女性起業家支援を軸に、経営改革も担う三代目女性税理士
働きやすい環境づくりは「子連れ出社」も視野 Vol.1

税理士法人小野会計 小野 貴子

税理士法人小野会計 小野 貴子

女性の起業が増える一方で、税務や資金調達に不安を抱える声は少なくない。そんな中、税理士法人小野会計の代表・小野貴子氏は、融資や補助金提案、事業計画の策定など、税務にとどまらない総合的な伴走支援を提供し、女性起業家の挑戦を支えている。 経済的な自立を目指す女性たちの心強い伴走者であると同時に、所内ではフルリモートやフルフレックスを導入し、将来的には「子連れ出社」も視野に入れるなど、働きやすい環境づくりにも力を注ぐ経営哲学に迫る。

音楽業界から税理士へ
人生を賭けたキャリアチェンジ

はじめに、小野先生が税理士を志した経緯を教えてください。

私は群馬で会計事務所を営む家庭に育ち、父も祖父も税理士です。ただし、20代は会計業界とは無縁で、音楽業界でアーティストのマネジメント業務などに携わっていました。
好きなことを仕事にしていたものの、収入面での厳しさに直面し、30歳手前でキャリアを見直します。そこで、独立できる資格の強みに魅力を感じたことと、幼い頃から身近だったことから、税理士になることを決意しました。
加えて、私は人生のテーマとして「経済的な自立」を掲げています。税金の知識はお金を理解するうえで不可欠ですので、税理士という職業は自分にぴったりだと感じたのです。


その後、どのような流れを経て、小野会計の代表税理士となられたのでしょうか?

まず、大学院に通いながら5年ほどかけて税理士資格を取得しました。並行して東京の税理士法人で働き、実務経験も積んでいます。
勤務先は資格取得を応援してくれる事務所でしたが、業務量はかなり多く、勉強との両立は若さで乗り切った面もありました。それでも、この事務所勤務時代に年間を通じた税務の流れをしっかり理解できたのは大きな収穫でしたね。
試験に合格した翌年までその事務所に勤め、群馬の実家に戻って小野会計の代表税理士となりました。


女性が税理士という資格を活かして働くうえで、どのような利点を感じていますか?

最大の利点は、働き方の自由度が高く、ライフイベントとの両立がしやすい点です。独立開業はもちろん、勤務税理士でもフリーランスに近い柔軟な働き方ができます。そのため、妊娠や出産、子育ての時期でも自分のペースで仕事を続けることが可能です。
また、税理士は年を重ねるごとに経験や知識が蓄積され、提供できる価値が高まる職業です。年齢や性別に左右されないキャリアが築ける点も、魅力的でやりがいがある仕事だと思います。

税理士法人小野会計 小野 貴子




女性起業家の駆け込み寺に
共感が紡ぐ信頼関係

現在、小野先生は女性起業家の支援に力を入れられています。
そのきっかけや理由を教えてください。

実は、最初から女性起業家に特化するつもりではありませんでした。税理士になってみて、「女性の税理士を探している」という問い合わせが想像以上に多かったことがきっかけです。
税理士業界は平均年齢が60歳で男性が大多数、女性は全体の約15%しかいません。年上の男性税理士には相談しづらいという声をよく聞きました。
近年は女性の起業が増えている一方で、それをサポートできる女性税理士はまだまだ不足しています。こうした背景から、自然と女性起業家支援に力を入れるようになりました。当初はニーズに応える形で始めましたが、今では「困っている方の力になりたい」という気持ちが一番の原動力になっています。
また、日本は女性起業家のロールモデルが不足していることからも、女性起業家の育成・支援は重要な政策課題だと感じています。そうした支援を行うことで、微力ながらも日本の女性の社会進出や女性起業家が増える一助になれたらと考えています。


スタートアップはスモールビジネスも多い中で、どのようにマネタイズしているのでしょうか?
具体的な支援内容も併せて教えてください。

女性起業家に対しては、お金まわりを総合的に支援しています。税務顧問に加え、融資や補助金・助成金の提案、事業計画書の作成、資金繰りのサポートなどですね。中でも融資支援は成功報酬型での対応が多く、マネタイズの要になっています。
また、お客様のスタンスに合わせ、リスクを抑えた形での起業の提案も行っています。たとえば、まずは扶養の範囲内で始めてみる、補助金の制度を活用する、といった方法で心理的なハードルを下げるような形です。起業を「怖い・危ない」と感じる女性が多いため、起業への漠然としたイメージを具体的な計画にし、一歩を踏み出すお手伝いをしています。
その一環として、起業後3年間限定・女性限定で、月額1万円で質問し放題の「スタートアッププラン」も提供しています。マネタイズとしては厳しい面もありますが、お客様の事業が軌道に乗った際に顧問契約へとつながるケースもあり、大きなやりがいを感じています。


顧客の女性起業家からはどのような声が聞かれますか?

税理士法人小野会計 小野 貴子

「コミュニケーションが取りやすい」「話しやすい」というお声をよくいただきます。
共感を心がけているため、「小野先生は心のケアまでしてくれる」と言っていただくことも少なくありません。
男性税理士だと踏み込みづらい部分も、女性の私だからこそ深く関われることがあると思います。その結果として、「事業がうまく回り始めた」と感謝されることも多く、とてもうれしく思っています。
また最近では、女性税理士だからと、女性従業員の多い企業からのセミナー依頼も増えました。社内教育の一環として、決算書の読み方などを指導しています。




働く女性の理想郷へ
組織成長を支える「心理的安全性」

小野会計は女性職員が8割と伺っています。
柔軟な働き方を導入するねらいを教えてください。

女性がライフイベントでキャリアを絶たずに済むような、働きやすい環境づくりを第一に考えています。その一環が、在宅ワーカーの積極的活用です。
会計事務所で経験を積んだものの、出産や子育てでフルタイム勤務が難しくなった優秀な女性はとても多くいます。そうした方に再び働いてもらえるよう、フルリモートやフルフレックスを導入し、自由に勤務時間を設計できる仕組みを整えました。いずれは「子連れ出社」が可能な職場をつくるという夢もあります。
また、女性は「出世したい」「高収入を得たい」というより、心理的安全性の高い職場を求める傾向があります。そのため、自由に楽しく働けて、安心して意見を言える雰囲気づくりを特に意識しています。


雰囲気づくりについて、もう少し詳しく教えてください。

私自身が所内ではリーダーとして、冷静さと温かさを兼ね備える対応を心がけています。たとえば、注意や指導が必要な場面でも感情的にならず、論理的に説明するようにする。ここには、役割や責任を明確にし、感情に流されないマネジメントを重視する「識学」の考え方を取り入れています。一方で、相手の気持ちに寄り添うことも忘れません。理性的でありながら共感のできるリーダーでありたいと考えています。
また、職員には私が楽しんで働く姿を意識的に見せるようにしています。主体的に取り組むことが成果につながるという、身近な手本でありたいと考えているからです。


女性の多い組織ならではの課題もあるのではないでしょうか。

小規模な事務所なので、産休や育休で1人抜けるだけでも影響が大きい点は課題ですね。対策として、現在は業務指示書を整備し、業務の標準化を進めています。
フルリモート・フルフレックスといった自由な働き方だからこそ、ルールの制定が欠かせません。評価基準や採用基準を明確にし、組織としての一貫性を保ちながら柔軟な働き方を実現できるようにしています。

プロフィール
税理士法人小野会計 小野 貴子

税理士法人小野会計 代表税理士。大学卒業後、音楽業界へ飛び込み、アーティストのマネジメント業務などを行う。その後、会計・税務の業界へ転身し、税理士資格を取得。2021年税理士法人小野会計(群馬オフィス)を設立。2025年東京オフィス設立。70年続く家業の税理士事務所を承継後、DX化や金融機関目線での財務支援を推進。事業計画や資金繰りなどお金の不安をトータルでサポート。税務に留まらない多角的な支援と「脱属人化」「チーム経営」を掲げ、事務所の改革に挑む。近年では、経済的な自立を目指す女性や女性起業家の支援に力を入れている。また企業や大学などで、税金や会計に関する数多くのセミナーを行い、セミナー講師としての実績も多数。SNSの発信にも力を入れており、税金や会計にまつわる最新情報をいち早く発信している。

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