ニッチな需要をがっちりつかむ
ゲーム業界を知り抜いたクリエイター出身税理士の経営戦略に迫る Vol.1

税理士法人ナビオ代表社員CEO 田中 達也

税理士法人ナビオ 代表社員CEO 田中 達也

大学卒業後、飛び込んだのはゲーム制作の世界。大手ゲーム会社のクリエイターという、第一線でキャリアを積んできた田中達也先生は、縁あって税理士の道を歩むことになった。現在は、エンターテインメントやサブカルチャー業界の関係者を主な顧客にした税理士法人を経営。ゲーム会社での経験をいかし、クリエイターのよき相談相手として活躍を続けている。自らの強みを存分にいかした田中先生の経営戦略について、お話を伺った。

大手ゲーム会社勤務から税理士へ!
思わぬピンチからの劇的転身

税理士になる前にお勤めになっていたのが、ゲーム会社として有名な株式会社ハドソン。
そこから、会計業界へと転身されたのはどのような経緯からなのでしょうか?

ハドソンではオンラインゲームのディレクターやプロデューサーとして、制作の現場で幅広い業務を経験させてもらいました。ディレクターとして制作担当したMMORPG『Master of Epic』は登録者数が14万人を超え、そうした仕事で成果が得られることで自信もついてきました。また、宣伝など様々な業務を経験する幸運にも恵まれていました。しかしその矢先、ハドソンが、同じくゲーム会社のコナミに買収されるという大規模な業界再編が起こったのです。

当時所属していた宣伝担当の部署では多くの従業員が早期退職を迫られ、私も退職することになってしまいました。ちょうど長男が生まれた頃でもあり、途方にくれたのを覚えています。
そんな時に声をかけてくれたのが、当時ハドソンの取締役で、税理士資格も持っていた辻尚之でした。「会計事務所を開くから、資格を取って一緒にやらないか?」という辻の誘いから、税理士という仕事の中身を何も知らなかった私の挑戦が始まりました。

辻先生との交流は、どんなところから始まったのですか?

ハドソンに勤めていた頃、『東京ゲームショウ』というイベントのブース責任者を務めたことがありました。その際の私の働きを見ていてくれたのが、辻でした。辻は、買収を機に退職したのち、人脈をいかして会計事務所を開こうと考えていて、私に声をかけくれました。当時の私は税理士の資格などもちろん持っていませんでしたから、そこから2年半、生まれて初めての猛勉強を経て資格を取得しました。生まれてきた子どもが物心ついた時に、「お父さんは無職」とは言いたくなかったので必死でした。
資格を取得し、2017年に辻とともに税理士法人ナビオを立ち上げました。

ゲーム制作と税理士、大きく異なる仕事ですが、抵抗感はありませんでしたか?

むしろ、「そんなに自分のことを買ってくれるのなら、やりましょう」という前向きな気持ちで仕事に取り組み始めました。もちろん最初は戸惑うことも多々ありましたが、前職と親和性が高い部分もあると徐々に感じるようにもなり、少しずつですが適応していくことができました。
例えば、ハドソンで従事していた宣伝や制作の業務も、「数字」が非常に重要でした。会社から予算を引き出すために、売上や成果、市場の動向を予測して自らの提案を作成する必要があるからです。この思考は税理士にも求められますし、今でもいかされていると感じています。


全国に約3000社
ゲーム会社支援に特化した税理士法人のアピール戦術

エンターテインメントやサブカルチャーに強いという点がナビオの大きな特徴だと思いますが、最初から業種特化を考えていたのでしょうか?

経歴をいかしながら顧客を集めるにはどうしたらいいのか。そう考えたときに、自分が慣れ親しみ、理解も深めているゲーム業界が自然と選択肢に上がりました。また、ゲームクリエイターの経歴を持っている税理士など、他にいないだろうとも思いました。
全国には、ゲーム会社が約3000社あります。それに加え、数え切れないくらいのフリーのクリエイターが存在しています。仮に、リーチできるのがそのうちの一部だったとしても、事業としては十分成立するのではないか。そういう自分の直感を信じました。

3000社とは、すごい数です。誰もが聞いてイメージできる大手のゲーム会社以外にも、多くの制作会社がひしめく業界なのですね。

ゲーム業界で大きな規模を誇るのが、「ファーストパーティ」と呼ばれる企業群です。代表的なところでは、任天堂、SONY、マイクロソフトなど、いずれも、誰もが一度は耳にしたことのある大手の会社です。

税理士法人ナビオ代表社員CEO 田中 達也

これらの会社は、自社でゲーム機(ハード)を作って販売しています。しかし、ゲーム機だけでゲームを楽しむことはできません。当然、魅力的なソフトも必要です。そのソフトを作るのが、「サードパーティ」と呼ばれる会社です。彼らは、ファーストパーティと契約して、それぞれのゲーム機に対応したソフトを開発しています。代表的なところでは、スクウェア・エニックスやコーエーテクモ、コナミなどです。こちらも、一般によく知られた会社だと思います。
ただ、知名度の高いサードパーティでも、自社だけで1本のゲームを制作するには大変な労力がかかります。ですから、プログラムやデザインなど、制作の一部分だけを外部の会社に発注するというのがゲーム業界では一般的です。そういう点は他の業界と同じで、3次請け、4次請けなどという会社まである。そうした請負の会社も全てひっくるめて、「ゲーム業界」なのです。その数が全国で約3000社に上っているというのが、ゲーム業界の現在地です。


御社が対応しているのは、どういった規模のゲーム会社なのでしょうか?

基本的には、サードパーティから制作を請け負っている制作会社が多く、ジャンルはもちろん、ゲームやアニメ関係の会社がほとんどです。規模としては、社員が3人から4人ほどの小規模な会社が多いですが、小さくとも、自社でゲームを作って成功している会社も業界内で増えてきています。私の顧客にも、「受注した案件をこなすことももちろん大切だけれど、自分たちの作りたいゲームを自社で制作することを目指しましょう」といった話をしています。

どのようにアプローチして顧問先を拡大してきたのでしょう?

いわゆる営業活動は基本的に行っていません。1か月ほどかけて制作した自前のホームページが、集客のほぼ全てです。
先ほどもお話ししたように、3000社のゲーム会社やフリーのクリエイターのうちのほんの一部にリーチできれば良いというのが私の考え方です。「80%にリーチできなければ商売が成り立たない」と目標設定すると難しく感じてしまいますが、一部で良いなら「何とかなる」と思える。実際ふたを開けてみると、ホームページを公開しただけで、弊社だけではとても受けきれないほどの問い合わせをいただきました。業界のことを十分に理解している税理士が求められていたのだな、と実感しました。

ホームページを作る際、工夫された点はありましたか?

Web広告やマーケティングの鉄則ですが、顧客のターゲットを絞りました。具体的には、「年齢は、30代後半から40代前半。元々ゲーム会社にいたが、今は独立している。社員が複数人いるが、この規模の先に進むために、どうしたらいいかと考えている経営者」といったイメージを固め、その方々に響くホームページ作りを徹底しました。イメージした層ではない方もいらっしゃいますが、新規の顧客の多くは、このイメージに沿った方々となっています。
そうした方々に関心を持ってもらうために、ホームページでは、私の経歴や弊社の提供サービスを強調するのはもちろんのこと、「0から1へ」「価値を生み出すマインドを応援します!」といった私自身の言葉をちりばめました。当たり障りのない、丁寧なだけの言葉ではなく、自分の思いが伝わる言葉を選びました。ですから、いざ面談となっても、あまり違和感を持たれないのではないかと自負しています。「あの文章を書いた人だ」と安心してくださるのだと思います。


ホームページの言葉一つ一つに、田中先生の気持ちがこもっているのですね。

ゲーム業界に対する思いや、会計事務所の立場からゲーム業界に何ができるのかといったことまで、ホームページには全て書いています。そこに、嘘はありません。ですから、面談後の成約率も9割ほどと、高い割合で新規契約に結びついているのだと思います。

私としては、作りたいものを作れる環境をクリエイターの方々に提供したい、ただそれだけなのです。ゲーム業界で働く多くの方々は、自分が作りたいゲームを作るためにゲーム業界にいます。そうした熱意あるクリエイターの方々を、私は全力で応援したいと思っています。会社経営に欠かせない資金集めは、弊社を頼ってもらって構いません。作品作りという、クリエイターにしかできない仕事に集中してもらいたい。こうした思いを根底に持っている税理士というのは、クリエイターの方にとっては頼もしい存在なのかもしれません

税理士法人ナビオ代表社員CEO 田中 達也
プロフィール
税理士法人ナビオ 代表社員CEO 田中 達也

大学卒業後、株式会社ハドソンに入社し、オンラインゲーム開発、モバイルサイトの制作、e-コマースサイト責任者を経たのち、宣伝担当として自社コンテンツのインターネット広告の制作・配信やテレビCMの制作に携わる。
ハドソンが吸収合併により消滅したのを機に税理士を目指し、試験合格後に税理士法人を立ち上げ、代表に就任。
IT・エンターテインメントでの知識・経験を活かし、ゲーム・アニメ関連法人や漫画家・小説家・イラストレーターなどの個人事業主を顧問先の中心とした、サブカルチャー特化型の税理士法人を経営している

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