常識を打ち破る会計事務所DX
sankyodo税理士法人 CTO・宮川大介が語る変革の舞台裏と未来像 Vol.2

sankyodo税理士法人 CTO・税理士 宮川 大介
会計業界において、ひときわ進んだDXの取り組みを進めるsankyodo税理士法人。その立役者であるCTO(最高技術責任者)・宮川大介氏は、システムエンジニアから税理士への転身という異色の経歴を持つ。sankyodo税理士法人へ入所後は、GoogleWorkspace、kintone、freeeといったツールの導入で業務や組織のあり方を抜本的に改革。現在はDX人材の育成に注力している。そんな宮川氏が導く事務所変革の舞台裏と、予見する会計業界の未来像に迫った。
変化に強い人材をどう育てるか
教育と組織づくりの仕組み
各種ツールの導入と活用が進む中で、DXを推進する人材の育成について、どのように取り組んでいますか。今年の抱負として人材教育を挙げていた理由や、その仕組みづくりの進め方についても教えてください。
教育は本当に大切です。何をどの順番で教えるべきかを、書籍を読み込み、スタッフと議論を重ねながら試行錯誤しています。特に他業界の人材育成の仕組みを意識しています。
今や小学生でもGoogleスライドで発表する時代ですが、意外と大人のほうがITツールを使いこなせていなかったりします。だからこそ、ツールを使えるリテラシーやスキルがあることが当たり前になる環境づくりが重要だと考えています。
進め方としては、ステップを細かく分けて、それぞれ達成できたら次に進むという段階的な教育を採用しています。

当法人では、3~4年前からDXマインドの浸透に力を入れてきた結果、変化を前向きに受け入れる土壌ができてきました。今後はこれを基盤に、ITやシステムに強く、業務全体を設計できるような人材の育成に力を入れていく予定です。こうした取り組みは、まだ業界でもほとんど見られませんが、だからこそ取り組む価値があると考えています。
現場での教育体制の構築や、AIの活用を目的とした有志チーム「AI部」の運営については、どのように進めていますか。
教育に関しては、全体の構想や方向性を私が定め、具体的な設計や実行はメンバーに任せています。たとえば、kintoneやノーコードツール、AIに習熟したスタッフには「こういう教育をしたい」と意図を伝え、具体的な構築は彼らに一任しています。
AI部も同様です。有志で構成されたチームで、AIに関心を持ち、日常的に触れているスタッフに声をかけ、参加してもらっています。活動は2週間に1回の部活動時間や業務の合間で行い、多くのメンバーが積極的に取り組んでいます。
私は基本的に確認のみで、運営は現場に任せる方針です。当法人には「壁打ち文化」が根づいており、定期的に議論を重ねながら認識を共有しています。この文化は、一般企業の教育制度を参考に取り入れました。
教育や業務改善において、現在注力している取り組みはありますか。
現在は、業務レポートの自動化に力を入れています。kintoneに蓄積された日報や顧問報酬、業務進捗などの情報をAIで分析し、担当者ごとの業務状況を可視化するレポートを毎月自動生成する仕組みを開発中です。これにより、上司の感覚ではなく客観的なデータに基づいて、業務のボトルネックや負荷を把握でき、人事評価や研修にも活用できるようになります。
この仕組みの土台になっているのが、kintone上の日報フォーマットです。PCログ、タスク、請求情報などを一元化しておくことで、AIが業務の滞りや処理に時間を要する箇所を自動的に分析できるようになります。
目指しているのは、数字で“管理する”のではなく、データをもとに一緒に考え、成長する環境です。AIをベースに業務の分析を自動化し、スタッフが自律的に成長できる土台を整えていきたいと考えています。
実務と両立するCTO
現場感覚を武器にDXを推進
DXを推進し、人材育成にも注力されている宮川先生の、sankyodo税理士法人での現在の役割について改めて教えてください。
CTOとして、IT関連業務を幅広く担当しています。具体的にはベンダーとの打ち合わせ、新しいSaaSの活用検討、所内向けツールの導入判断などに時間を割いているほか、会計事務所のDXコンサルタントとしての案件を複数抱え、現場での支援も行っています。また、以前はkintoneを、現在はAIの開発の要件定義や自身での開発も業務の傍ら進めています。
業務時間の半分ほどは通常の税務顧客対応をしています。「実務との兼任」は、当法人が目指すDXを進めるうえで欠かせない体制です。現場を知らないことには、本質をとらえた改善策は出せません。実務の中に身を置いてこそ、本当に必要なDXが見えてくる。その感覚を持っていることが、CTOとしての自分の強みだと思っています。
宮川先生は、もともとはシステムエンジニアだったと伺っています。
なぜ、税理士へとキャリアチェンジされたのでしょうか。

端的に言えば「得意なこと(数字)を生かして経営に関わる仕事がしたい」という思いからです。システムエンジニアの業務は、画面に向かってデータと向き合うものが大半で、人との接点が少ない状況でした。働く中で徐々に、それを物足りなく感じはじめたのです。
また、経営判断ひとつで組織の進む方向が大きく変わる現実を目の当たりにし、経営に関わる仕事に興味を持ちました。はじめは経営コンサルタントも検討しましたが、より信頼性のある国家資格をと考え、税理士を選択。実は、目指したのは税理士という職業そのものではなく、「経営者に最も近い専門職」でした。
朝倉代表と「衝撃の出会い」を経て入所
コロナ禍が後押ししたDX大改革
システムエンジニアから税理士への転身という異色の経歴を持つ宮川先生が、sankyodo税理士法人でDX大改革を推進されたきっかけは何だったのでしょうか。
税理士になって5年後、転職を考えていた時期に、税理士向けイベント「会計事務所博覧会」で代表朝倉のセミナーを聴いたのがきっかけです。「これからは1人1台ロボットの時代」という言葉や、Tシャツ短パン姿での登壇に衝撃を受けました。高度な税務知識を持ちながら、独立して新しい税理士像を打ち出す朝倉は、私の想像をはるかに超えた存在であり、直感的に「面白い。この人と働きたい」と感じたのです。
その後は私からコンタクトを取り、拠点長のポジションで入所しました。もしあの出会いがなければ、今頃私は独立していたでしょう。
入所当初、sankyodo税理士法人に対してどのような課題を感じられましたか。
正直にいうと、何もかもが課題に感じました。先進的な印象はあっても、当時は業務フローも組織体制も未整備。まるで立ち上げ直後のベンチャー企業のような、何から手をつけていいかわからない状態でした。私の前職が成熟した事務所だったことから、ギャップにも戸惑いましたし、業務管理や育成が思うようにいかないことにもどかしさを感じましたね。
混乱の多い環境から、どのように抜け出していったのでしょうか。
転機はコロナ禍でした。予期せぬパンデミックは、私を含め、組織全体のマインドを変える大きな機会となったのです。朝倉のスピード感ある意思決定と強いリーダーシップも手伝って、旧来のやり方から一気に脱却できました。
コロナ禍以前は、RPAは取り入れていたものの、ベースは会計ソフトと紙。そこからGoogleWorkspaceなどのツール導入、完全ペーパーレス化、電話の廃止など、抜本的な改革を一気に推進します。特定の事務所を模倣するのではなく、特に業界外の優れた点を参考にしつつ、後戻りしない覚悟を持って進めました。
現場との温度差はありませんでしたか。
当然、最初から足並みがそろっていたわけではありません。スタッフにとっては既存のやり方には安心感があり、それを手放すことへの不安や戸惑いは少なくなかったと思います。特にDXのように、仕事の進め方や価値観そのものに関わる変化は、現場にとって脅威にも映りかねません。
そこで私たちは、「別で立ち上げて育てる」という手法を選びました。いわゆるPoC(ProofofConcept=概念実証)です。まずは北千住オフィスを“実験ラボ”と位置づけ、FAX削減やkintoneの導入などを先行して行い、一定の成果が見えてから他拠点に展開する流れを取りました。「北千住の方法のほうが、負担が少なくてやりやすい」という声が自然に上がるような状態をつくることで、現場の納得感を得ながら変化を進めていったのです。
PoCという考え方は、私が以前いたIT業界ではよく使われるアプローチで、それをそのまま会計事務所の現場に当てはめたかたちです。変化に対する抵抗を最小限に抑えつつ、小さな成功を積み重ねていく。それが現実的で持続可能な変革の道筋だと考えました。このやり方が機能したのは、朝倉の理解と支援、そして私自身がCTOとして現場の動きに深く関わり、導入から運用まで一貫して取り組めたことが大きいと感じています。
勝負の鍵はDX人材育成
選ばれる事務所であり続ける戦略とは
これまでのDXの取り組みを踏まえ、会計業界の未来と貴所の戦略についてお聞かせください。
今後3~10年で、会計業界はこれまでにない大きな転換期を迎えると見ています。税務顧問料がなくなると言われて久しいですが、実際には完全に消えることはありません。ただし、高付加価値型と低価格型の二極化は確実に進むでしょう。
そのような中で、私たちが特に注目しているのは、記帳などの業務を含むBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)領域です。AIの進化に加え、異業種からの参入も進んでおり、これらの業務は定額制のサブスクリプション型サービスに置き換えられていくと予想しています。
私たちは、税務顧問という従来の枠組みに固執せず、同じ価値を、より洗練された形で提供することを重視しています。形式ではなく本質、つまり「継続的に、必要な知恵を届けること」にこそ、これからの専門家の存在意義があると考えています。

その中で、sankyodo税理士法人はどう戦っていくのでしょうか。
当法人は、AIを前提とした業界再設計に取り組んでいます。freeeなどのクラウド会計ソフトを活用し、業務全体を設計できる人材を育成することで、これまでとは異なる土俵で戦う準備を進めています。業務効率化だけでなく、会計事務所ならではの付加価値領域に注力し、持続的な競争力を築いていく方針です。
AIでは対応しきれない業務については、どう考えていますか。
IPO支援、事業承継、組織再編といった複雑で専門性の高い業務は、AIでは対応が難しい分野です。これらは多様な知見と実務経験が求められ、責任の所在も明確にする必要があります。今後こうした領域こそが、税理士に残る本質的な役割になると考えます。
当法人では伝票入力などの作業は自動化し、クラウドツールを活用して業務構造自体を刷新し、より本質的で専門性の高い業務へとシフトしています。そのベースにあるのはデジタル特化のBPOサービスであり、それを行うためのBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)にも取り組んでいます。将来を見据え、会計業界の変化に真正面から向き合いながら、必要とされる専門性と柔軟性を備えた組織づくりを進めていきます。
本日は貴重なお話、ありがとうございました。
プロフィール |
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sankyodo税理士法人 CTO・税理士 宮川 大介
2007年よりシステム会社に勤務。プログラミングから上流工程・システムコンサルティングを経験。2009年より都内税理士法人にて中小零細企業から上場会社の税務を担当。連結納税システム導入コンサルティングでは述べ100社以上の導入に関わり、講師等を担当。システムエンジニアの経験から、生産性向上を目的とした会計・税務システムの導入・業務改善コンサルティングを行う。 2019年sankyodo税理士法人にマネージャーとして入社。 2021年sankyodo税理士法人のパートナー・CTOに就任。 業務の傍らkintoneによる業務管理システムの要件定義から開発を行い、社内のDX推進やAI活用プロジェクトを推進している。近年は、会計事務所業界におけるAI活用・業務DXに関する知見が評価され、セミナー・講演の実績も多数。現在では2026年まで依頼を頂くほどの人気講師としても活躍中。 |