上流を制するタスキーのDX戦略 真の人手不足解消に効く“パッケージ型BPO”の設計哲学 Vol.1

タスキー税理士法人 代表社員 公認会計士・税理士 菊池 友博

仙台・つくばを拠点に成長を続けるタスキーグループは、税務・労務支援に加え、コンサルティングやBPO、さらに地域に根ざしたまちづくり事業までを展開するユニークな存在だ。最大の特徴は、人手不足の根本解消を狙う「パッケージ型BPO」。DXを単なるツール導入とせず、業務の上流設計から整理することで仕組み化を徹底している。社内でも「箸の上げ下ろしまで」と表現するほどの徹底したルール化を実践し、業務をブレずに進められる効率的な仕組みを整えている。本記事では、タスキー税理士法人代表社員であり、タスキーグループつくばオフィスの所長でもある菊池友博先生に、同社のDX戦略と成長の裏側を聞いた。

北関東を拠点とするタスキーグループの現体制
つくばオフィス代表が独立よりタスキーを選んだわけ

はじめに、タスキーグループの概要を教えてください。

タスキーグループは現在、「タスキー税理士法人」「タスキー社会保険労務士法人」に加え、コンサルティングを担う「タスキー株式会社」、BPO専門の「株式会社B-tas」、まちづくり事業に取り組む「株式会社BT」の計5社で構成されています。
従業員はグループ全体で約35名。拠点は仙台、つくば、東京、古河、静岡の5か所ありますが、スタッフのほとんどは仙台かつくばに所属しており、実際に業務を担っているのがこの2拠点というイメージです。


主要拠点である仙台・つくばの役割分担はどうなっていますか?

基本的に一体運営で、拠点によって業務を分けてはいません。グループの仕事は「経理サポート」と「労務サポート」の2つに大別されますが、チャットやWeb会議ツールを活用し、リモートワークも柔軟に取り入れて、地域に縛られない形で進めています。案件によって仙台とつくばのメンバーが一緒に担当することや、遠方のメンバーだけで対応することもありますよ。

2024年に開設されたつくばオフィスで所長を務めている菊池先生ですが、
タスキーと出会うまでのキャリアや入社の経緯をお聞かせください。

私はタスキー入社前、新卒から12年間監査法人におりました。学生時代に公認会計士の資格を取得し、それを活かす道に進んだ形です。
つくばは地元で、コロナ禍でリモートワークになった際に戻ってきました。これにより、もともとあった「いつかは地元に戻り、地域経済に貢献する仕事をしたい」という思いが強まり、税理士としての独立を考えるようになったのです。

そんな時、父親同士が知り合いという縁で、代表の青谷と出会います。彼は以前から、つくばにオフィスを開設したいと考え、協業相手を探していました。そこで私が立候補し、とんとん拍子に話が進んだのが2年ほど前のことです。
独立ではなくタスキーを選んだのは、「チームで仕事ができる」から。すでに実績とメンバーが揃う組織に加わりつつ、つくばでゼロから拠点を育てられる点に魅力を感じました。


代行では根本的な人手不足解消にならない
インフラとしての「パッケージ型BPO」

ここ数年のタスキーは、顧客のバックオフィスを担うBPO事業に注力しているとのことですが、
その背景やねらいを教えてください。

最大の理由は、人手不足という社会課題の解決のためです。以前はバックオフィス支援において「このツールを使いましょう」「この流れにすれば効率的です」といったコンサルティングを中心にしていましたが、運用が定着せず、導入したツールが形骸化して昔のやり方に戻ってしまうケースが少なくありませんでした。
こうした課題を踏まえ、私たちは導入提案にとどまらず、実務まで自ら引き受ける方向へと舵を切りました。ただし、単なる業務代行では、こちら側に同じだけの人手が必要となり、根本的な解決にはなりません。
そこで、当社であらかじめ業務フローを標準化し、その仕組みに沿って業務を担う「パッケージ型BPO」を整えました。効率化に加え、誰が担当しても同じ成果が出せるように業務を設計し、ITツールを組み合わせています。業務設計とデジタル活用を両輪としたこの取り組みこそが、私たちの考えるDXの実践です。
これを私たちは「ビジネスインフラ事業」と呼んでいます。各社が個別に人材を抱えるよりも、インフラとして当社を活用してもらう方が全体最適になるという考えです。

「パッケージ型BPO」で採用しているITツールにはどのようなものがありますか?

基本的には市販のソフトウェアを組み合わせています。メンテナンスの手間を省きつつ、将来的に顧客が業務を内製化する際にもスムーズに引き継げるようにするためです。
使用ツールは「マネーフォワード」を主軸に、支払いはOCRツールの「バクラク」、労務は「SmartHR」など。例えば顧客は請求書が届いたらスキャンしてGoogleドライブの共有フォルダに入れるだけで、その後の支払い処理や記帳は私たちが代行します。給与計算も同様で、入退社の情報だけを顧客に入力してもらい、あとは私たちが全て行います。

ただし一部、自社開発のツールとして、Googleのノーコードツール「AppSheet」で開発した「Web出納帳」も使っています。これは、レシートをスマホで撮影するだけで現金の入出金をリアルタイムに管理できるという優れものです。市場にちょうどいいツールがなかったため開発しましたが、今後より良いものが登場すれば柔軟に切り替える方針です。

改めて、タスキーが考えるDXの理念について教えてください。

私たちはツールの導入自体をDXとは考えていません。重要なのは、業務を根本から整理し直し、誰がやっても同じ成果が出せる流れを設計し、日々の現場に根づかせることです。
例えばRPAに対しても同じ考え方です。複雑な業務をそのまま自動化しても根本解決にはならず、むしろブラックボックス化のリスクが高まります。だからこそ、まず「こうあるべき」という姿を描き、できるだけシンプルに整理したあとで、本当に必要な部分にだけRPAを導入する。この「上流設計を徹底する姿勢」こそが、私たちのDXの核だと考えています。


「箸の上げ下ろしまで」
徹底したルール化が独自の強みになる理由

社内でもDXの理念を徹底されていると伺いました。取り組み内容を教えてください。

当社では、「箸の上げ下ろしまで」とも言うべき細部に至るまで、ルールを定め標準化しています。
例えば、ファイル名は日付によるバージョン管理を定めており、「final」などは決して使わないよう全社員に徹底しています。ひとたび例外を許すと、「final_final」「final2」のように、どんどん訳がわからなくなってしまうからです。
他にも、ブラウザのブックマークバーはアイコンのみの表示とし、名前は消すことをルール化しています。「アイコンを見ればわかるのだから、いらないよね」という考え方です。

非常に細かいですね。中途入社の方は苦労されそうです。

苦労していますね。自己流や前職のやり方を持ち込むと、即座に注意されます。しかし、業務全体の効率を保つためには「厳しさを持ってやりきる姿勢こそが重要」というのが私たちの考えです。
ルールは入社時にマニュアルで説明した上、社内ポータルでも常に確認できるようにしています。一見些細なことに見えても、全員が同じ型で動くからこそ、長期的には組織全体の生産性が高まる。これこそがタスキーのDX理念の体現であり、独自の強みになっていると思います。

社内で使用しているITツールの例も教えていただけますか?

基本的にはGoogle Workspaceで、業務管理にはAsanaを使っています。会計事務所は専用の業務管理ソフトを導入するケースが多いと思いますが、私たちは自由度の高い設計ができるAsanaを選びました。
Asanaの強みは、税務・労務に限らず、幅広い業務を一つのツールでまとめて管理できる点です。例えば、顧客ごとの月次進捗をチーム全体で見える化できるのはもちろん、担当者一人ひとりのタスクの進み具合まで追える。営業や社内の細かなタスクも全部Asanaに集約してしまえば、「ここを見れば業務全体がわかる」という状態がつくれるのです。
専用ソフトだとどうしても業務が限定的になってしまいますが、Asanaのような汎用ツールは、自分たちの業務の形に合わせて自由に設計できる。その柔軟さが、私たちにとても合っていると感じています。


スキルよりも理念への共感を重視
教育は「社内の参考書」にノウハウ蓄積

タスキーにはどのようなメンバーが集まっているのでしょうか。
採用にあたって重視しているポイントについても教えてください。

当社は採用にあたり、会計業界の経験者かどうかは重視していません。むしろ前職の慣習にとらわれない人の方が、独自のやり方に馴染みやすいため、Webデザイナーやスタートアップ経験者など他業界出身者が多く活躍しています。

一方で、最も重視しているのは「ミッション・ビジョン・バリュー・カルチャー」への共感です。50人、100人規模の組織を目指すうえで、スキル以上に理念とのフィット感が重要だと考えています。
面接では「目的志向と目的思考」「未来最適」「主人公であれ」などのバリューを行動基準に落とし込み、応募者の姿勢を項目ごとに評価します。どれだけ優秀でも理念に共感できなければ採用しませんが、逆に共感がありカルチャーに合う人材であれば未経験でも迎え入れ、教育によって戦力化しています。こうした理念ベースの採用こそが、事務所の文化を守りながら成長を続ける基盤だと考えています。

社内の教育体制についても教えてください。

当社は社員数に対して業務範囲が広く、新しいメンバーも多いため、教育には課題も感じています。
対策としては、業務ルールや手順、さらに業務に必要な知識やノウハウをまとめた社内ポータルを整備し、メンバーがいつでも参照できるようにしています。いわば「社内の参考書」のような存在ですね。ベーシックな業務から応用的なケースまで、多数のモデルを提示しています。ノウハウは数年かけて蓄積し、毎年更新を重ねています。
まだ組織として上から下に教える仕組みは途上ですが、経験を重ねたメンバーが増えれば、自然と後輩を育てる循環が生まれると考えています。現状はポータルを軸に「自分で学べる環境 」を整え、全体の底上げを進めているところです。

プロフィール
タスキー税理士法人 代表社員 公認会計士・税理士 菊池 友博

東北大学経済学部卒業後、有限責任監査法人トーマツに入社。上場会社の会計監査や上場準備会社の株式公開支援、スタートアップ支援等に従事。主な担当業界は、製造業、ソフトウェア開発業、金融業、建設業、卸売業など。地域の経済に貢献したいとの思いから、2023年10月にタスキーグループにジョインし、つくばオフィスの立ち上げに参画。2024年タスキー税理士法人の代表社員に就任。クラウドを活用したバックオフィスの総合アウトソーシングサービス事業等により、仙台・つくばエリアのスタートアップや中小企業の成長支援を行っている。

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