中小企業が直面する取引条件変更による危機<中小・中堅企業のためのSDGs入門 Vol.8>

金沢工業大学 地方創生研究所 SDGs推進センター長 情報フロンティア学部 経営情報学科 准教授
平本 督太郎

2021/7/17

vol.8 日本の中小企業が直面する危機とSDGsとの関係④
(取引条件変更による危機)

今回は、日本の中小企業が直面する5つの危機のうち、「④取引条件変更による危機」について、概要と先行企業事例について簡潔にお伝えしましょう。

SDGsによって、企業間取引(B2B)、対政府取引(B2G)の取引条件が大きく変わっていきます。これまでは、品質が高い、もしくはコストが低ければ取引先に選ばれ るため、多くの企業が品質の向上やコストの削減に取り組んできました。しかし、最近では、取引相手のSDGsの取り組みに沿った製品・サービスでなければ取引先に 選ばれないという状況が発生してきています。(下図)

例えば、米アップル社は、パリ協定の影響から事業運営を100%再生可能エネルギー(水力、太陽光、風力、地熱、バイオマス)で行うことを目指すイニシアチブRE100に加盟しています。そして、自社の事業運営だけではなく、サプライヤーにも100%再生可能エネルギーでの事業運営を要求しています。そのような状況の中で、米 アップル社は、日本の岐阜県大垣市に本社を置く電子部品メーカー「イビデン」との契約を「100%再生可能エネルギーでアップルの製造を支えると約束した、日本初の企業です」として大々的にプレスリリースしたのです。米アップル社の製品には日本の中堅・中小企業が有している技術が数多く使われています。しかしながら、 最近では台湾企業、韓国企業による追い上げもあり、競争が激化しています。そのような中で、イビデンは2018年までにアップル向けのプリント配線板などを、太陽 光発電100%で製造する契約を結んだのです。これは、台湾企業、韓国企業との競争が激化する局面を打ち破る一手となったと言えるでしょう。この出来事はまさにSDGsが取引の第3の軸になりつつあることを象徴していると言えます。そして、この動きはIT業界以外にも広がってきています。

また、対政府取引においても、東京オリンピックでの持続可能な調達をきっかけに、各省庁・各自治体での調達手法の見直しが進んでいくと想定されます。実際に、
欧州では調達方法の改善が進んでおり、欧州で事業を進めている日本企業はその対応に追われています。

SDGsビジネスコンテスト最優秀賞を受賞している株式会社エコシステムは、こうした状況下をビジネスチャンスとしてとらえ事業展開を進めています。株式会社エコ システムでは、廃材となった瓦をリサイクルした特殊素材を作り環境配慮型の道路舗装材を提供しています。この舗装材は透水・保水効果があるため、気候変動によ って発生するヒートアイランド現象や都市型洪水の軽減に効果を発揮します。実際に、日本国内はもちろん、海外でもニーズは高く、自治体やインフラ関連企業から の問い合わせも多い状況です。

欧州においては、新型コロナウイルス感染拡大からの経済復興の際に、社会投資をSDGs基準で実施するグリーンリカバリーという動きが加速してきています。その動 きは欧州だけではなく、世界中に広まりつつあります。日本の中小企業も今後、取引条件がどのように変更していく可能性があるのかを見極めながら、SDGsを自社の 事業に取り入れていくことが必要になるのです。

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