税理士の業務内容はどう書く?<契約書のポイント 会社と税理士の顧問契約 第4回>
鳥飼総合法律事務所 弁護士
佐藤香織
2021/7/18
第4回 税理士の業務内容はどう書く?
1 業務内容を明確に
今回は、委任契約書の中でも、特に重要な部分を説明します。
会社と税理士の顧問契約においては、税理士の業務内容を明確にしておくことが、とても重要です。なぜなら、税理士の受任業務は、顧問契約の内容によって判断さ れるからです。
こう書くと当たり前のことに思えますが、実は問題が起きることが、多々あります。例えば、決めたはずの業務内容について、会社と税理士との間で理解が異なって
いることなどです。会社は、税理士はこれくらいやってくれるものだと思っていて、その一方で、税理士は、そこまでは業務の範囲ではないと思っていた、というよ うなことが起きるわけです。
この両者の意識の違いが明らかになるのは、上手くいっているときではありません。クライアントからクレームが来るなど、何か問題が発生したときです。
このような問題が発生したときに、まず確認するのが、顧問契約書に受任業務の内容がどう書いてあるか、という点です。
たとえば、以下の内容が書かれた顧問契約書があるとします。
【例:顧問契約書に記載された委任業務】
第●条 税務に関する委任の範囲は、以下の項目とする。
①法人税、所得税、事業税、住民税、償却資産税、消費税・地方消費税の税務代理及び税務書類の作成業務
②税務調査の立会い
③税務相談
顧問契約書にこのように書いてあるとき、会社が経営判断を行うにあたって税務上有益となる助言・指導などのいわゆる「コンサルタント業務」は、この税理士の業 務内容となるでしょうか?
上記のように書かれているときは、原則として、コンサルタント業務は業務内容とはならないと読めます。
ただ、“原則として”と言ったのは、この場合でも、会社に対して「助言・指導」を行うことが税理士の義務となる場合があるからです。
それは次のような場合です。
会社は、税理士の高い専門性に期待して、顧問契約を結びます。そのため、例えば、会社が提出した資料や会社社長から聞いた話などから、会社に税務上の重大な利 害得失があり得ることを、税理士が知ったときには、会社から個別の相談などがなくても、税理士から、積極的に、会社の業務内容を調査し、税務に関する助言・指 導を行う義務が出てくるのです。
2 “何でもやる”は要注意
顧問契約書の業務の範囲に、「その他、上記に付随する一切の業務」と書かれている場合があります。
こうした内容の契約も、もちろん可能です。ただ、業務を受任する側の税理士にとっては、このような表現の場合、契約書に書かれた業務に付随する業務はすべて税 理士が受任した業務となります。そうすると、次のような関係になるのです。
業務の範囲が広がる = 責任の範囲が広がる
つまり、「業務の範囲を広げても、その部分はサービスで報酬をもらわないから、ミスしても税理士に責任はないよね」という言い訳は通りませんので、要注意です 。
報酬と税理士の責任との関係については、今後の回でご説明する予定です。
3 契約書の変更もアリ
顧問契約の業務は、会社と税理士が合意すれば、契約期間の途中での変更も可能です。
そこで、契約更新の時期や、新しい業務を追加する時期などに、既存の契約書を見直してみてはいかがでしょうか。
その際、まずは会計事務所内で、つまり、税理士の先生とクライアント会社を担当する会計事務所職員の方とで、
✓ 実際のクライアント会社の状況に変化がないか
✓ 変化があればそれを契約書の業務内容に反映させる必要はないか
などを、検討することをお勧めします。
契約書に書かれている業務と、現場が実際に行っている業務がずれている、というケースも時々見かけます。契約書は、実際の税理士の業務を反映するものであって こそ、いざというときに役に立つのです。