台風時の出社・出勤強制は会社側のリスク大(知って得する法律相談所 第18回)

弁護士法人アドバンス 代表弁護士・税理士
五十部 紀英

2021/10/20

01. 台風や自然災害が起こったときの出社・出勤の必要性について

昨今、台風や豪雨豪雪といった自然災害が相次いでいます。これにともない、自然災害時の仕事のあり方に関する議論も、SNSなどを中心に随所で加速している傾向にあります。
こういった、事前予測がある程度可能な自然災害時における社員の出社・出勤について、あなたの会社ではどのようなお考えをお持ちでしょうか。

たとえば台風。ひと昔前の古き良き昭和の時代では、「例え台風であろうが這ってでも出社すべき」といった考えが一般的であるとされてきましたが、現在では地球温暖化の影響もあり、台風は年々強大化しているというデータもあります。状況は昔とは大きく変わってきていると言えるでしょう。 

そのため、価値観をアップデートしないまま過去の常識にとらわれていると、思いもよらぬリスクを負ってしまう可能性があります。

そこで今回の記事では、自然災害時の出社・出勤について弁護士が法律的な観点から解説します。

02.【安全配慮義務違反】台風時の出社・出勤強制は会社側のリスク大

台風や豪雨豪雪などは、天気予報などで、ある程度は事前予測が可能な自然災害です。場合によっては、前日のうちから電車各線の計画運休のアナウンスもあることでしょう。

こういった状況で、従業員に通常通りの出社出勤を求めた場合、会社側が負う責任と義務はどのようなものでしょうか。

結論から言うと、自然災害時の出社出勤に関する法的な規則はありません。しかし、台風や豪雨豪雪といった自然災害時に、企業が従業員に出社・出勤を強制したり、判断を従業員任せにしたりすることで、従業員が何かしらの被害を受けた場合、企業は「安全配慮義務」違反に問われる可能性があります。

安全配慮義務とは、企業が従業員の安全を常に確保しなければならない法的な義務のことです(労働契約法第5条)。

そのため、明らかに自然災害が起こることが予見される状況で、出社・出勤を強制したり、従業員本人の判断任せにしたりすることは、企業が果たすべき義務を怠ったと捉えられ、ペナルティを課せられる可能性が高いのです。

03.社員が台風時の出社・出勤でケガをすると損害賠償請求の可能性あり

それでは、事前に予見可能な自然災害時に従業員に出社・出勤を強制して安全配慮義務違反となった場合、企業はどのようなペナルティが課せられるのでしょうか。

出社・出勤した従業員がケガをするなどの被害を負った場合、企業には損害賠償義務を負う場合があります。具体的には、民法上の不法行為責任および使用者責任、債務不履行責任などに抵触したとして、従業員から損害賠償を請求される可能性があるのです(民法第709条、同715条、同415条)。

また、自然災害時に出社・出勤を強制したとして、従業員がSNSで社名を投稿し、その投稿が拡散された場合、企業イメージやブランディングの失墜というリスクも非常に大きいものと言えます。

数年前、電車が止まるほどの台風直撃時に出社・出勤強制させられた従業員が、その実態をSNSで拡散し、企業名入りでネット炎上した事件を覚えている方も多いことでしょう。ネット上には企業名入りの情報が半永久的に残り続けるため、この手のネット炎上は百害あって一利なしです。

したがって、台風や豪雨豪雪などの自然災害時には、出社・出勤を強制したり、従業員の判断に任せたりしない方がよいでしょう。
企業側が先手を打って、在宅勤務への切り替えや災害当日の自宅待機に休業などを就業規則等で定めておくことをおすすめします。
その上で、遅くとも自然災害が予測される前日には、会社としての対応を全体に周知しておくとよいでしょう。

04.台風時の出社・出勤によるケガが賠償金の対象になる3つのポイント

台風や豪雨豪雪といった自然災害時に、出社・出勤中に従業員が被害を負い、安全配慮義務違反で損害賠償請求が認められるには次の3つのポイントがあります。

・予見可能性
・結果回避性
・因果関係

予見可能性とは、ケガなどの被害発生が事前に予測できたと認定されることです。
結果回避性とは、事前にケガなどの被害発生を回避する方法があったにも関わらずそれを実施しなかったことが認められること。
最後の因果関係は、企業側が怠った義務と被害の実態を総合的に鑑みて判断される関係性のことです。

この3点が認められると、企業側の安全配慮義務違反と判断され、損害賠償の請求につながる可能性が非常に高くなります。
 
たとえば、次のような状況の場合は安全配慮義務違反に該当する可能性があります。
 
・台風や豪雨豪雪といった自然災害の発生および被害が予測されると大々的に報道がある
・在宅勤務や自宅待機などの業務命令を出さず、出社出勤の強制および個々の判断に任せた
・出社出勤中の従業員が、強風で飛んできた飛行物で骨折をした

このようなケースでは、ニュースなどで大規模な自然災害の発生が報道されていていることから、甚大な被害が発生することが予測されます。そのような状況で出社・出勤をした場合、「強風により転倒する」「洪水などで車が水没する」「混雑した駅のホームで誤って線路等に転落してしまう」「風で飛ばされた飛行物が当たる」といった通勤中の被害が発生することも予測できます。

その対策としては、在宅勤務や自宅待機などの業務命令を会社が出していれば、これらの被害を回避することができます。

つまり、予見可能性と結果回避性とともに被害への因果関係も認められやすくなり、企業の安全配慮義務違反となる可能性があります。

05.【可能なら在宅勤務を推奨】台風や自然災害時の出社・出勤はNG

今回のコラムでは、台風や豪雨豪雪といった自然災害時に、従業員に出社・出勤を強制させることで企業が負うリスクについて解説しました。 
そもそも台風などの自然災害は昔に比べて強大化していることや、価値観の変化も大きく、ひと昔前の常識は今では通用しにくくなっています。

仮に、自然災害時の出社・出勤強要が安全配慮義務違反で損害賠償請求などに該当しなくても、世情にそぐわない古い価値観での業務指示はパワハラやモラハラなどに該当する場合も少なくはありません。

従業員側のリスク回避はもちろん、企業側のリスク回避のためにも、自然災害時における社員の出社・出勤に関する規則はきちんと定めておいた方がよいでしょう。
このような社内規定や就業規則などの労務コンプライアンスは、ちょっとしたことから非常に大きな問題につながることも今では少なくはありません。

弁護士や社労士の監修のもとに、しっかり定めておくことをおすすめします。

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