平均年収650万円超えの衝撃! 松岡敏行が目指す労働生産性日本一の事務所作り Vol.1
税理士法人松岡会計事務所 代表社員税理士 松岡 敏行
労働生産性(給与÷労働時間)で日本一の事務所を目指す松岡会計事務所(大阪府)。 平均年収650万円超えという高水準を達成しつつも、残業時間もほとんどないという、高い生産性を維持するにはどのような秘訣があるのか。事務所での効率的な働き方や給与制度、また働く環境作りの観点から代表社員税理士の松岡敏行氏に話を聞いた。
直行直帰OK
専門スキルを活かした効率的な働き方
「労働生産性日本一を目指す」取り組みについて深掘りしていきたいと思っています。
まず、効率的な働き方を行うために、具体的にどのような取り組みをされているのでしょうか。
まず一つは、無駄な時間を省くことで労働生産性を上げることです。無駄な時間の代表的なものが移動時間ですね。これを無くすために直行直帰もOKにしていますし、当事務所には拠点が3つありますが、今日どこで働くかというのも自由に選べるようにしています。もちろん、まだ右も左もわからない状態でいきなりOKというわけではなく、自分一人で完結できる仕事の割合に応じて、どこで働いても良いとしています。
移動時間に関してもう一つ例を挙げると、顧問先の訪問もできるだけ効率的に回れるようにしています。Googleマップで顧問先の住所の位置にピンを打ってそれぞれに色分けをし、できるだけ寄せて訪問していくのです。エリアを固めて2、3件回って帰ってくるとなると効率的ですし、家が近ければ直行直帰も可能になりますしね。
誰かが辞めたり新しい顧問先が増えたり、または引き継ぎ等のタイミングで、エリアの要素を意識して担当を持たせていきます。そうすることで新陳代謝が促され、アップグレードしていき、どんどん効率的に回れるようにすることを意識しています。
効率を求めることが、所員にとっての働きやすさにもつながっているのですね。
そうだと思います。また、業務内容の効率化としては、とにかく分業するようにしています。例えば、資産税部という部署があるのですが、相続に関してはこの資産税部が全て担当します。そうすると年間100件をこなすことになるので、簡単な申告だと1日でできるようになるくらい、資産税部の専門スキルはどんどん上がっていくんですよね。規模が小さかったり効率が悪かったりする会計事務所は、全ての業務について一人で担当したりしているので、この時点でもう莫大な時間がかかっているんです。
とにかく分業して、それぞれがパスを回すということで、深く広くするというのが生産性の高さの最大の要因だと思っています。
それぞれの部署や担当の能力を最も生かせるようなチームワークで進められているのですね。
例えば、入力作業は全部パートさんに振るようにしています。入力のエキスパートとして、目に見えないほどの速さで作業してくれるのです。ちなみに、弊所は正所員の離職率も低いですが、これはパートさんも同じで、一度入所してくれたら10年は続くことがほとんどです。パートさんの中には決算を組める方もいるので、正所員の横に配置し(これを私はパートラインと呼んでいるのですが)、すぐ隣で業務を行える体制を作っています。
そうするとコミュニケーションも取りやすいですし、入力から決算までをパートさんに担当してもらうと、正所員はその分手が空くので、顧問先との打ち合わせに注力できます。自分は毎月お客様のところに行って試算表を渡して説明することに専念できれば、相当時間が浮いてくるので、顧問先を40件持っていたとしても残業せずに業務を終えられるのです。
弊所は、出退勤を全てiPadやiPhoneでTaskal Time-Cardというアプリを使用し、顔認証によって管理しています。そのためかなりリアルな数字を集計することができ、令和5年度の残業時間は、1・2・3月の一番忙しい時期でも月平均22時間です。これは極めて短いと思いますね。1人で売上5,000万を稼いでいる所員を筆頭に、2,500万以上稼いでいる人が10人ぐらいいるのですが、それでも残業は全然していないですから、単純に1時間当たり3万円を稼いでいることになります。営業利益率は3割近いので、やはり一人当たりの労働生産性を高くすることができているのだと思います。
労働生産性や効率を上げるということを考えた時、直接訪問するのではなく
もっとオンラインを活用するのはどうかという声もあると思うのですが、その点はいかがでしょうか。
もちろん、弊所にもオンライン割引というものもあって、通常料金の7割で設定しています。ただ、オンラインの顧問切れの率は非常に高いのです。今は最低でも50万からの顧問契約とさせていただいていますが、この金額をネットで決められるかというと、やはり心理的に抵抗がありますよね。そうすると、この業種はやはりオンラインだけでは非効率かなと感じています。
アイディアや提案を求められている社長にとっては、オンラインだとなかなか考えを出しにくいというのが立証されていますし、単純な効率だけを考えた場合には良いのでしょうが、やはり私はフェイスtoフェイスだと思っています。完全に最初から最後までオンラインの方は全体の1%もいないですね。
次なる目標は
残業なし平均年収700万円
実際の給与のお話も伺っていきたいと思います。
ここ数年ベースアップや昇給というのは、どのように行ってきたのでしょうか。
うちの事務所は平均年齢が39歳ぐらいですから、だいぶ若い方だと思います。私が今45歳で、私より年下が今は事務所の80%以上を占めています。その所員構成で一昨年の平均年収が630万、昨年が平均650万なので20万上昇しています。
いわゆる世の中で言われている上場企業の平均523万と比較すると高いほうだとは思っているのですが、今年はさらにベースアップを行いました。
元々、昨年まで新卒採用は22万からだったのですが、今回、初任給の最低ラインを23万に上げたのです。そうすると、新人を教える2~3年目の子の給料とあまり差が無くなってしまう。給料が同じ額の相手に手取り足取り教えようとはなかなか思わないだろうなと思い、一つの基準として、20代、大体25歳ぐらいまでの所員は今回全員2万ずつベースアップしました。ですから、その世代は業績による昇給も含めると3万~5万の賃上げになります。それ以外の層は顧問件数で今まできちんと評価されていますし、時代も違うので、そこは線引きをしました。
今後は平均年収を700万まで上げることを目標にしています。将来的なことを考えると、待遇は絶対上場企業に負けないようにする自信がありますから、同時に、所員には上場企業と同じぐらいの高いレベルでの仕事をしてほしいと思っています。
やはり、会計事務所は常に成長し続けなければ終わりだなと思っているので、「上場企業を抜いてリーディングカンパニーになっていくんだ」という高い士気を持った集団を作り上げたいのです。そのためには自分も成長しなければならないし、こういう事務所にしたいという夢をメンバーと共有することがとても大事だと考えています。
確かに上場企業にも負けない給与形態ですね。しかも残業も少ないのですよね。
税理士の仕事は給料が安くて残業が多いというイメージが強いブラックな業界でもあるので、そういうイメージを払拭したいし、これから事務所としても業界をリードしていくような存在になりたいという思いもありました。
幹部の給与については、1,000万は超えています。先ほど言ったように、私の雇った世代が全所員の83%で、うちの父親世代に当たるのが17%ほど。父親世代の所員は当時の給料が初任給18万で、毎年5,000円とか1万円くらいしか上がらないような感じだったんです。
私の代になってから上層部も含めて給料を上げ、1,000万を超す人が何人か出てきたというところです。今だと本当に能力がある所員は、場合によっては20代で1,000万にも届くと思います。これからは多拠点化も考えているので、支店長になったら最低1,000万プラスインセンティブにしようと思っています。インセンティブは売上の20%くらい、かなり大きくして、純粋に頑張れば頑張るほど、給料が上がるようにしていきたいと考えています。
公正公平な基準設定で可視化される評価と高まる積極性
貴所の評価基準は、どのようなものなのでしょうか。
仕事ができればその分給料を上げるという大変わかりやすいものです。担当を持ったり、新規を獲得したり、不動産関連に回したり、とチャンスはごまんとあふれているので、自分で自分のキャリアアップを勝手にできる環境が整っています。
例えば、担当件数30件をクリアしたら、最低400万以上の年収は保証するようにしています。大体自分の担当した顧問料と給料がリンクするようにしていますので、若い子は非常に積極的です。自分で新規を取ってきたら半年分ぐらいのインセンティブがつくので、自主的に取ってきてくれるようになりました。会計部門の正所員だけでいうと、弊所には今55人ぐらいいますが、1人1件を取ってきたら年間55件の新規が増えるということになります。
賞与に関しても、各所員がどのくらい新規を取ってきて逆にどのくらい人に振っているか、そういったことを全て分析して加算していきます。
そのためにも、毎月「所員分析表」を作成して公表するようにしています。所員分析表は、担当顧問料や売上、勤務時間や社歴などを全部分析してランキング形式で発表しているもの。このような、みんなが納得する一つの明確な物差しがないと競争原理も働かないし、公平性に欠けてしまいます。また、誰かが人間関係でえこひいきされているんじゃないかといった無駄な憶測を生まずに済むというメリットもあります。能力とやる気がある所員ができるだけ報われる公平な制度を設けることで、もっと上に行きたいと自主的に努力して、自分でポジションを勝ち取っていく流れを作っていくということですね。これは弊所の行動方針でもあります。
頑張っている人間はすぐに報われるみたいな形で自主性を促すための制度は、やはり効果的だと思いますよ。
とにかく誰が見ても分かりやすい指標という意味でも公平性は必須なので、皆で意見を出し合いながら誰もが納得できる物差しの仕組みを確立しているところです。
プロフィール |
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税理士法人松岡会計事務所 代表社員税理士 松岡 敏行
29歳で税理士登録。過去1,000件を超える相続対策を実施。その経験を活かし独自の対策を提案することで定評がある。また、子供のころ漫画家を目指していたこともあり、日本で初めて税理士自らマンガを描いた「マンガ・突然の相続」(清文社)を出版。マンガを使ったセミナーはわかり易いと好評となり、現在はセミナー講師として全国で講演している。 現在は社員数85人の税理士法人松岡会計事務所グループ代表。 |