定年75歳。DX化に年齢の壁はない!
吉川正明が推し進める次世代デジタル化戦略

定年75歳。DX化に年齢の壁はない!吉川正明が推し進める次世代デジタル化戦略

株式会社イワサキ経営 代表取締役社長 吉川 正明

数ある会計事務所の中でも最先端のデジタル化に取り組んでいる株式会社イワサキ経営。2021年度に、日本商工会議所青年部会長を1年間務められた吉川正明社長は、デジタル化についての政策提言や意見交換会、デジタル庁副大臣との対談などを通して、高い視座から中小企業に必要なデジタル化を推進してきた。もともとはアナログのオペレーションがほとんどだったイワサキ経営を最先端のレベルまで引き上げた手法について、吉川社長に話を伺った。

自分が会社にいなくても仕事を回せる環境を作るため、ITを活用

貴社は国内随一の「デジタル化事務所」として知られていますが、もともとはアナログのオペレーションが大半だったと伺っています。
社長が事務所のDX化を考えたきっかけを教えていただけますか?

DX化を目指そうと考え始めたのは10年ほど前です。当時、私は日本商工会議所青年部の役職に就いていた上、セミナー講師も数多く引き受けていたため、全国各地への出張が多く、会社にほぼいない状況が続いていました。たまに会社に戻ると、机の上には稟議の決裁や契約書などの書類が山積み。目を通して印鑑を押すだけで、1日が終わることもありました。会計事務所の業務は会社にいないとできなかったため、出張の移動中に仕事ができれば、どれだけ効率的だろうと考え、自分が会社にいてもいなくても仕事を回せる環境を、ITを活用して構築することにしました。

スムーズにDX化への移行はできたのでしょうか?

できるところから始めようと考え、最初に取り組んだのは、過去の資料をすべてスキャンしてデータ化することでした。作業が完了するまで3年かかりましたが、資料をデータ化してクラウドに保存することで、当時、資料の保管用として3か所借りていた倉庫を解約でき、コスト削減につながりました。それまでずっと、お客様を訪問する際には大量の資料をバッグに詰めこんで現地に向かっていましたが、データ化によりスマートフォンで資料を確認できるようになったため、身軽に出かけられますし、忘れ物もなくなりました。

そして、次に着手したのがFAXのペーパーレス化でした。DocuWorksというソフトを導入し、送られてきたFAXは紙で出力せずに、データ化されたものを宛先ごとに総務部が振り分け、職員のパソコンのデスクトップ画面に表示する仕組みを作りました。これにより、外出先でもFAXを確認できるようになったのはもちろんのこと、決済や書類への押印も外出先でできるようにしたため、出張先から会社に戻った際に、机の上に書類が山積みという事態は解消されました。また、当時は毎月1,000枚ほど事務所にFAXが届いていたため、コスト削減にもつながりました。
その後、平成30年に新社屋を建てたのをきっかけに、DX化を一気に進めていきました。

新社屋でもDX化を推進。まずはフリーアドレスから

新社屋では、どのようにDX化を進めていったのでしょうか?

社員が働きやすい環境を満たすには、フリーアドレスが最適だという結論に至りました。そして私は、フリーアドレスこそがDX化推進の基本になると思っています。

例えば、外からかかってきた電話の取次ぎには、パートも含めて全職員にスマートフォンを支給し、代表電話にかかってきたものを受電した者が各人のスマートフォンに転送することで対応しています。この仕組みのメリットは、外出先でも代表電話にかかってきた電話に出られることです。電話の相手は、私が会社にいると思っていることもよくあります。また、席が決まっていないため、ペーパーレスを推進していくしかありません。先ほどお話ししたDocuWorksをうまく活用しながら進めています。

さらに、可動式のワゴンを各人に1台ずつ支給し、筆記具など個人の持ち物はそこに収めてもらっているため、全員が帰宅した後の事務所は、机とイスだけが整然と並んだ状態で、とてもすっきりしています。


新社屋に移転して2年後に、すぐにコロナ禍に見舞われましたが、コロナ禍でDX化が進んだ業務があれば、教えていただけますか?

コロナ禍では訪問に制限がかけられていたため、お客様と共有のフォルダを作ってデータを簡単にやり取りできるようにしたり、お客様のパソコンを遠隔操作できるようにして、監査をリモートで行える仕組みを作りました。監査自体は、事前に資料をいただき、あらかじめ内容を固めておきます。たまにお客様を訪問しても経営者と雑談だけをすることもあり、業務の進め方も変わってきたなと思います。

また、コロナ禍を機に、セミナーも対面からオンラインに切り替えました。本音を言うと、相続セミナーなどはオンラインだと集客は難しいと思っていましたが、これまで対面では参加できなかった方や、過去の参加者のご家族の方にもご参加いただいたため、結果として受講者が増えました。

一方、社内に目を転じると、DX化を推進することで、社員の働く時間が5年前や10年前と比べ、確実に減ってきたと思います。以前は21時頃まで残って働いていた社員もいましたが、現在では19時を過ぎたら社内に社員はほとんどいません。また、弊社では、在宅勤務も含め、一日の働き方を各人の裁量で自由に選べる体制をとっています。

在宅勤務については、仕事をさぼっていたり怠けている社員はいないという前提でさせているため、彼らに対する管理は一切していません。就業時間も自己申告で伝えてもらっているため、実際に何時間働いているかは把握していませんが、むしろ、働き過ぎていることが会社にバレないように過少申告している社員がいるのではないかと思っています。ですから、私からは「仕事は時間通りに切り上げてね」といった程度しか言っていません。

社長と職員との強い信頼関係を感じます。
ただ、在宅勤務者が多くなると、出勤している職員との間に情報格差が生じる危険性があると思いますが、その点はどのように解決しているのでしょうか?

その点はすごく気をつけなければいけないと思っていて、たとえば、会社に掲示物を貼っても、出社しなければ確認することができません。

そういうものが1つでもあったら、これは自由な働き方の推奨と相反することになるため、社内に告知物を掲示したり、社員全員が知っておくべきものを設置することは一切していません。また、以前は外出する際に、社内に設置してあるホワイトボードに行き先や戻り時間を書いていましたが、それもすべて取っ払ってしまいました。では、どうすれば情報格差をなくすことができるのか。色々と考えた末、自前のポータルサイトを作り、会社の情報はすべてそこに集約させました。

ポータルサイトでは、新着情報をサイトの中央付近で随時配信している他、セミナーの集客状況、弊社の就業規則、サービスの料金表といった、社員の知りたい情報を常に配信しています。また、社内研修をオンラインやハイブリッド型で実施していますが、これらの研修のオンデマンド動画もポータルサイトから見られるようになっています。さらに、このポータルサイトは社員の日常業務をより効率的にするために設計されています。日報提出や休暇申請も、すべてこのポータルサイトで完結できます。

例えば、日報はフォームに必要な情報を入力し送信ボタンをクリックするだけで、自動的に上司に通知され、フィードバックもオンラインで受け取ることができます。休暇や遅刻早退を申請する際も、申請フォームに必要な情報を記入して送信すれば、あとは上司の承認を待つだけです。申請のステータスもリアルタイムで確認できるため、安心して休暇の計画を立てられます。また、経費精算や勤務時間管理など、その他の業務もポータルサイトで一元管理できるので、複数のシステムを使い分ける手間が省け、業務効率が大幅に向上しています。このポータルサイトは社内のSEが作っているので、社員のニーズに対応できるものになっています。こちらは当社の職員しか見ることができません。

社内ツールにもDXを取り入れているのですね。
社員間の直接のコミュニケーションはどのようにとっているのでしょうか?

最近ではZoomを利用することはほとんどなく、LINE WORKSをコミュニケーションツールとして利用しています。Zoomだと軽いミーティングでも時間設定をして準備をしなければいけませんが、LINE WORKSだとLINE通話で気軽に複数人での打ち合わせができるので、非常に使い勝手が良いのです。職員間の打ち合わせなら、顔を映す必要はありませんから。

コロナ禍で、業界的にはバタバタしたと思いますが、当社ではこの段階ですでにDX化が進んでいましたから、動じることなく、スムーズに在宅勤務に切り替えることができました。コロナ流行があと数年早ければ、すぐに在宅勤務に移行できる体制ではなかったため、ものすごく苦労したと思います。

ベテラン職員に健康で長く働いてもらうために定年を75歳に

いち早くDX化を進めていたため、コロナ禍も乗り切れたわけですね。
他に何か、貴社ならではのDX化の取り組みがあれば、教えてください。

マニュアル関係ではないでしょうか。例えば、郵便物を郵送する際、切手代がいくらかとか、封筒にするかレターパックを使うかなど、いちいち郵便局のサイトで調べるのは面倒ですから、その場所にマニュアルがあれば便利ですよね。弊社では、ごみ箱やシュレッダーなど、いたるところにQRコードを貼っていて、QRコードをかざせば、ごみの分別のルールや、シュレッダーの使用方法など、それぞれのマニュアルがわかるようになっています。各自がマニュアルを簡単に確認できることで、社員間で使い方を教えあう手間も省けるというメリットもあります。

ただ、その一方で顧客管理のDX化に関しては、まだ道半ばという思いがあります。例えば、セミナーに私が参加した場合、株式会社イワサキ経営代表の吉川正明は、吉川正明という個人の顔も持っていますが、二人が同一人物だという管理がなかなか難しく、別の人物としてカウントされてしまうからです。個人のセミナー参加者は相続のお客様になる可能性がありますから、データの重複は解消したいところです。

生産性向上に向けて、これまで様々な取り組みを行ってきましたが、職員が辞めて代わりに新しい人が入社してということを繰り返すと、生産性は一時的に落ちてしまいますよね。そう考えると、ベテランの職員に健康で長く働いていただければ、これほど力になることはないですから、定年も75歳まで引き上げました。中には、高齢になるにつれ、DX化の波についていけなくなる方もいますが、当社ではそのようなことはありません。先ほどもお伝えしたように、当社は年齢に関係なく、すべての社員にスマートフォンを支給し、LINEなどのメッセージングアプリを通じて、部署間・社員とのコミュニケーションを活発に行っています。新しい機能が増えた際には、研修の時間を利用して操作説明をし、実際に操作する時間を設けて理解できるようにしています。また、DXについてわからないことがあれば、フリーアドレスの利点を活用し、周りの社員に気軽に聞きやすい環境を整えていますし、社内にはシステムに強いDXチームもいますから、彼らも丁寧に教えます。DX化に年齢の壁はありません。

プロフィール
株式会社イワサキ経営 代表取締役社長 吉川 正明

1996年に、現在の前身の事務所である「岩﨑一雄税理士事務所」に新卒で入社。1年目から資産税課に配属され、相続税申告業務中心に行う。1999年、社内に資産コンサルティング会社である㈱船井財産コンサルタンツ静岡を立ち上げその取締役に就任。2003年(平成15年)には、相続手続部門を立ち上げ、相続手続支援センター静岡を設立。また、2006年に法人化した際に後継者に指名され、株式会社イワサキ経営の専務取締役に就任。その後2013年に代表取締役に就任し現在に至る。

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