顧客も従業員も笑顔に!
「成長」と「働きやすさ」で九州全域での展開を目指す「みらいと」の戦略に迫る

みらいと税理士法人 代表税理士 惣福脇 さな子
福岡・大分両県に拠点を設けている「みらいと税理士法人」。九州全域での事業展開も視野に入れ、安定成長と働きやすさの実現に力を入れる。成長の核にあるのは、単なる税務相談にとどまらない「経営伴走プラン」の導入と、二人の代表税理士によるいわゆる「両利きの経営」戦略だ。「両利き」の一方である惣福脇さな子先生は、福利厚生面の充実を図ることで働き手不足の対策にも取り組んできたという。みらいと税理士法人の「現在」と「未来」について、惣福脇先生に伺った。
コーチングメソッドが可能にする
「経営伴走プラン」とは?
先生は、コーチングメソッドを取り入れた「経営伴走プラン」の
サービス提供に力を入れていらっしゃると伺っています。
具体的なサービスの内容を教えてください。

私たちが提供している「経営伴走プラン」は、通常の税務顧問業務に加えて、企業の未来を描き、その実現を支援することに特化したサービスです。具体的には、通常の税務申告や相談業務とは別に、企業のMVV(ミッション、ビジョン、バリュー)を考えたり、それを達成するためのアクションプランを策定したりするサービスを提供しています。この「経営伴走プラン」を導入したことで、お客様とのコミュニケーションがより密になったと実感していて、現に、このサービスに切り替えてくれた顧客は全体の約2割に上っています。
このサービスを通じて、私たちは経営者の方に「ここに来ると気持ちが晴れる」とか「元気がもらえる」といってもらえるような、安心感のある場所を提供することを目指しています。
例えるなら、経営者が孤独な戦いから解放され、落ち着くことができる「カフェ」のような、温かみのある存在になりたいと考えています。このサービスでは、税務・会計の専門家という立場を超えて、経営者が社内ではいえない本音や課題を打ち明けられる、第三者として寄り添ったサービスを提供しています。
なぜ、「経営伴走プラン」のサービスを取り入れることになったのでしょうか?
以前は、「こうした方がいいですよ」という、いわゆるコンサルティングスタイルで経営支援をしていたのですが、アドバイス通りに行動してくれる経営者が全然いないという厳しい現実に直面したのです。どんなに論理的で正しいアドバイスをしても、経営者の方が主体的に動いてくれなければ結果は出ません。では、どうしたらアドバイスを受け入れてもらえるのだろうかと考え、京都大学大学院の上級経営会計専門家(EMBA)プログラムでコーチングメソッドを体系的に学ぶことにしたのです。その結果、私が行ってきた今までのコンサルティングは、外部からの一方的な指導であって、相手の自発的な行動を促すコーチングとは根本的に異なるということに気がつきました。そして、私のスタイルはガラッと変わりました。「何がしたいのか?」「どういう方向に会社を持っていきたいのか?」と問いかけ、「こうしたいんだ」という思いを経営者の中に芽生えさせるようになりました。主体的に考え、行動する習慣を経営者に身につけてもらうことがコーチングのポイントだからです。このコーチングの学びが、「経営伴走プラン」というサービスへと私を導いたのです。
「経営伴走プラン」で顧客と向き合う際、どんなことが大切になってくるのでしょうか?
最も大切なのは、信頼関係を築くことです。私たちが厳しいことをいったり、お互い本音でぶつかったりするようなことがあったとしても、最終的にはアドバイスを前向きに受け入れてもらえる関係性が必要です。経営者は孤独な存在であり、社内には同じ目線で話せる人がいないことが多いので、私たちのような第三者の立場から、彼らの内なる思いを引き出し、言語化し、主体的な行動を促すことが、伴走支援の核心だといえます。
経営者は、誰にもいえない不安を抱えていることが多いため、私たちは数字の専門家として未来への道筋を示すと同時に、精神的な「拠り所」となることを目指しています。そして、その安心感を提供するためには、数字だけではない、きめ細かな配慮や、共感性に基づく優しさが不可欠だと考えています。この情緒的な部分と、論理的な専門性の両輪が士業に求められる付加価値であり、特に相続や事業承継といった分野においては、こうした「優しく寄り添ってくれそう」という要素が、お客様にとって会計事務所を選ぶ大きな決め手となることが多々あります。
この、人に寄り添うためのソフトスキルは、女性が持つ強みとも関連しており、事務所全体の競争力の強化につながると考えています。
「女性」で固めない世界観と
「採用」の工夫とは?
先生ご自身も女性ですし、女性の従業員の割合が貴所では多いのでしょうか?
いえ、そんなことはありません。従業員は、男性3割に対して女性が7割くらいの割合です。女性がやや多いですが、どちらかに極端に偏っている訳ではなく、個人的には男女のバランスがうまくとれていると思っています。一方で顧客は男性が圧倒的に多く、女性は1%ほどと非常に少なくなっています。

先生の中では、従業員や顧客の性別に大きな拘りはないのですね。
性別を気にしたことはないです。個人的には、男女混ざっていた方が仕事はしやすいと思っています。
ただ、先ほども申し上げた通り、女性特有の強みのようなものはあって、それは大事にしていきたいと考えています。例えば、「優しく寄り添ってくれそう」という印象を、女性の方が抱かせやすいという面は確かにあるでしょう。私も顧客に対して厳しいことはいいますが、ニコニコ笑いながらお話しするので、割とすんなりと受け入れてくれるのです。
特に相続の分野は、女性税理士の適性が高いと感じています。相続の相談で来られる方は、ネットを使いこなしていない方も多くおられます。要するに、「何をしたらいいのか分からない」という不安を抱えた状態で相談に来られるのです。そういう時に女性が、「心配しなくていいですよ」と話すだけで落ち着かれるのです。安心感ときめ細かさが特に重要とされる分野では女性に先頭に立ってもらう、という役割分担は行っています。
一方、働き手不足の中で、男女問わず優秀な人材に振り向いてもらうための工夫も必要になってきていると思いますが、貴所ではどのような取り組みを行っていますか?
試行錯誤していますが、最近では「ゲーミフィケーション」の考え方を経営に取り入れ、従業員のモチベーション向上に役立つような報酬を与える制度を導入しました。
例えば、従業員の「つみたてNISA」を支援する制度というのは特徴的ではないかと考えています。つみたてに拠出する掛金の一部を事務所が負担し、従業員の資産形成を支援する制度です。きっかけとなったのは、「資産形成に興味があっても、元手のお金が十分ではなかったり、銘柄選びが難しかったりして一歩を踏み出せない」という従業員の声でした。「資産形成」は私の得意分野なので、「会社でお金を出すからやろうよ」と提案したのです。
この制度は、従業員の金融リテラシーの向上に役立つのはもちろん、採用時のアピールにも確実につながると考えています。自分のお金ではないので、気軽に資産形成を始めたい従業員には魅力的な制度だといえる気がします。
先生ご自身の投資経験から、職員や顧客にアドバイスされることもあるのですか?
私自身は、資産の90%以上を投資信託で運用しています。また、生粋のギャンブラー気質のため、専業主婦時代にはFXでレバレッジをかけて1,000万円近く損をした経験もあります。この痛みこそが、私のアドバイスの説得力を増しているのではないかと考えています。安定的な運用の大切さを身に染みて実感しているので、職員には、手堅い金融商品を勧めています。
「両利き経営」で目指す
「働きやすさ」の追求
貴所の組織体制についても伺います。
貴所では、先生と、三重野和敏先生のお二人が代表を務めていらっしゃいますが、
役割分担のようなものはあるのでしょうか?
二人の役割は明確に異なります。私は、未来志向で、チームをぐいぐい引っ張っていくタイプなので、事業計画など弊所の大きな戦略や方針を決める役割です。
主に新規事業の可能性を探る「攻め」の部分を担当しています。一方の三重野は、私が決めた大枠を、現実の経営に落とし込む役割を担っています。新規事業を形にするために求められる具体的なプロセスを整えるのが三重野の役割です。既存の顧客に対するサービスの質の向上も絶えず追求する立場でもあるので、その意味で、彼は「守り」の担当だと考えています。私たち二人は性格が対照的です。だからこそ、それぞれの強みをいかして、いわゆる「両利きの経営」ができているのだと思っています。

加えていえば、私は、仕事や数字に対しては非常に厳しいですが、家事やスケジュール管理など、プライベートでは若干ルーズな部分があり、周りの人に助けてもらっている面もあります。変ないい方かもしれませんが、そうした自分の弱点を認識しているからこそ、他者のアドバイスにも素直に耳を傾けられるのかもしれないと、自分では思っています。
貴所の、今後の成長戦略について教えてください。
弊所の現在の売上構成比は、税務顧問が70%程度、相続業務が15%程度、残りのスポット業務(確定申告、M&A、事業承継など)が15%程度です 。
今後、特に力を入れたいのは相続業務で、いずれは売上比率を30%程度に増やしたいと思っています。そのために、事務所の一角に「相続・事業承継よろずカフェ」という専用のカフェスペースを設けて相談しやすい環境を整えたり、BtoBでの認知度向上のため他士業や金融機関との連携を進めたりしています。
また、相続申告だけでなく、手続き(名義変更など)も含め入り口から出口まで一気通貫で対応できるように、行政書士事務所も設立する予定です。
今後は、九州全域での展開も視野に入れているとのことですね。
都市部から離れれば離れるほど働き手不足は深刻で、事業の後継者が見つからないことによる事業承継やM&Aのニーズが高まっています。
そうしたニーズに応えるため、今年10月、大分市の会計事務所を事業承継で引き継ぎ、弊所の大分事務所として開設しました。一方で、働き手が不足しているということは、様々な業務を効率化する余地がまだまだ残っているということも意味します。そうした地域だからこそ、クラウド会計の普及やDX推進に力を入れて取り組みたいと考えています。
将来的には、九州全域に事業展開していきたいと考えています。その際念頭に置きたいのは、九州各地の会計事務所との横のつながりを深めるという点です。弊所だけが大きくなればいいという考えでは、決してありません。会計事務所にはそれぞれ得意分野があるので、互いの得意不得意を補い合いながら九州の会計業界全体が成長できる仕組みを構築していきたいです。

それと同時に、従業員の福利厚生にも一層力を入れていきたいと考えています。弊所は、いたずらに規模を拡大するよりも、従業員1人当たりの売上を増やすことが重要だと考えています。目標は、会計業界の平均を大きく超える「1人当たり2,000万円」です。これを達成した上で、一般企業に全く見劣りしない給与を支給できるようにしたいと考えています。1人当たり、年収800万円が私の目標です。また、業務を効率化することで、「午前10時出社、午後4時退社」の働き方も実現したいと考えています。働きやすい環境の整備は、絶えず進めていきたいです。
これらの目標を達成するためには、経営コンサルティングやIPO支援、M&Aなど付加価値の高い業務を行い、我々がその専門性を身につけ、高めていくことが不可欠です。各々が経験を積むのはもちろんですが、社員研修や各種セミナーなどを通じて、知識を身につけ、絶えず腕を磨いていかなければなりません。記帳代行など、AIに取って代わられる分野ではなく、高付加価値業務に強い少数精鋭の専門家集団として勝ち残っていきたいと考えています。
| プロフィール |
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| みらいと税理士法人 代表税理士 惣福脇 さな子
東京大学経済学部経済学科を卒業後、2004年4月に野村證券株式会社へ入社し、債券・為替ディーラー業務に従事。その後、専業主婦期間を経て公認会計士試験に挑戦。2015年に有限責任監査法人トーマツに入社、九州を代表する上場企業の監査やIPOコンサルティングに従事した。2020年10月に独立し、みらいと税理士法人を設立、代表に就任(現任)。翌2021年8月にはアンド監査法人を設立し、パートナーに就任(現任)。社外役員としても活動しており、現在は株式会社しくみデザイン、コンダクト株式会社、株式会社Defimans、株式会社カシムラホールディングスの4社で社外監査役を務めている(いずれも現任)。 |
