ゼロからの挑戦と資金戦略の裏側
会計士起業家が教える「18億円」獲得の秘訣 Vol.1

株式会社xenodata lab.(ゼノデータラボ)代表取締役社長 関 洋二郎
AIを活用して将来の経済を読み解く。確かな予測を導き出し、企業の意思決定を支援する―。そうしたサービスで急成長を続けているのが株式会社xenodata lab.(ゼノデータラボ)だ。同社が4度の資金調達で獲得した資金は、総額18億円を超えた。トップとして、躍進の先頭に立っているのが代表取締役の関洋二郎氏。公認会計士としてのキャリアを持ちながら、若くして起業家としての道を歩む関氏に同社の未来、そして士業資格者が起業する魅力についてお話を伺った。
総額18億円の資金調達実現へ!
その「最重要ポイント」と「好循環を生んだ要因」とは
2016年の設立以来、急成長を続けていらっしゃいます。
まずは御社の事業について教えていただけますか。

AIを活用した経済予測プラットホーム「xenoBrain(ゼノブレイン)」を開発し、様々な経済データの将来的な予測を行っています。具体的には、消費者物価指数や有価証券報告書、決算短信といった公開データ、さらに、業務提携しているダウ・ジョーンズ社などから提供されたここ10年分の経済ニュースなど約2,000万本をAIに読み込ませ、およそ50,000指標にも及ぶ経済情報の予測値を生成しています。多くの定性データを学習させることで、世界中の各業界や市場の動向について、今後の予測を可能にしました。
AIを通じて、具体的にどんな予測が導き出されるのでしょうか?
たとえば、「鉄鋼価格」のこれからの動向を知りたい、というリクエストがあったとしましょう。先ほど申しましたように、弊社では大量の定性的なデータをAIに読み込ませて将来予測を行います。その結果、ここ10年ほどはアルミ価格が鉄鋼価格の先行指標になっていることが分かったとします。要するに、アルミ価格の上下動が鉄鋼価格にも反映されるということです。
ただ、それだけであれば人間でもできることです。モデルを組み立てて、鉄鋼価格を予測することも可能でしょう。我々が異なるのは、同時にいくつものモデルを作り、顧客に提供できる点なのです。鉄鋼価格の先行指標は、他にもあるかもしれない。あるいは、短期的にはアルミ価格と連動しても、中長期的には関連が見られないというパターンのモデルもあるかもしれない。そうした可能性を全て考慮して、人力で何通りもの予測を同時に作るのは不可能でしょう。
我々の顧客である企業は、あらゆる指標を駆使し、それらを瞬時に読み解きながら市場での競争に臨まなければなりません。迅速で正確、かつ多様なデータの提供を望む企業の需要に応えられる仕組みを築けたのが、我々にとっての「イノベーション」だったと考えています。
生成された予測は、どのような業界で活用されているのでしょうか。
メーカー各社・金融機関・コンサルティング企業などに販売し、経営企画・営業企画・調達部門・事業開発といった部門の方々に活用いただいています。月額課金制となっており、アカウント数に応じて、決まった金額で全てのデータをご覧いただけます。
設立から4度の資金調達で獲得した資金は、2024年10月で総額18億円を超えたと伺っています。
野村ホールディングスや三菱UFJ銀行、第一生命といった大手各社からも出資を受けられていますね。
出資獲得の最重要ポイントになったのは、どんな点でしたか?
出資を受けるに際し、大手だから大変で、中堅だとそうではないといったことはありませんでした。 私の経験でお話しすれば、資金調達において最も重要で、かつ難しかったのは「リードインベクター(最大出資者)」探しでした。リードが決まったら、「フォロワーインベスター(条件が決まった後、参加する投資家)」の方々に丁寧に状況説明を行い、ご理解いただく。そうした、ベンチャーファイナンスの王道に徹しました。
リードインベスターを獲得するのに、コツのようなものはあるのでしょうか?
コツとまでは言えないのですが、試行錯誤をしながら「数を打つ」というのはやはり大事だと思います。就職の面接などと同じですが、回数と工夫を重ねる中で精度が上がっていった実感がありますね。
リードインベスターが決まらない限り、フォロワーインベスターが先に決まることはありません。ですが一方で、迅速に多くの資金を集めるためには、フォロワーインベスターへのアプローチも大事です。「リードインベスターが決まって、●億円くらい全体で集まったらウチも参加するよ」といったようなフォロワーインベスターを何社か抱えておく。こうするとリードインベスター側でも「フォロワーインベスターがそれだけ集まっているなら、そんなに大きな金額を入れなくても大丈夫そうだし」と、理解して応じてくれるケースもありました。

調達した資金は、どのように活用されたのでしょうか。
資金調達の最大の目的は、当社が開発したAIの予測精度を高めることです。調達した資金は基本的に全額、開発資金や必要なデータの購入資金に充てられています。
調達した資金で技術を高め、高めた技術をアピールして新たな資金調達を募る。それで集まった資金を、また開発に…。こうした好循環がつくれたことも、18億円という大きな資金調達を実現できた要因の一つだと考えています。
1回目の資金調達から 2回目、3回目、4回目と
回数を重ねるごとに変わったこと、変わらないこと
自社と事業をアピールするにあたり、最も強調したのはどんな点でしたか。
やはり一番初めと2回目、3回目、4回目とアピールする内容も変わったのでしょうか。
ステージが若い、1回目のときなどはパッションやプラン、自らが描いた事業計画への自信など、形のないものを主張していました。売上もないし、プロダクトもない。どんなベンチャーも最初は「精神論」ですよね。ただ、「自分は誰よりも解像度高く、業界と市場を理解して、この事業を立ち上げようとしている」と強く思い、そうした熱意を意識的に、相手に伝えるようにしていました。それくらいでないと信頼してもらえないし、ましてや出資なんてしてもらえませんから。
それが、回数を重ねるごとに、それだけでは説得は難しくなる。簡単には調達できなくなりました。気持ちだけでなく、より精緻な「数値目標」や、それが実現できる理由の「分析」が必要になってくる訳です。
新たな出資先などは、どのようにして開拓するのでしょうか。新規と既存で、それぞれ注意する点などありますか。
基本的に、既存が出資してくれないところに新規は来てくれません。既存の出資社は必ず一社は入れる。これは私の持論などではなく、常道です。その上で「前回からの出資社はこのように出してくれているので、今回は御社でこのように出してもらえませんか」とアプローチするようにしています。
既存の出資社への対応では、先ほどもお話ししたような精緻な数値や分析などが本当に大切です。事業のステージが上がるほどに、自社の実際の実績などの数値推移が見えてくるからです。加えて、同業他社との比較も入ってくるため、「本当にその数値になるの? 他社はこういう数値だけど、どうして御社はこういう数値なの?」と審査の目が厳しくなります。根拠なく数字を盛ったとしても、相手には全て見抜かれてしまいます。厳しい世界です。
資金調達を重ねていくと、抽象的な精神論よりも、具体的な数値が求められるようになるということですね。
投資家を説得するためには、その一面は確かにあると思います。ただ、難しいのは、小さく、リアルにまとまるだけではダメなのです。大切な資金を投資していただくためには、やはりそこに「夢」を感じられることも重要だということです。小ぢんまりとまとまるよりも、将来に向けた大きな夢や目標、計画を描く。そこに投資家は資金を出すという面があるのです。
たとえば「『1年後に10億円の売上をつくる企業になります』というよりも、『10年後に1,000億円の売上をつくる企業になります』」といった方が投資したいと思う投資家も多くいる。投資家にはよりますが、成長したことで変わる世の中にベットする。なので、私が投資家に語る際も、足元の数値計画だけではなく、「我々は、AIが生み出す経済予測に、誰もが簡単にアクセスできるような会社をつくります!」と、壮大な計画も常にしっかりアピールするようにしています。
それが、関社長が描いている「夢」なのですね。

経済情報端末サービスや株価予想サービスは他社にもありますが、経済データ全般を大量に予測する、といったビジネスモデルは当社以外にはないと考えています。今後も更に予測データの精度向上を図り、上場も目指していきたい。ですが、それは通過点に過ぎません。
これまで将来の経済動向は、一部のインテリ層が非常に精緻な分析の下で行い、その結果も広く共有されてはいませんでした。
これが、AIによって完全に民主化される可能性が出てきました。スマートフォン一つあれば誰でも我々のサイトにアクセスし、経済予測という恩恵を得られる。そして、そこで得た情報を基に、経営の新たな意思決定に勇気を持って踏み出すことができる。私が目指すのはそんな世の中なのです。
プロフィール |
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株式会社xenodata lab. 代表取締役社長 関 洋二郎
◎せき・ようじろう/慶應義塾大学商学部在学中に公認会計士2次試験に合格し、在学中よりあらた監査法人(現PwC Japan有限責任監査法人)にて、会計監査、IT監査に従事。2012年に株式会社ユーザベースに入社し、事業開発部責任者を歴任。2016年、xenodata lab.を創業 |