インターネット上に自分の悪口が(知って得する法律相談所 第6回①)

弁護士法人アドバンス 代表弁護士・税理士
五十部 紀英

2021/7/16

第6回-① インターネット上に自分の悪口が!どうすればいいの?~前半~

インターネットをめぐるトラブルは、日々増加傾向にあります。最近は、新型コロナウィルスの感染に終息が見えない中、「あの店でコロナの患者が発生した」との 虚偽の書き込みが原因で、風評被害が発生し、お店を閉店してしまったケースが複数発生しました。

また、芸能人に対する誹謗中傷や脅迫的な書き込みを巡り、逮捕されるといった刑事事件が発生したり、いわれのない誹謗中傷で自ら命を絶ったり、芸能界を引退す るケースも後を絶ちません。

最近は、SNSが気軽に利用できるようになった反面、一般人の方もネットによる誹謗中傷に悩むケースも増えてきました(いわゆるネットいじめ)。

これらの被害に対しては、民事上では不法行為に基づく損害賠償を請求できる可能性があります。また、刑事上では、内容により名誉棄損罪や脅迫罪、偽計業務妨害 罪などの犯罪行為が成立する可能性があります。

しかし、インターネットの世界には匿名性がありますので、加害者を特定できないケースが圧倒的に多く、インターネット特有の問題や手段があります。そこで、今 回は、次回と2回に分けて、インターネット特有の法律問題について、お伝えしたいと思います。

(1)まずは削除請求を
ネットで自分に関する悪評の情報(書き込み)を見つけた場合、まず、最初に取るべき手段は、情報が拡散され炎上して、被害が拡大する前に、その情報の削除を検討しましょう。

もっとも、悪評だからといって、すべての情報が削除される訳ではありません。実務上、名誉棄損や侮辱罪に該当するかといった刑法上の判断基準も参考にしながら 、検討していきます。まず始めに、削除される判断基準について少しご紹介しましょう。

  • 虚偽の内容か単なる個人的な感想であるか

1「あの店でコロナが発生した」(実際は発生していない)

2「あの店のラーメンはまずい」

上記の例でいえば、1は削除できる可能性が高く、2は削除できる可能性は低いです。

1はコロナが実際に発生していなければ、虚偽の情報ですので削除対象となるのは当たり前です。

しかし、2については「まずい」といった表現は、単なる個人の好みの表現あるいは感想ですし、味覚といった、人それぞれの好みの問題でもあります。本当に美味しくなかったかもしれず、情報を書いた本人以外は、虚偽か真実かの判断ができません。

真実の情報であれば、表現の自由として憲法上、保護される対象でもあり、削除されないという結論にもつながります。

なお、真実の情報とはいえ、嫌がらせのように何度も書き込みをしたり、悪意が感じられる場合は削除の対象となります。

  • 書き込みにより被害が発生した、発生する可能性があるか

悪評がネット上に出回ることにより、無言電話や、汚物を送りつけるといった嫌がらせが可能になってしまいます。

たとえ、真実の情報とはいえ、対象人物(あるいは法人)に何らかの被害を及ぼす危険がある場合は削除請求の対象となります。

  • 対象者の社会評価を下げる内容や人格を否定する内容か

3「あの人は犯罪者で前科持ちだ」

4「クズだ、ろくでなし。死んでしまえ」

3については、刑法上の名誉棄損に該当する行為でもあり、たとえ真実だとしても、必要以上にその人の評価を下げてしまいます。そのため、削除の対象となります。

4についても、上記例の2と類似していますが、公の場(つまりネットの掲示板など、誰もが閲覧できる環境)で公然と人を侮辱する書き込みに関しては、侮辱罪に該 当し、削除の対象となります。

  • 公然と行われているか

ネットの世界は、不特定多数の人が閲覧できる空間であるため、あまり言及されておりませんが、公然と、つまり誰もが閲覧できる環境に書き込みが書かれているか もポイントの一つです。

たとえば、ネットの無料掲示板は、通信環境さえあれば誰もが閲覧可能ですから削除の対象となります。

一方で、LINEなどのチャットアプリやメールで、特定の人と会話をしている中においては、特定の人物を侮辱する情報があっても削除の対象にはなりません。

  • その他、著作権など法令に違反していないか

その他、誰かを傷つけるといった事がなくても、ポルノ関連や、他人の作品を勝手にアップするといった著作権違反に該当する書き込みは削除の対象になります。

また、住所や氏名、電話番号など個人を特定できる情報に関しても、プライバシー違反として削除対象となります。

(2)削除のやり方
具体的な削除のやり方については、情報が掲載されているサイトにもよりますが、ほとんどのサイトの場合、サイトの管理者や運営者に対して、メールや問い合わせ フォーマット、内容証明郵便などの通知書を送り、削除の請求をお願いする流れになります。

削除に応じてくれない場合は、裁判を起こして削除の請求を求めていくことになりますが、裁判にまで至るケースは多くはありません。

しかし、裁判ともなると費用もかかりますし、解決まで最低でも数か月以上かかります。情報が書かれた被害者としては、「どの程度時間がかかるか、お金がかかる か」といった情報は、なるべく早めに知っておきたい情報です。

したがって、ネットの削除請求は、削除できる内容かを瞬時に判断でき、また、業者ごとの対応を把握している、ネット問題に精通した弁護士に依頼すべきです。

(3)相手方を特定し、損害賠償を請求したい場合はご用心

ただ単に風評被害やネット炎上などの被害を防ぎたい場合は、サイトの管理者に削除の依頼をし、実際に該当の情報が削除されたのを確認したら、それで事件として は終了となります。

ただし、次で述べるように、裁判手続きに移行する、あるいは相手を特定したい場合には、情報が削除される前に、該当の情報や、その情報に関する情報(書き込ま れた日時など)が表示されているページを、スクリーンショットしたり、プリントアウトして保存しておくことは必須の作業です。

なぜならば、海外の業者が管理しているサイトは、任意での削除請求に応じず、裁判手続きに移行することもあるからです。

また、書き込みをした相手に謝罪をさせたい、損害賠償を請求したい場合は、相手を特定しなければなりません。

書き込みが削除されて何も残ってない状態では、何の資料もない中で、より厳格な裁判手続きに挑むことになりますし、業者としても、「どのパソコンから書き込み が行われた」といった記録の保存期間が過ぎてしまい、対応の仕様がありません。

・裁判で削除請求を求める

・書き込みをした相手を特定する(裁判外の手続き)

・書き込みをした相手を特定する(裁判上の手続き)

については、再来週お話したいと思います。

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