していくことが容易になります。SDGsがこうした変化のきっかけとして有効なのは、SDGsが長期の目標で方向性が世界中で共有されており、競争よりも共創といったパートナーシップを重視した概念であるため、業界内での縦横連携を呼びかけやすいためです。
例えば、第2回「ジャパンSDGsアワード」副本部長賞を受賞した会宝産業株式会社では、国内の自動車保有台数が今後減少し自動車リサイクル業界が縮小していくことが予測される中で、全国の自動車リサイクル事業者によるネットワークとして、会宝リサイクラーズアライアンスを立ち上げ、運営しています。経営分析・仕入れ調 達・海外輸出を一括サポートするネットワークを構築することで、各社の経営改善を実現するとともに、SDGsのゴール12「つくる責任つかう責任」における循環産業
の拡大に貢献しているのです。また、数十社の中小企業が連携することによって、動脈・静脈を一気通貫した自動車業界全体の改革に向けた取り組み推進をも実現し ています。会宝産業株式会社は2018年5月に東京の国連大学で、ジャパンSDGs静脈産業フォーラムを開催し、UNDPやJICA等の国連機関・日本政府機関に加え、自動車を生産する本田技研工業株式会社やカーシェア・レンタカー・リースを提供するオリックス自動車株式会社を登壇者に招き、自動車業界全体の循環産業化を目指した改 革を呼びかけています。
このように、SDGsをうまく活用すれば、中小企業の横連携を強化することで、各企業の経営改善を実現するだけではなく、中小企業発で大企業や国連・政府を巻き込 んだ業界全体の改革を働きかけることが可能となります。そして、そうした活動によって、中小企業だけでは実施不可能な市場縮小の危機から脱するための新たな糸 口をつかむことも可能となるのです。