ニッチな需要をがっちりつかむ
ゲーム業界を知り抜いたクリエイター出身税理士の経営戦略に迫る Vol.2

税理士法人ナビオ代表社員CEO 田中 達也

税理士法人ナビオ 代表社員CEO 田中 達也

大学卒業後、飛び込んだのはゲーム制作の世界。大手ゲーム会社のクリエイターという、第一線でキャリアを積んできた田中達也先生は、縁あって税理士の道を歩むことになった。現在は、エンターテインメントやサブカルチャー業界の関係者を主な顧客にした税理士法人を経営。ゲーム会社での経験をいかし、クリエイターのよき相談相手として活躍を続けている。自らの強みを存分にいかした田中先生の経営戦略について、お話を伺った。

全てはクリエイターのために
税理士としてできること

ゲーム業界の構造の話に戻りますが、3次請け4次請けなどと聞くと、「あまり良くない環境で仕事しているのでは」などと心配になる面もありますが他業界と似ている点はあるのでしょうか?

税理士法人ナビオ代表社員CEO 田中 達也

他業界に比べると、ゲーム業界では下請けをかなり大事にしていると思います。というのも、下請けが業務を受けてくれないと、元請け側も制作が進まず困ってしまうからです。一方で、下請けが、大手の都合で振り回される可能性がある点は他の業界と変わりません。例えば、サードパーティの会社が内部留保を増やす方針を採ると、下請けに対する発注総額は途端に縮小傾向になります。その結果、業界全体で仕事が不足し、中でも下請けが厳しい状況に追い込まれてしまうのです。

顧客がそうした状況に陥った際、どのようなアドバイスを行っているのでしょうか?

業界全体で資金が不足している状況なので、全てを円満にという訳にはいきません。ただ一案としては、急場の1年から2年をしのぐための融資支援策を提案します。無駄なコストの削減もアドバイスします。その際大事にしているのが、可能な限りリストラを避けるということです。ゲーム会社にとっては、アイディアをうみ、手に職を持つクリエイターが何よりも重要な資産です。苦境を乗り切った先に再び奮起するためにも、できるだけ人員体制を維持できるような提案を心掛けています。

資金以外の面でも、相談に乗ることは多いのでしょうか?

ゲーム制作の技術面に関しては、私も現場から離れて久しいのでさすがに突っ込んだ話はできません。ただ、例えば、人や組織の動かし方ですとか、権利関係の注意点などは経験やノウハウからお話しできることが多いです。そうした点への対応まで、全て顧問料に含まれています。もちろん、より詳細な法的な部分の話は弁護士の方が詳しいでしょうが、制作現場の実態に則して話ができるというのは、私ならではのサービスではないかと考えています。


異業種からの転身者だから見えた
会計業界の改善点と、税理士の魅力とは

先ほど、会計業界で働き始めた当時「戸惑うこともあった」と仰いました。どんな点に、戸惑いを覚えたのでしょうか?

例えば、「ホームページを作ろう」と思い立った時、周りの先輩たちからは「あまり派手で、目立つようなものにしないでほしい。名刺代わりのような、最低限の情報を載せる程度で十分」と言われました。先ほども少し触れましたが、私としては、自分の想いをしっかり込めて集客するためのホームページにしたかったのですが、理解を得られませんでした。その時、これまでのやり方を大きくは変えたくないという考え方が強い業界なのだと感じました。当時、まだ私は経営において中心的に携わるような立場でもなかったので、ホームページ作りはいったん断念せざるを得ませんでした。もちろん、「自分が代表になったらやろう」と常に考えてはいましたが、動き出すまでに時間がかかる業界だという印象を強く持ったのを覚えています。
AIなどの最新技術はどんどん進化し、会計業界を取り巻く環境も日々変化しています。だからこそ、私たち自身も変化を恐れず、新しいことに取り組む姿勢が重要なのではないかと強く感じています。

確かに、変化を嫌うという傾向はあるかもしれません。

「今お世話になっている税理士さんがゲーム業界のことを知らなすぎるし、『分からないから対応できない』と言われた」という理由で弊社に来られる方がとても多いです。そうした方々をターゲットとして狙っていた私としては、戦略的には大成功です。ただ、「知らないから勉強します」ではなく「知らないから対応しない」と、端から、努力して相手に寄り添う姿勢を見せないのは違うのではないかと感じています。

税理士法人ナビオ代表社員CEO 田中 達也

経営者の皆さんは困り果てて相談しているのに、税理士から「知らないから対応しない」と言われると途方に暮れてしまう訳です。技術的なこと以前の話になってきますが、顧客の悩みをより深く知り、寄り添い、自らも学ぼうとする姿勢が大切なのではないでしょうか。

そうした気づきは、御社の経営においてどのような効果をもたらしているのでしょうか?

顧客との信頼関係構築に役立つとともに、社員の離職率の低さにもつながっている気がしています。
弊社では、長い付き合いを続けている顧客が圧倒的に多いです。先日、ロシアとウクライナの戦争に伴う物価高騰を鑑みて、顧問料を上げさせていただきました。個人の顧客で言うと、3割の値上げになりましたので、これだけ上げると、離れる顧客もいるかもしれないと覚悟していました。しかし、社員の生活を守るためには、値上げはどうしても必要でした。全顧客の3分の1までの離脱なら経営的には耐えられる、そう意を決して顧客の方々に相談しましたが、おかげさまで離脱はゼロでした。普段から密接にコミュニケーションを重ねてきた成果だと考えています。
社員の離職も、基本的にはありません。ホームページの言葉一つとってもそうですが、私自身が自分の言葉で嘘偽りなく考えを伝え、それを社員と共有できていることが大きいのではないかと思っています。
離職率の低さについて付け加えると、成果をしっかりと評価し、給与で還元している点も大きいのではないかと考えています。社会の中で当たり前とされていることをしっかりと積み上げ、できる限り社員に寄り添って経営を行ってきた成果ではないかと思っています。
当面、顧問料の値上げは考えていませんが、今後も他業界と遜色のない給与水準は目指していきたいです。それができれば、優秀な人材がより一層集まる業界にできると確信しています。

一方で、他業界からの転身者として税理士の魅力をどう考えていますか?

自分の知っている知識を伝えて、誰かの役に立てる。伝えることを通じて、「ありがとう」と感謝していただける。税理士の仕事はとても魅力的で、非常にやりがいのある仕事だと感じています。しかも、日々直接お話しする相手は企業の経営者です。プライベートなら、「こうした方が、ああした方が」といろいろ考え、伝えても、鬱陶しいと思われてしまうことも少なくないでしょう。しかしこの仕事なら、「そんなことまで考えてくれるなんて」と感謝していただけるのです。これほど魅力的な仕事はないのではないでしょうか。

田中先生ご自身は、今後税理士としてどんな活動をされていかれるお考えなのでしょうか?

税理士法人ナビオ代表社員CEO 田中 達也

やはり、古巣のゲーム業界をはじめとしたエンタメやサブカル業界に関わっていきたいです。ゲーム制作会社も様々です。もしかしたら、休みが少なかったり、いわゆる薄給の会社もあるかもしれない。それでもクリエイターは、「自分はこれが面白いと思う」「これで遊んでもらいたい」という強い思いがあって、日々ゲーム制作にいそしんでいます。そうした熱意を持った方々をこれからも応援していきたいです。
私は、ゲーム業界はやる気と努力があれば比較的夢は掴みやすいところだと思っています。実力をつけて、クリエイターが自分の作りたいゲームをどんどん世の中に出していけるよう、税理士として全力でサポートしていくつもりです。

プロフィール
税理士法人ナビオ 代表社員CEO 田中 達也

大学卒業後、株式会社ハドソンに入社し、オンラインゲーム開発、モバイルサイトの制作、e-コマースサイト責任者を経たのち、宣伝担当として自社コンテンツのインターネット広告の制作・配信やテレビCMの制作に携わる。
ハドソンが吸収合併により消滅したのを機に税理士を目指し、試験合格後に税理士法人を立ち上げ、代表に就任。
IT・エンターテインメントでの知識・経験を活かし、ゲーム・アニメ関連法人や漫画家・小説家・イラストレーターなどの個人事業主を顧問先の中心とした、サブカルチャー特化型の税理士法人を経営している

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