炭素税の導入について考える<深読み 最新税制レビューVol.2>

佐藤信祐事務所 所長 公認会計士・税理士 博士(法学)
佐藤 信祐 先生

2023/3/2
業界屈指の専門家である佐藤信祐先生が、さまざまな税制や組織再編等に関する新しい論点・最新情報、少しマニアックな税務トピック、判例裁決事例など、独自の視点で解説します。

持続可能な社会を実現するための考え方として、「SDGs」や「ESG」といった言葉を聞くようになった。日本公認会計士協会が行う研修でもESGを意識したものが増えており、上場企業には環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)を意識した経営をすることが求められている。

環境問題というとグローバルな問題になってしまうが、身近なものに目を向けると、プラスチックとエネルギーがまず挙げられる。最近のペットボトルは素材が薄くなったように感じられるが、その理由は、「容器包装リサイクル法」の施行により、製造・販売業者が「日本容器包装リサイクル協会」に委託料を支払うことで実質的にリサイクル費用を賄うことになったため、その経費を削減する必要が生じたからであると考えられる。

自由主義国家においては、国家による強制力が弱いことから、環境にとって良い方向へ国民を誘導するためには税金や補助金といった手段を用いる必要がある。炭素税について議論されている理由は「二酸化炭素の排出量が大幅に増加する活動をしないように誘導するため」であるが、そこで大きな問題になるのは、二酸化炭素の排出の多くは運輸と電気由来であり、そこには生活必需品がかなり含まれているという点である。

生活必需品に対して課税すると「低所得者の生活が困窮する」という点が問題視されるのかもしれないが、そもそも生活必需品であることから、中所得者、高所得者が生活必需品の購入を控えるとは考えにくい。例えば、最近は電気代が高騰しているが、電気の使用を控えている人がどのくらいいるだろうか。このように、10%や20%の炭素税を消費者に課したからといって、二酸化炭素の排出はほとんど減らないと考えられる。

すなわち、間接税といった消費者に分かりやすい形ではなく、製造・販売業者にコストを負担させることで、二酸化炭素の排出を抑える企業努力を促すための制度が整備されていく可能性が高いだろう。そして、このような傾向は、産業構造の変化をもたらすことから、スタートアップやM&Aが増えていくことが予想される。実際、2022年、2023年の岸田総理の年頭記者会見ではスタートアップへの支援が大きくクローズアップされており、脱炭素をテーマとしたスタートアップが生まれてくることも予想される。さらに、スタートアップの出口として、IPOだけでなく、M&Aによるエグジットも想定される。脱炭素をテーマとしたM&Aはまだ行われていないが、近い将来にそういったM&Aが増えていく可能性は高いと考えている。

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