会計業界に女性活躍のムーブメントを! 女性の活躍を支援する女性税理士が描く 支援コミュニティのかたちとは? Vol.1

税理士川崎涼子事務所 所長 川崎 涼子
経営に必要な知識や情報を女性起業家向けに発信するコミュニティを運営する川崎涼子先生。自らの税理士としてのスキルを駆使しつつ、他士業の先生とも連携しながら起業家支援に力を入れてきた。川崎先生の活動の原点には、学生時代・就職活動でかけられた“叱咤”の言葉があった。その言葉を原動力にしてきた川崎先生は、支援の対象を「起業家」から「女性士業」へと拡大し、活動の場を広げている。女性が活躍できる環境づくりに注力する川崎先生に、取り組みの狙いと今後の展望などについて伺った。
起業家を「知識」の面で支えたい
女性税理士だからできる 女性起業家支援
川崎先生は、様々な女性士業の方々が講師を務め、女性起業家を支援する
「わたしのコモンSEN」というオンラインコミュニティを運営されています。
具体的に、どのような活動をされているのですか?
「わたしのコモンSEN」を始めたのは2023年で、学ぶ意欲を持った女性起業家の方々を、1年ごとに、新たな受講生として迎えています。2023年のメンバーを「0期生」と数えていますので、いま学んでいるのは、今年の1月から始まった「第2期」のメンバーの方々です。
ざっくり申し上げますと、「わたしのコモンSEN」は、起業から開業届の作成・提出、さらには法人化していくまでのプロセスを1年かけて学んでもらうセミナーなどを運営しているコミュニティです。セミナーは毎年1月に開講し、月1回ほどのペースで実施しています。

メンバーの方々には、まず自身の簡単な事業計画をまとめて、目標を明確にしてもらいます。2月から3月にかけては確定申告の時期ともちょうど重なりますので、セミナーは税務会計業務を中心に展開します。いわば「記帳相談会」のような形で、税務会計についての基本的な業務を身近に感じてもらうのが狙いです。その後取り上げるのが、「どうやって売上を上げるのか」とか「インボイス制度への理解を深める」とか、法人化に際しての留意点や経営に直結するテーマなどです。こうした学びを1年間続け、法人化までのノウハウを学んでもらう仕組みになっています。
1期目は64人、2期目の現在は70人以上の女性起業家の方々にご参加いただいています。
なぜ、こうした取り組みを始められたのですか?
独立前に会計事務所で働いていたときから、女性の起業家の方々と関わる機会がありました。当時私は、税理士としてのサービスを提供し、その対価として月5万円ほどの顧問料をお支払いいただくという一般的な会計事務所のビジネスモデルの中にいました。顧問料を払って税理士にアドバイスをもらう、というのは、起業家が当然に行っていることだと私は思っていたのです。
しかし、いざ自分が事務所を立ち上げると、そうした起業家ばかりではないということに気が付きました。独立後は、それまでの事務所と比べてかなり幅広く起業家の相談に乗ってきましたが、「起業や経営についての知識が欠けているのでは?」と思わざるを得ない方々が多かったのです。例えば、2月末に確定申告の相談に来て、「記帳も何も全然していないのだけれど、どうしたらいいの?」という方もおられました。あるいは、「開業届の書き方や、提出するタイミングが分からない」という相談を受けたこともあります。結局、顧問料をしっかり払って税理士からアドバイスをもらえていれば、こんなことにはならない訳です。ただ現実には、税理士が持っている知識が十分に届いていない起業家の方々も多くおられたのです。
相談する相手も、起業や経営についての知識も十分ではない起業家が
多くいるという実感を持たれたのですね。
「多くの会社が、起業しても数年でなくなってしまう」という話は聞いていましたが、それをまざまざと見せつけられたような気がしました。
一方で、解決策はあるのではないかとも思いました。相談相手の不在や知識の不足という本業以外の部分で足を引っ張られて、資金がショートしたり確定申告ができなかったりという問題が起きているのであれば、その部分を誰かがフォローすればいいのです。
そんなことを思案していたのが、ちょうど、私が大病で手術や入院を余儀なくされた時期とも重なりました。「女性」の起業家を支援したいという思いは以前から持っていたので、そのタイミングで、様々な分野の士業の先生方に声を掛けて立ち上がったのが「わたしのコモンSEN」です。
税務会計、法律以外に医療の専門家も
多彩な講師陣が醸し出す「SEN」の魅力とは?
税理士以外に、どんな士業の先生が講師を務めているのですか?
会社経営に必要な知識を提供してくれる、あらゆる士業の方々が講師陣に加わってくれています。弁護士や司法書士、行政書士、社会保険労務士など、私を含めた10名の士業の女性が、それぞれの専門的な立ち位置から女性起業家にアドバイスしています。講師の中には、「医師」もおられます。
お医者さまですか?
起業や経営とは直接の関係はありませんが、心身の悩みとどう付き合っていくかについて話をしてもらっています。例えば、「更年期障害」にどう向き合うべきか、ですとか、あるいは、メンタルの不調への対処法など、健康を保つためのコツを披露してくださっています。そういった話は、医師でなければできません。好評いただいているセミナーの1つです。
やはり、「女性同士」というのは話し易いのでしょうか?
私としては、講師は必ずしも女性でなくても構わないという思いがありました。男性の士業の方に入っていただくのも、男女のバランスがとれて望ましいとさえ思っていたのです。現に、特別ゲストとして男性の弁理士の先生を招いて、知的財産権の話をしていただいたこともあります。
ただメンバーの中には、「女性の税理士に相談したい」とか、「女性の先生に話を聞いて欲しい」といった希望を持っている方が一定数おられるのです。そして、そうしたニーズに応えたことで、コミュニケーションがより活発になったのも事実です。
そうしたコミュニケーションの一環として、オンライン中心のセミナーだけではなく、受講生の方々と対面でお会いすることもしばしばあります。最近では、東京や福岡などで、「オフ会」という形で食事をしたりお茶を飲んだりしながらお話させていただきました。今年7月には、「大阪・関西万博」にも一緒に行きました。忙しい起業家の方も多いので、なかなか、全員揃ってという訳にはいかないのですが、機会を見つけてはお声掛けして直接お会いし、ざっくばらんに相談に応じたり、必要に応じてアドバイスしたりしています。

70人以上のメンバーとコミュニケーションをとるというのは、骨が折れそうですね。
全ての方の顔と名前、あるいはどんな業種での起業を考えているかといったことを頭に入れておかなければなりません。
さらにいうと、セミナーや、先ほど申し上げた「オフ会」のようなイベントの他にも、オンラインで不定期に講義や相談会を開催することもあります。ただ、様々な事情から、そうした場になかなか参加できない方もおられます。また、大人数の中で話しかけても、積極的な意見交換ができない方もいらっしゃいます。そうした方々には、個別に、「大丈夫?」「元気ですか?」のようにこちらから声を掛けることも必要です。そういう意味では、やりがいもありますが神経も使います。
「わたしのコモンSEN」は現在2期目ということでしたが、
今後どう運営していきたいとお考えですか?
女性の起業家を支援するというビジネスモデルを安定的な軌道に乗せたいと思っています。今でも利益は出ているのですが、事業として「スケールさせたい」という気持ちもやはり持っています。
一方で、500人、1000人という規模になってしまうと、全てのメンバーに、きめ細かに目配りするのが難しくなってしまいます。今のやり方を維持するのであれば、おそらく、メンバーの上限は100人が目安になります。ですから当面は、この「100人」を目標に「わたしのコモンSEN」を運営していきたいと考えています。
あわせて、目標に達した後どんなやり方で「わたしのコモンSEN」を続けていくのかについても、アイディアを蓄えていきます。女性起業家支援という初心を忘れず、どうすれば悩みを抱えている方々のお役に立てるのか、これからも私なりに知恵を絞っていくつもりです。
プロフィール |
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税理士/起業家育成コミュニティ「わたしのコモン SEN」運営 川崎 涼子
世界最大級のKPMG税理士法人など18年勤務を経て、2020年4月に独立。延べ1000社超の確定申告や決算に携わる。2023年より士業10人で起業家を育成するコミュニティ「わたしのコモン SEN」の運営を開始。2025年は74名の開業・副業・法人設立を支援。複数の大手キャリアスクールや行政にて、確定申告講座や起業伴走プログラム、士業向けSNSマーケティング講座など登壇多数。2025年9月きずな出版「年収の壁辞典」監修。2026年にはビューティーワールド ジャパン名古屋にて経営者向けセミナー登壇予定。Instagram(@ryoko_tax_zeirishi)とX(@ryoko_tax)では、難しい専門用語を使わず確定申告を優しく解説する投稿が800を超える。 |