一般社団法人に対する租税回避防止措置<事業承継レポートVol.22>

白井税理士事務所 所長・税理士
白井 一馬

2021/12/8

このコラムでは、『顧問税理士のための相続・事業承継スキーム発想のアイデア60』など多数の著書を持つ白井一馬先生が、事業承継に関する話題のトピックスなどを取り上げ、皆様にご紹介します。 ※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.97(2021.11)に掲載されたものです。

一般社団法人に対する租税回避防止措置


創設以来、一般社団法人は、相続税の節税策として便利に活用できる器として認知されてきました。誰にでも設立でき、事業に制約もありません。持分(株式)が存在しない法人ですから、家族が支配する一般社団法人に財産を移転すればそれだけで個人財産が減少し相続税の節税になります。

一般社団法人は租税回避に利用しやすい特徴を持つことから、一般社団法人に財産を寄付した時、さらに一般社団法人の理事に相続があったときに税負担を求めるいくつかの租税回避防止措置が設けられています。
まず、一般社団法人に対し個人の財産が贈与・遺贈されたときは、相続税法66条第4項によって、一般社団法人に対して贈与税や相続税が課されます。相続・贈与税負担が不当に減少する場合に発動し、親族の身代わりに一般社団法人が個人とみなされ贈与税を負担することになります。

贈与された財産を一般社団法人が正当な運用をすれば問題はなく、不当とされなければ課税はないのですが、それには運営組織が適正で、理事に占める同族理事の割合が3分の1以下とする旨の定款記載があることなど、課税されないための要件は厳格です。同族が支配する一般社団法人への贈与は例外なく、贈与税が不当に減少する贈与に該当してしまうのです。

もうひとつ租税回避防止規定があります。それが相続税65条です。こちらは66条第4項に優先して発動します。特定の個人に特別の利益供与があった場合です。納税義務者となるのは一般社団法人ではなく利益供与を受けた個人です。

今年の税理士試験で65条が出題されています。理事Aが一般社団法人に現金1億2千万円を贈与します。直後に一般社団法人は、別の理事Bから土地5千万円を1億円で高額で買取る。このような趣旨の出題です。



一般社団法人から5千万円の特別の利益を得た理事Bに担税力があるのは明らかです。課税されるのは一般社団法人に贈与された1億2千万円ではなく、理事Bが利益供与された5千万円です。

3つめが、同族理事が死亡した時の相続税課税です。平成30年度税制改正によって、同族理事が過半数を占める一般社団法人が持つ財産は、同族理事の死亡時に相続財産として相続税課税されることになりました(相続税法66条の2)。一般社団法人の純資産を死亡した人を含む同族理事の頭数で等分したものが課税対象です。納税義務者は一般社団法人です。

たとえば一般社団法人を個人の収益物件の管理会社にし、管理料を受け取らせて財産を蓄える手法では、贈与が行われないので相続税法66条4項や65条の適用はありません。その場合でも同族理事の死亡時の純資産に対する相続税課税は逃れることができません。また、相続税法66条4項や65条は贈与時の一度限りの課税で済みますが、純資産に対する課税は同族理事の死亡の度に行われることになります。

登録後送られる認証用メールをクリックすると、登録完了となります。

「税理士.ch」
メルマガ会員募集!!

会計人のための情報メディア「税理士.ch」。
事務所拡大・売上増の秘訣や、
事務所経営に役立つ選りすぐりの最新情報をお届けします。