「拠点展開」の光と影
松本崇宏の辞書に「停滞」という二文字はない! Vol.1
税理士法人松本 代表社員・税理士・行政書士 松本 崇宏
近年、インボイス制度や電子帳簿保存法など、税理士業務は目まぐるしく変化し、業務量も増加の一途。対して、頼みの綱の採用活動は一般企業でも苦労するほど売り手市場が常態化しており、会計業界は「お客様は取れても職員が取れない」時代へと突入しつつある。 そんな中、2006年に亀戸で事務所を開業後、首都圏と大阪を中心にオフィス拠点を次々と開設し、グループとして成長を遂げているのが「税理士法人松本」である。 今回は代表の松本崇宏先生に、拠点展開するに至った背景と理由、さらには拠点を任せる上で気をつけていくべきことを、主に人材育成の観点から伺った。
拠点展開で生まれる責任ポストと職員の成長
松本先生が拠点を増やそうと決断されたきっかけや背景などを教えていただけますか?
日本には昔から年功序列制度があり、上の世代が引退しないとポストが空かないので、若手にとってはモチベーションを上げにくい環境です。活躍する場がないと若手にとっても面白い仕事環境とは言えないのですが、だからといって高年齢層の世代に辞めてもらうのも違いますよね。そこで、「若手のためにポストを増やそう」と考えたのが拠点を増やすきっかけでした。
拠点を増やすということは、働き盛りを迎える若手に活躍の場を増やすことにつながります。一つ拠点を作れば責任者の席が一つ生じるので、その責任者の下に補佐を、さらにその下に幹部候補をと組織化していき、結果的に拠点展開も進んだ次第です。
また、既存オフィスの分割も増えています。最近では、新宿オフィスが手狭になったため、オフィス内で二つの班に分かれて、新宿に残ってさらに盛り上げてもらうメンバーと新規オフィスを立ち上げるメンバーとで役割分担してもらいました。
拠点ごとに伸びるスピードが違うこともあり、人員が増えてすでに大型化してきている拠点もあるので、今後も既存オフィスの分割を含め、拠点の増加は進むと思います。
拠点増加に伴って新たに管理職も必要となる中で、貴事務所で管理職の職員に求めるのはどのようなことでしょうか?
私がよく職員にする話に、中小企業の経営は社長の影響を良くも悪くも受けるというものがあります。組織は上に立つ人間が育たないとうまく機能できないという意味ですが、それはオフィス拠点も全く同じです。
拠点長をはじめ上に立つ人間は、職務遂行能力だけでなく、マネジメント力があって人の気持ちがわかる人でなければうまくいきません。このマネジメントや人格面の育成といった管理職を育てるための仕組化の必要性は強く感じています。ただ、それが一般的な管理職研修の受講だけで事足りるかどうかは判断が難しいところですね。
今までは拠点長になりたいという職員が自然と出てきたのですが、事務所の人数が増えるに従い、そういう意識を持つ職員が減ってきているため、拠点長の仕事のやりがいや魅力を、職員に認知してもらうことが必要だと思っています。
また、最近は逆に資質がある職員を管理職に「引き上げる」動きも始めています。
引き上げの判断基準は色々ありますが、まず一つは指示待ち人間ではなく自分で考えたり察したりして行動できること。もう一つは「おせっかい」であることですね。私自身が超おせっかい野郎なのですが(笑)、管理職として、メンバーが意欲的に働けるような声かけやサポートをするためには、メンバーのプライベートについても「知りたい」と思えるような人じゃないとうまくいかないと考えています。
今の拠点長は、私がプレイヤーだった時から一緒に仕事してきた、人柄や働きぶりを熟知しているメンバーがほとんどですが、今後はそうではないメンバーも管理職になっていかなければならない。その時のためにも、管理職の育成法を確立することが重要になると思います。
拠点が広がるとともに、職員が成長していると感じられたことはありますか?
先日スタッフ数名と昼食に行った際、今年で入所4~5年目のある女性職員が同席しました。話してみると、彼女も今では部下を持つ立場になり、部下の売上をいかに上げようかと真剣に考えていて、立派な先輩職員になっていたのです。
このように、職員が着実に成長する姿を目の当たりにすると、社内に人材の厚みというか組織としての層ができていく良さや、採用を継続して拠点やポジションを増やしていく意義を感じますね。
数多ある会計事務所の中には、お一人で活躍されている先生もいますし、そうした形を悪いとは思いません。ただ、一人スタッフを雇用した後、10年間誰も入ってこない状況というのは、在籍しているメンバーにとって、なかなか大変なのではないでしょうか。
それに、採用せず新人が入ってこないことで部下を持つ経験が積めず、何年経っても教える力やマネジメント力が身につきません。そうした状況は決して良いとは思いません。 今や私たち会計事務所は、税理士業界の中だけで戦っているわけではなく、その他の一般企業と競合する時代です。一般企業では当たり前のように組織作りを行い、自社の競争力を高めているので、私も業界に限らず、一般企業の動向も常に注目するようにしています。
当事務所としては、人数や拠点を増やすことが最終目的ではなく、あくまでも、税理士法人として適切な売上、適正な利益、従業員の満足度、会社としての将来性、そうしたもの全てバランスが取れる状態を理想としています。 今、当事務所はグループ全体で社労士法人も含めて200名規模です。500名までは今のままの成長スピードでも15年くらいで達成できる数字だと思っていますが、それよりも早く大きく成長しようと思ったら、むしろ経営者は私ではなく、それこそ別の「プロ経営者」を雇うようなことを考えてもいいのかもしれません。
今のところは、事務所の拡大よりも、社員にもお客様にも喜んでもらえる組織づくりのほうが優先度は高いと考えているので、拠点拡大についてはバランスを取りつつ進める予定です。
プロフィール |
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税理士法人松本 代表社員・税理士・行政書士 松本 崇宏
昭和53年1月生まれ、東京都葛飾区出身。税理士事務所、法律事務所の勤務を経て、2005年税理士試験合格。
2006年5月松本税務会計事務所開業。「情熱家であれ!」を理念に掲げた熱き専門家集団。 |